18話
チユキが脚を踏み出す/瞬時にチユキの筋肉が硬質化/凄まじい速度でガクへと接近/空気が切り裂かれ、甲高い風切り音が響く。
ガクは、全神経を集中させる。チユキの周囲の温度は一定だ―氷の生成はない。つまり、本当の居合が飛んでくる。今、飛び込んで、居合を止めるしかない。チユキの右手を止める、今はそれに全神経を集中させるのだ。
ガクは《加速》を発動/世界が無音に/心拍の音だけが狂ったように聞こえる/脚を踏み出し、瞬時にチユキへと接近。
全てがスローになる中、チユキの目は、ゆっくりとだが、加速するガクの動きを正確にとらえ続ける。その瞬きは、異様に少ない。
ガクは、内臓が掴まれたような恐怖を感じる。加速する世界では、相手から自分を認知されるという事があると思わなかった。だが、こうしてチユキは対応してきた。
まずい―ガクが、そう思った瞬間、白い靄が浮かび上がる/氷の結晶が、触手のように、枝を伸ばし、花を咲かせていく。ガクの手前と、チユキの右の壁の二か所で氷が生成されていく。
ガクの脳が回転―前方の氷で目潰しをするつもりか?
ならば、ガクのやることは変わらない。チユキが右手で抜刀する前に、自分の攻撃を通すしかない。ガクは脚を踏み出し、チユキへと接し、剣を薙ぐ。
ごおっ、と風の音がする。世界に音が戻る。
チユキは咄嗟に、右の壁に向かって跳ぶ/重力を無視するかのように、垂直に壁に着地/そして、そのまま壁を走る。
ガクの剣は、虚空を切り、壁に叩きつけられる。
「なっ……!」
ガクの心臓が激しく鼓動し、世界が速度を落とす。恐怖のあまり、無意識に《加速》を発動させていた。
砕け散った壁の破片が、ゆっくりと舞う/それらを避け、チユキは体の軸をブレさせることなく、当然のように壁の上を駆ける。先ほどの氷の生成は、壁を走るためのものだったのだ。
チユキは左手で刀を抜く―氷で身体と鞘を固定したのだろうか、片手でありながら凄まじい速度/逆手でガクを追撃/丁度、ガクが刀に突っ込む形になってしまう。
ガクの背骨に、ごっ、と言う鈍い音が響き、世界に音が戻る。鋭く、鈍い痛みが、全身を貫く。遅れて、パラパラと、壁の破片が落ちてきた。
息ができない―
三度も《加速》を使ったのだ。ガクの身体は限界を迎えていた。溺れるように、口を大きく開け、息を吸い込む。
倒れ、喘いでいるガクを、チユキが見下ろす。白い刃先が、ガクの首筋に当たる。
「最後に聞くね。私と来る気、ない?」
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