13話
ガクは、自室で剣の素振りをしていた。
チユキの言葉が蘇る。 ガクも一緒に来ない?
夢にまで見たアイメルト家騎士団、そこに入れるかもしれない。だが、事実上は解散した組織だ。当然、アイメルト家とは関係がないはずだし、関係を否定するだろう。
彼らに参加すれば、当然、北部同盟―フェルグスの敵となる。
夢、かつての目標―異能を使いこなす騎士となり、最前線で戦う。その為だけに、全てを駆けて稽古を続けてきた。
だが、ふと北部同盟の騎士が言っていた言葉を思い出す。
子供に異能を発現させようと実験をするなんて狂ってる。連中が滅んでよかった。
そうかもしれない。ふと、呟いてしまう。
チユキも、ガクも、異常な環境に居たせいで分からなかった。温かい食事と、ふかふかのベッドさえあれば、どんな苦行でも耐えられた。例え、仲間が死んでも、孤児院よりはマシだった。
10歳にも満たない子供が、苦しみ、死んで行くという異常な環境。それを当たり前として受け入れていた。苦痛を、神の祝福だと捉え、アイメルト家騎士団の異能者たちを崇拝した。
死を伴う危険な稽古を潜り抜けたが、ガクもチユキにも大した能力は発現しなかった。チユキは植物の声を聴き、専用の薬品を使うことで、少量の氷を生成するしか出来ない。
死者を出してまで、やるべきだったのか?
自分の選択が間違っていたことも分かっている。だが、それを選んだ自分を、騎士団の異能に憧れた自分を、ガクは否定できない。
ガクは、異能としての限界を指摘され、騎士ではなく、医者になることを進められた。だが、異能を扱う騎士として、最前線に立つことだけを目標にしていたガクにとっては、到底受け入れられなかった。
戦場で実戦を経験すると、異能が目覚めるかもしれない。そんな甘言に従い、ガクは、アイメルト家騎士団を離れ、それに従属する傭兵団に入った。だが、結果は散々であった。
役立たず、出来損ない、異能が使えないのかよ―
傭兵の言葉が蘇る。今になってやっと、その通りだ、と冷静に受け止めることができた。自分の現実を受け止め、逃げてばかりいたのだ。異能にすがり、自分の選択肢を正当化するための行動だった。
だからこそ、残党に参加すると言うのは、愚行としか思えなかった。
ガクは、ベッドの上に倒れこむ。
チユキの抜刀術は凄い。おそらく、内臓の位置が変わり、骨がすり減るような、苛烈な訓練を乗り越えたのだろう。
ガクの脳裏に、チユキの身体が浮かぶ。しなやかで、丸みを帯びた柔らかそうなフォルム。しかし、その奥には、鋼鉄のような強靭な筋肉がある。
ガクが突き放そうとした時、チユキは軽い動作で避けた。その時、ガクは無意識の内に植物の力で、チユキの身体を走査した。そこで見たのは、全身の筋肉の凄まじい柔軟性と、追従性だった。
無駄な力は微塵も入っていない完璧な動き。だが、咄嗟に力を込めた際、必要な筋肉が一瞬で鋼のように硬直し、同時に伸縮する。自分の身体を使いこなすという当たり前の事を、極限まで高めた者にしかできない動作。
抜刀術を極め、得られた驚異的な技術。だが―ガクは一人、呟く。
苛烈な稽古を乗り越え、外部からは狂っていると言われ、それでも身に着けた技術が暗殺術とは。それでは戦のない世の中では生きていけない。戦争が終わっても、日陰で過ごすしかない。
「ちくしょう……なんでだよ」
アイメルト家騎士団に入るという選択肢が間違っていたことを認めなくてはならないのか?
「違う……ベルタも、チユキも間違ってない」
ガクは震える。間違えていると認めたら、みなが、自分が、報われない。
もう一人の自分が冷たい声を発する―選択が間違えていないと思うなら、なぜ、もう一度騎士団の残党に参加しないのか?
「どうすれば良いんだ……」
ガクはため息をつき、ロウソクの明かりを消す。
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