12話
「何?」
「今、アイメルト家騎士団の残党が再集合して、もう一度、戦いを起こそうとしてる。ガクも一緒に来ない?」
ガクは、震えた。北部同盟に奪われた覇権を取り戻すべく、集結する者たちがいることは聞いていた。だが、そんなのは絵空事だし、愚かな行為だ。
「何を……言ってるんだよ。戦いは、もう終わったんだ」
「終わってないよ」
ガクは、真っ直ぐなチユキの瞳に気圧される。ガクの胸の中がざわつく。
「どのみち……戦力なんて……ない」
苦し紛れに、ガクが言う。
「戦力なら、あるよ」
チユキは、腰に付けていた白鞘の剣を、ガクに見せる。曲刀だろうか、湾曲していることが鞘の上からでも分かる。
チユキは、ふふ、と微笑み、持っていた花を空中に投げる。チユキの手が、腰の剣に伸びる。滑らかな動きで、細い指が、柄にそえられる。
ガクは、一瞬で空気が変わった戦友を見て、息を飲む。
チユキは、腰辺りに鞘を移動させる/鞘を左手で掴み、引き出す/剣の柄に右手を掛ける―手首が柄より下に来るような奇妙な構え―
火花が散り、遅れて凄まじい風切り音がした。
「なっ……」
一瞬だけ、チユキが手を振ったのは見えた。しかし、何をしたのかまではガクには分からなかった。ひらひらと花弁が舞う。それは三等分に切り裂かれていた。
しゅおん、と鋭い金属音が鳴る。気が付くと、チユキが剣を鞘に納めていた。
数秒で繰り出された正確無比な斬撃。
「こ……これは」 ガクは狼狽え、眼を白黒させる。
「居合って言うんだよ。抜刀術の一種でさ、東洋の技術みたい」
チユキは、ふん、と鼻息を鳴らし、
「どうよ!」
ガクは、呆然と、切れた花を眺めていた。
チユキの異能は、氷を生成する《氷華》だったはずだ。異能のランクとしては、最下階になる。
「これが……訓練の成果?」
異能ですらない、ただの抜刀術。それを見せられ、どう反応して良いか分からない。てっきり氷の異能を見せられるとばかり思っていた。
「そうだよ! 私、浅紅って呼ばれているんだ」
万弁の笑みを浮かべるチユキを見て、ガクは必死に言葉を探す。閃光? 確かに見事な抜刀術だ。精度も高く、速度は尋常ではない。だが、これでは―
「すごい……ね」
ガクは、自分の笑顔が引きつっていないか心配だった。
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