# 第二十六話 止まった配信
# 第二十六話 止まった配信
【助けて】
405号室のPCモニターに、
その文字だけが浮かんでいた。
真っ暗な部屋。
閉め切ったカーテン。
古い機械の熱。
空気が重い。
「…………」
誰も喋れない。
ひまりなんて、
完全に俺の背中へ隠れていた。
「帰ろう?」
「まだ入って三秒だぞ」
「十分怖い!」
怜司は、
モニターをじっと見ていた。
その表情は、
今までよりずっと真剣だった。
「……これ」
小さく呟く。
「配信待機画面だ」
「え?」
怜司がPCへ近づく。
机には、
埃を被ったマイク。
ヘッドホン。
空のペットボトル。
生活感だけが残っていた。
「この人……ずっと配信してた」
「知り合いだったのか?」
俺が聞く。
怜司は少し黙る。
それから。
「……名前はカイト」
「ゲーム配信者」
「登録者は俺より全然多かった」
悔しそうに笑う。
でも。
その笑顔は少し寂しかった。
かなめが部屋を見回す。
「……急に消えた感じしますね」
確かに。
椅子も引いたまま。
飲みかけのペットボトル。
まるで、
さっきまで誰かいたみたいだった。
その時。
カチッ。
突然、
PC画面が切り替わった。
「っ!?」
全員硬直。
配信画面が開く。
そこには、
録画データ一覧。
一番上。
【最後の配信】
日時は、
半年前。
怜司がゆっくりマウスを握る。
「……見る」
「えぇ!?」
ひまり悲鳴。
でも。
誰も止めなかった。
カチッ。
動画が再生される。
ザザッ……
ノイズ。
暗い画面。
そして。
若い男の声。
『……聞こえてる?』
部屋が静まり返る。
画面には、
やつれた青年。
ボサボサの髪。
眠ってない顔。
でも。
どこか怜司に似ていた。
『最近さ』
『なんか、変なんだよ』
笑おうとしてる。
でも。
かなり無理してる。
『夜になると、
誰かいる気がして』
『配信切っても、
部屋の外で音するし』
ひまり、
もう目を覆ってる。
だが。
動画は続く。
『でも、一番変なのは』
カイトが、
ゆっくりカメラを見る。
『春風マンションの奴ら、
みんな優しいんだよ』
「……っ」
結衣が息を呑む。
カイトは少し笑った。
『俺、ずっと一人でいいと思ってた』
『でも』
『ここ来てから、
なんか生きてていい気がして』
怜司の指が止まる。
画面の向こうで、
カイトは少しだけ泣きそうに笑った。
『だからさ』
『もし俺が消えても』
『春風マンションのこと、
嫌いにならないで』
その瞬間。
ザザッ!!
画面が大きく乱れた。
ノイズ。
真っ黒。
そして。
最後に、
小さく声が入る。
『――逃げろ』
ブツッ。
動画が止まった。
405号室が静まり返る。
誰も動かない。
怜司だけが、
モニターを見つめていた。
その時。
部屋の奥。
閉まっていたクローゼットから――
コン。
小さな音がした。




