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 ソウたちとファミレスで会議をした翌日の午前11時。

 次の人助けについて、エレンたちは学校近くの図書館に集まることになっていた。

 しかし、今朝方、とある事情で急遽予定を変更し、エレン宅に集合することになった。


 事の発端は、昨日夜遅くに掛かって来たマヤからの電話。


「エーレーン。……どうしよう。うぢ、もう、ダメがもじんない」


 いきなり鳴き声でそう言ったマヤは、ひどく取り乱した様子だった。


「どうしたんですか、マヤさん!?」


「うぢ……、うぢ……。う、うええーん」


 エレンが何を訊いても、マヤは泣いてばかりでまるで要領を得なかった。

 これでは埒が明かないと考えたエレンは、マヤの家まで行くことにした。


「マヤさん、ちょっと待っていて下さい。すぐ、そちらに向かいますから」


 エレンが、電話口でハウリングするマヤの鳴き声にそう言うと、自宅のチャイムが鳴った。

 こんな時に一体、誰?

 バタバタと足を鳴らして、エレンが玄関に向かうと、そこには目を真っ赤に腫らしたマヤが突っ立ていた。


「エレーン」


 スマホを耳に当てたまま、まるで子供のように泣きじゃくるマヤを、エレンは急いで自宅に入れた。

 それから冷たい飲み物を飲ませて落ち着かせ、冷水で濡らしたタオルで目をに当てさせた。

 甲斐甲斐しく世話を焼き、やがてマヤが泣き止むと、エレンは事情を尋ねた。


 すると、どうやら、シュウジと喧嘩をしてしまったらしいことが判明した。実にしょうもない理由だと拍子抜けしたものだが、マヤにとってはこの世の終わりのような出来事だったらしい。


「……それでこの有様な訳か」


 メイと一緒にエレン宅までやって来たソウは、通されたリビングの惨状を見てそう言った。

 そこには椅子にもたれかかったまま、抜け殻のように天井を見上げるマヤの姿があった。


「終わったあ。シュウちゃんに嫌われたあ……。もう、だめだあ。うちの人生、マジで終わったぁ……」


 ソウとメイには、予め、掻い摘んで事情を説明していた。しかし、想像以上にマヤが凹んでいたので、二人とも大層、驚いていた。


「お姉様。何て、お労しい……。弟さんに嫌われたのが、相当、ショックだったんですね」


「いやあ、姉弟喧嘩でここまで凹むか、普通?」エレンが口にしないでいたことをソウが言う。


 すると、「お兄様、そういう所ですよ」とメイに睨まれていた。


「女の子は繊細なんですから、もっと優しくしてください」


「いや、そうは言ってもさあ。実際、どうすんの、これ? 斉木さんがこの状況じゃあ、作戦会議も何もないだろう?」


 本来なら、マヤにはシュウジの記憶を探ってもらい、今日、報告を受ける手筈になっていた。

 もしかしたら、シュウジの直近の記憶を辿れば、前回のループでエレンたちが助けた人たちがイレイザーズ化する理由が見つかるかもしれない。

 昨日のファミレス会議でそんな意見が上がったからだったが、完全に空振りに終わってしまった。


「でも、マヤさんをこのまま放っておくわけにも行きませんし。それに、次の事件が起こるまで、あと3日しかありませんし……」


「まあ、確かに悠長にはしていられないか」ソウが肩を竦めて答える。「シュウジ君から、何か有益な情報が得られたらって思ってたんだけど……」

 

「シュウ、ちゃん?」ソウが発したシュウジの名前にマヤが反応する。


 あ、まずい。

 せっかく落ち着いて来た所だったのに。

 昨日から、マヤはシュウジの名前を聞くだけで、わんわん泣き出してしまい、始末に負えなかった。


「諌山君。マヤさんは、今、とても神経質になっているので、注意してください。シ……、弟さんの名前とか、それを連想させるような言葉はNGワードです」


「え、なに、その縛り?」


「昨晩も、寝かしつけるのが、とても大変だったんです。それで、朝、目を覚ましたと思ったら、またこんな感じで……」


「そういえば、日野森さん、ちょっと隈できてない?」


「……まあ、あまり、寝られなかったので」


「何だか、育児中のお母さんみたいですね……」


 メイがぼそっと呟いた。

 笑えない冗談だった。


 マヤが動けないという事実は、作戦が止まっていることを意味する。

 そして、止まったままでも時間だけは確実に減っていく。

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