75
マヤが渡良瀬の記憶を読むことに失敗した。
それはエレンが知る限り、初めてのことだった。
「おかしいなあ? 何でなん?」マヤが釈然としない様子でエレンに言う。
「いえ、私に聞かれても……」
「精神系の能力は、イレイザーズに効きづらいって、前に仲間から聞いたことがあります。もしかしたら、お姉様もそうなんじゃ?」
メイの意見にマヤは首を傾げる。
「でも、あのチャラ男の記憶はちゃんと読めてたよ?」
マヤがそう答えると、全員が黙り込む。
そんな中、ソウが手を挙げて言った。
「斉木さん、俺の記憶で、俺のじいさんの記憶を読むことが出来るか試してもらってもいい?」
「何、急に? どして?」
「ちょっと、気になることがあってね。理由は後で話すよ」
「はあ? まあ、別にいいけど」
マヤは言われたとおり、ソウの記憶を読もうとした。
すると、すぐに、「あれえ?」とマヤが声を上げた。
「何でだろう? 全然、上手く行かない……」
「やっぱりか!」
「兄さん、どういうことですか?」
そう尋ねたメイにソウが仮説を口にした。
「おそらくだけど、斉木さんが人の記憶の中で、更に人の記憶を読むには、その対象が生きている必要があるんじゃないかな」
「でも兄さん。たしかに、おじいちゃんは随分前に亡くなっていますけど、あのイレイザーズの男は、まだ生きているはずですよ?」メイが反論を口にする。
「そうだね。でも、渡良瀬は、斉木さんにイレイザーズとしての記憶を消されてしまったんだろ? だったら、それはイレイザーズとしての渡良瀬が死んだようなものなんじゃないか?」
「うーん。何か強引な気がしないでもないけど……」
マヤは懐疑的な態度を見せたが、エレンはその可能性は十分にあると思った。
ただ、何だろう?
何かが引っ掛かっている気がする。
それを口にする前に、「まだ、憶測の域を出ない話だからね」とソウが言った。
「今のところ、はっきりした証拠もないし。このことは後で確かめることにしよう」
「兄さんにしては珍しいですね? こういうこと、確かめずにはいられない性質のくせに」
メイの言葉に、ソウの視線が一瞬だけエレンと重なった。
だが、ソウはすぐに視線を逸らすと、「優先順位の問題だよ」と言った。
「今は、次のイレイザーズにどう対処するかとか、いろいろ決めなくちゃいけないことがあるからね」
なるほどもっともだと、エレンは思った。
だが、どうにも話を逸らされたような違和感が拭えなかった。




