【祝・日間2位】胃痛でダンジョンを攻略せよ! ~冷酷王子に追放された補佐官、最強スキルを手に入れる~
腹部の鈍い痛みとともに、彼は意識を取り戻した。
「おはよう、トゥレン君。ようやくお目覚めだね」
聞き覚えのない声がする。
まだぼんやりする視界の中、薄眼を開けると黄金色の塊が燦然と輝いている。
それを見た時、彼はギョッとした。
「は!? な、何ですか、あなたは!」
思わず飛びすさる。
そこにいたのは一羽の鳥。
黄金の羽毛に覆われた、真ん丸な体。
そして――やたらと目つきが悪い。
「嫌だなあ、忘れたの? 僕は伝説の神鳥、黄金鳥。親しみを込めて、おうごんちょって呼んでね」
「そういう問題ではありません! 鳥が喋るなど非常識でしょう! そもそもここはどこなんですか!?」
せわしく辺りを見回しながら、彼は高速で脳を回転させて記憶をたぐり寄せる。
彼の名はトゥレン。
とある王国の王子に仕える忠実な補佐官だった。――つい先ほどまでは。
なぜか突然、王子の機嫌を損ね、彼は追放されたばかりだった。
その衝撃に思わず血を吐いて倒れ、目が覚めたらここにいたのである。
ここは――洞窟?
「ここはダンジョンの入り口だよ! ようこそ勇者の洞窟へ。僕はトゥレン君専用のナビゲーターだよ!」
「だ……だんじょん……?」
「とりあえず中にいるモンスターと戦って経験値をためて強くなって、最後の敵を倒せば終わり! ね、簡単でしょ?」
何が簡単なのだ。トゥレンはまだ混乱しながらも内心で毒づいた。
「私は文官ですよ? 剣などこれまでの人生で一度も持ったことはありません!」
「そこ、誇るところかなぁ……。まあいいや。心配しなくても大丈夫! ちゃんとここに転送されてくる時に、戦うためのスキルは付与されてるからね」
「はぁ……」
「ほら、試しにそこのモンスターを倒してごらん? 強く念じればビームか火球か何か出せるはずだから!」
「何ですか、その雑な説明は!」
トゥレンは悲鳴混じりに叫んだ。おうごんちょとやらに詰め寄ろうとしたが、自称神鳥はすばしっこく飛び去り、手の届かないところへ避難してしまった。
そして彼の目の前には一匹のモンスター。
そもそも彼は「もんすたー」などという言葉を聞いたことはないが、ひとまず友好的な相手でないことは直感でわかる。
そのもんすたーとやらは、まるでおうごんちょに生き写しの姿だった。
丸々とした球のような体つき。
人を小馬鹿にしたような舐めた目つき。
ただ違うのは、その身を覆う真っ黒な羽と、猛禽類のごとく鋭利な嘴と爪。
攻撃されれば、もやしのような貧弱な彼の肉体はたちまち切り裂かれてしまうだろう。
トゥレンはこれ以上ないほどの緊張を強いられていた。
文官であり、絶対に戦地へ行かない軍師である彼は、今までに一度たりとも敵と一対一で向かい合ったことがない。
彼の頭脳は大軍を動かして国を攻め滅ぼすことも可能だが、その体はあまりに弱く、十二歳の子供にすら敗北するほどなのだ。今年で二十六を迎えた成人男性であるにも関わらず。
だが、今は自力でどうにかするしかない。
彼はその黒い鳥と正面からにらみ合った。
神経が焼き切れるほどの精神的負荷。
もともと弱り切った彼の胃袋はますます締め上がり、ついには破裂した――ような気がした。
パァンッ
まるで胃袋がはじけ飛ぶような音とともに、目の前が真っ赤に染まった。
またしても吐血したかと彼は思わず目をつぶったが、そうではなかった。
「これは……どういうことです……?」
恐る恐る目を開けると、丸い黒鳥が地面に落ちてぴくぴくと痙攣していた。
「おめでとう、トゥレン君! 経験値が入ってちょっとだけ強くなったよ!」
「は、はあ……」
彼はもはや理解することを半ば放棄していた。
しかし、生意気な面をしたおうごんちょはおどけた様子でくるくる回り、喜びの舞を披露する。
「君が得た能力は、『胃痛を魔力に変えるスキル』だよ! ストレスで胃痛が増大するほど君は強くなる! このストレス社会では最強クラスのスキルだね!」
言っている意味はよくわからなかったが、褒められていないことだけは嫌というほど伝わる。
彼は思わず頭を抱え、天を仰いだ。
急激に高まる胃痛とともに、全身にとてつもない力がみなぎってくる。
彼の胃痛は膨大な魔力へと変換され、やがて勇者の洞窟を満たすだろう。
これが追放された元補佐官トゥレンの冒険の始まりだった。
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トゥレン君の冒険の続きを是非お楽しみください。




