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カレンの人助けを協力すると約束した後、これからどうするかを話し合っていると、家のチャイムがなった。
「誰だろう?」
「ああ、多分、マヤちゃんだよ」
「マヤさん?」
「うん。私が呼んだの」そう言って玄関に向かったカレンは、一分と経たずにマヤを連れてリビングに戻って来た。
「昨日ぶり、エレン」
「あ、はい」
「なーにー? テンション低めじゃん? もっとアゲテこうよ」
「いや、無理ですって。昨日から色々あり過ぎて、まだ全然頭が追いついていないのに。その上、お姉ちゃんがまた無茶なことを言い出すし……」
「それって、カレン姉が予知した人の死を未然に食い止めようってやつでしょ?」
「知ってたんですか?」
「ううん。さっきカレン姉からDMが送られて来てね。面白そうじゃんって答えたら、だったらマヤちゃんも一緒にやる? って誘われて」
「軽い! 二人ともノリが軽いよ! これ結構、大変なことしようとしているはずなんだけど!?」
「えー、でもさ。深刻になっても状況は変わらんわけじゃん? だったらリラックスしてやった方が、結果は良くなると思うんだけど?」
正論なんだよなあ。
でも、全然緊張感がないっていうか……。
「お姉ちゃん、どうしてマヤさんまで誘ったの?」
「え? だって、助けてくれる人は多い方がいいでしょ?」
出た、陽キャの理論。
誰かに助けを求めるなんて発想、私にはまず出て来ないものだ。
「それに、マヤちゃんは、私と同じように不思議な力が使えるし、いざという時、頼りにもなるかなって」
それでいて決して考えなしに行動している訳じゃない。
ああ、何か前世で姉に抱えていたコンプレックスが再発しそう……。
「まあ……、マヤさんが良いなら私は構いませんけれど」
「え、むしろこんな話、ハブられたらマジギレするし。今のあんたがどう思ってるか知らないけど、うちはエレンの親友のつもりなんだから」
真剣な眼差しを向けられカレンは俯く。
こんなに真っ直ぐに親愛の情を向けられたことは、前世ではほぼなかった。
たった一人だけ、最後まで私を案じてくれていた人が居たが、その人のことも私は遠ざけてしまった。
それを後悔しているのかどうかさえ、今はもう分からない。
ただ、この転生に意味があるのなら、少しだけ勇気を出してみてもいいのかもしれないと思った。
『――大丈夫だよ、この二人なら』
不意に声が聞こえた気がして、エレンは顔を上げる。
「エレンちゃん、どうかした?」
「う、ううん、何でもない」カレンにそう答えたエレンは、マヤの方に顔を向ける。「それじゃあ、マヤさん。よろしくお願いします」
「りょ」マヤが苦笑を浮かべて答える。「……ああ、っていうか、まだエレンに敬語で話されるの慣れないわ」
「ごめんなさい。なかなか前のようには出来そうになくて」
「いいよ。エレンが話しやすいようにしてくれたら。……それで、カレン姉。これからの予定はどうなってるの?」
「うん。まずは明日の早朝、交通事故が起きるから、それを防ぎたいんだけど……」
「え? 交通事故? 珍しいね?」
「そうね。交通事故自体は、年に数件は発生しているけど、死亡事故っていうのは私も聞いたことがないわ」
エレンの転生したこの世界では、車は完全自動運転化されており、前世と比べて交通事故は格段に減っている。カレンとマヤが驚いているのもそうした理由があった。
「それで、その事故はどこで起こるの?」
「分からないの」
「「え?」」エレンとマヤが同時に声を上げた。
「この近所ではないことは確かなんだけど……」
「何か、手掛かりになるようなものはないんですか?」エレンが尋ねる。
「うーん。私の予知だと見通しの良い田園地帯だったんだけど……」
「ちょっと、カレン姉。私の目を見てくれる?」
「え? う、うん、分かった」
それからしばらくの間、カレンとマヤは目を合わせ続けた。