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ソウの言っていた通り、少し休むとマヤの体調はすぐに回復した。
ただ、能力の使用については、しばらく控えた方が良いとのことだった。
「体力が回復し切っていないときにまた無茶すると、どんどん回復が遅くなるからね」
「風邪引いたときといっしょだ」
「うん。まあ、似たようなものかな?」ソウは適当な相槌を打つと、マヤに尋ねる。「それで、どうだった?」
「あー、うん。多分、上手く行ったと思う。こいつの中にあったもう一つの記憶を引っ張り出したら、イレイザーズの記憶が消えて行くのが分かったし……」
「マジか!?」
「うん」
マヤの返事に、ソウとメイが顔を見合わせる。
二人とも、信じられないといった表情だ。
「まさか、本当に上手く行くなんて……」
「兄さん、これって、すごいことですよ!」
険しい顔のソウとは対照的に、メイは珍しく興奮した様子を見せる。
その場でぴょんぴょん跳ねる様を見て、「え、可愛い」とマヤが零した。
これにはエレンも同感だったが、口にはしない。口にすれば、きっと睨まられる。
「あー、何か、二人で盛り上がってるけど、これそんなにすごいことなん? まあ、うち的には、シュウ君を助けられる手掛かりが見つかってラッキー、みたいな感じなんだけど?」
「いや、かなりすごいことだよ。正直、驚いてる」
「私たち、今までイレイザーズに対しては、防戦一方でしたから。攻勢に出られる手段が見つかったのって、これが初めてで……」
「そうなん? でも、今までだって、仲間は居たんでしょ? うちみたいなことが出来る人、居なかったの?」
「相手の精神に働きかける能力者は他にも居たよ。でも、斉木さんみたいに、イレイザーズの記憶にまで影響を及ぼせる人は居なかった」
「えー、何? じゃあ、うちってもしかして、かなりレアキャラなん?」
「それはもう! SSRくらいレアです!」
「ほう……、ん?」
メイさんって、ソシャゲとかやるんだ……。
「でも、他には、あんまり情報は得られなかったなあ」
「いや、十分だよ。少なくとも、これでシュウジ君を助けられる方法は見つかったわけだからね。大収穫だ」
「ですね」と、メイが頷く。
「とりあえず、今日はみんな疲れただろうし、家に帰ってゆっくり休もう。これからのことは、また明日、図書館に集まって話合うってことで」
「え? この後、遊んでかないの?」
マヤがそんなことを言ったので、「マヤさんは、本当に休んでください」と、エレンはきつめの口調で言った。
◆
エレンたちがレジャープールを去って三十分くらい経ってから、休憩スペースに放置されていた渡良瀬の前に一人の女性が姿を現わした。
病的なほどに白い肌と乏しい表情、周囲の人間が水着を着ている中、ただ一人白衣を纏うその女性は明らかに浮いていた。
だが、彼女が異質であるのはその装いではなく、誰一人として、その存在に目を向けようとしない所にあった。
女性は、足元に転がっている渡良瀬を見下ろすと、僅かに目を細める。
「まったく、余計な仕事を増やしてくれて……」
自分たちSVは、この世界を維持するために生み出された特別な個体だ。
相手が能力者とはいえ、人間ごときに遅れを取ることなどありえない。
それなのに脱落者が出てしまった。
こんなこと、今まで一度もなかったのに……。
「危険ね。あの子たち……」女性はそう言って、渡良瀬の頭に手を当てる。
すると、渡良瀬の体が光の粒となり、まるで砂のように崩れ始めた。
残されたのは、渡良瀬の履いていた水着だけ。
女性はそれを汚物でも扱う様に摘まみ上げると、近くにあったゴミ箱に放り投げる。
だが、そんな異常な光景さえ、見ていたものは一人もいなかった。




