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八重咲の勇者 ~最弱スキルで最強になれ~  作者: 賢河侑伊
第二部 浅紅の居合い娘 編
10/18

11話

 路地裏ろじうらやみが支配し、すえた臭いがした。空気が湿しめっており、地面はぬかるんでいた。


 ガクは周囲を見渡し、約束の場所であることを確認する。すると、闇の中、マントを被った人影が見えた。


 人影が立ち上がり、フードを外す。すると、闇の中に光が差したかのような錯覚を覚えた。


「うっす~」


 朗らかなソプラノが響き、桃色がかったボブが揺れる。そして、ぱっちりとした瞳を輝かせ、チユキが微笑む。


 一瞬で、過去がよみがえる。


『すごいねぇ! えらい、えらい!』


 数年間、ガクとチユキは共にアイメルト家騎士団に居た。騎士見習いとして、異能を発現はつげんさせるために稽古を行っていたのだ。


「久しぶりぃ~5年ぶりかな」


 まるで飴玉を転がしているかのような、甘ったるい語尾ごび。あの頃と、何も変わらない。しかし、髪は短くなり、身長も伸びていた。それに、身体は丸みを帯びていた。


「ひっ……久しぶり」


 目を伏せ、それをさらに泳がせる。すると胸元に目が行く。服を押し上げる、柔らかそうなふくらみ。


 ガクは息を飲み、視線を逃がす。


「どしたの~緊張しちゃって」


 チユキは、肩を組もうと、身体を近づけて来る。温かく、柔らかい感触に、ガクは、びくっとする。もっちりとした、重たい物がひじに当たる。


「こ、子供じゃないんだから」


 そう言って、ガクは、チユキを突き放す。しかし、それを読まれ、チユキは避けた。


「残念でしたぁ~」


 悪戯っぽく、チユキは歯を見せて、微笑む。昔と変わらない仕草。


 ガクも釣られて笑い、


「げ、元気だった?」


「見ての通りだよ~」


 チユキは両手の指を広げ、わしわしと開閉しながら、ソプラノの声を響かせる。


「良かった……」


 ガクは、壁に寄りかかり、片手を抱える。


「みんな、死んじゃったかと思ってたよ」


 戦乱により、アイメルト家騎士団は、大きな被害を受けた。アイメルト家騎士団を離れたガクには、誰が生きているか分からなかった。


 ガクは、チユキが黙ったのを見て、顔を一瞥いちべつする。一瞬だけ、チユキが目を伏せる。


「誰が―」 ガクは絞り出すように声を出す。死んだの、とは訊けなかった。


「ベルタ」


 チユキの言葉に、ガクは頭を殴られたような感覚を覚える。ベルタ―長髪で、小柄な少女の姿が浮かぶ。


 ガクは歯噛みし、胸を押える。喉の奥に何かが詰まったような錯覚。頭が真っ白になる。


 チユキ、ベルタ、ガク。3人は、アイメルト家騎士団の見習いの中でも、落ちこぼれのトリオだった。


 ベルタは一番の落ちこぼれだったはずだ。戦地に行くはずはない。


「どうして……ベルタが?」


「分からないんだ……私も、異能の副作用が原因としか聞いてない」


「そっか……」ガクは拳を握りしめる。


 ガクやチユキのような子供は、「アイメルトの落とし子」と揶揄される。アイメルト家が異能の実験台として使い、戦後には維持できなくなった大量の孤児の事だ。


 「アイメルトの落とし子」は行き場を失い、多くが飢えて死んだ。生き延びた者も、多くは傭兵や盗賊になり、命を落とした。ここで、二人が出会えているのは奇跡だった。


「悔しいよね」チユキが唇を噛み、


「ねぇ、ガク、訊いてほしいことがあるの」

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