19話
チユキちゃんは、跳んだり跳ねたりできる。それはとても、凄いことだ。僕も、そんな力が一つでも欲しかった。
チユキの力なんて、凄くないよ、と誰かが言う。だって、異能じゃないもん、と。
それを聞き、チユキが言う。
大好きなママがすごいって、えらいって言ったんだから、すごいに決まってるもん。わたしは、それを信じるもん。
ガクは、我に返り、息を飲む。そこは、闇に包まれた路地裏だ。首筋に冷たい感触―チユキの刀。少し力を込めれば、動脈は断たれ、死ぬだろう。
「私と来るの?」
ガクは生唾を飲み、
「行かない。僕は、ここで生きていく。チユキも一緒にここで生きよう」
そう言って、素手で刀を掴む。皮膚が切れ、血が滲む。ぽたぽた、と血が零れる。
チユキは、ぼんやりと、ガクを見ていた。ガクは刃を掴んだまま、立ち上がり、
「世界は増やせる。そうでしょ」
チユキは、少し呆れたように微笑む。
「うん……そうだね」
チユキは、刀から指を離した。そして、大きく息を吸う。そして、虚空に向けて、
「終わりましたよ~」 先ほどとは違う、明るい声。
ガクが呆気に取られていると、路地裏の奥から大きな人影が現れる。
「良くやったな、ガク」
ガクは、その野太い声を知っていた。
「どうして……あなたがここに?」
フェルグスは頭を下げ、
「すまないが、お前がアイメルトのスパイでないことを確かめさせてもらった」
えっ、と声を上げ、ガクは、フェルグスとチユキを見比べる。チユキは刀の血を払い、鞘に戻す。そして、包帯を取り出すと、申し訳なさそうな顔で、
「フェルグスさんに頼まれたんだよ~痛かったよね。ごめんよ」
「ええ……」
ガクは呆然とする。
フェルグスは、チユキに視線を移す。お前から説明しろ、と言うことだろう。
チユキは包帯を巻きながら、
「アイメルトの落とし子が、社会復帰する為の活動をしてるんだ。でも、まだアイメルト家の残党が居たりするせいで、それも難しくてさ~」
そこで、とチユキは、フェルグスに視線をやり、
「北部同盟に、アイメルト家残党に投降を促してもらってね。で、私は、投降してきた者がスパイじゃないかを検査する仕事をさせてもらっているんだ」
「じゃあ……つまり演技……?」
フェルグスは痰を詰まらせたように咳き込み、チユキは、ガクに抱き付き、
「ごめんよ~痛かっただろう」
ガクは脱力し、地面に倒れ込みそうになる。
「殺されるかと思った……」
「ガク、お前の覚悟は本物だ。今日から、本当の意味で、北部同盟の騎士として働いてもらう」
そう言って、フェルグスは、手を差しだす。ガクは、チユキに手を借り、立ち上がる。
「ガクの医学知識と、植物操作の力があれば、異能を戦闘だけじゃなく、様々な分野での異能の生かし方を考えられるかもしれない。力を貸してほしい」
ガクは、チユキに支えられ立つ。そして、フェルグスの手を握りしめた。
「これから、よろしくお願いします」
これが、僕の新しい世界だ―
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