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「……でも、弟さんを助けるって言っても、具体的にはどうするんですか?」
メイが投じたその言葉に、マヤは少しの間、瞑目してから口を開いた。
「まずは、シュウちゃんを監禁する」
「えっ!?」いきなり頭のおかしなことを言ったマヤにソウが声を上げた。
「マヤさん、監禁じゃない。保護です、保護」すかさずエレンが訂正を入れる。
「ああ、うん。そうだった」
「いえ、大丈夫です」
「ただ、事件のある日は、シュウちゃんを一日中、私の部屋から出さないようにするだけだもんね」淡々とした口調でマヤが言う。
8月3日の21時21分。
シュウジは二人組の男に誘拐され、町はずれの倉庫街で殺害される。これは、前回のループで、カレンが予知した未来だ。なら、その日は、シュウジを家から一歩も出さなければいい。それが先日、人助けを継続することを決めた時に、マヤが出した案だった。
極端だが確実な方法でもあったので、エレンも特に異を唱えることはなかった。もっとも、出さないというのは、あくまで家からで、マヤの部屋からというのは初耳だった。
言葉の端々から漏れ出す狂気に、エレンとソウは閉口していた。
だが、メイだけは特に気にした様子を見せずに口を開く。
「とりあえず、弟さんを事件から守る方法はそれでいいとして……。問題は、仮に弟さんがイレイザーズになったら、どうするかですよね?」
「そうなる前に食い止める方法があればいいんだけど……」マヤの口から不安そうな声が漏れる。「メイちゃんたちは、これまで何度もループをして来て、イレイザーズたちとも戦って来たんでしょ?」
「はい」
「だったら、人間がイレイザーズにならずに済む方法とか知らないの?」
「それは……」
「俺たちも、イレイザーズになる可能性がある人を特定できたのは、今回が初めてなんだ。イレイザーズになる人に法則性もなかったし……。でも、あくまで可能性があるというだ。シュウジ君がイレイザーズになると決まったわけじゃない。そうだろ?」
「ま、まあ、それは……」
ソウが言う通り、シュウジがイレイザーズになる可能性については、現状、不確定だ。
だが、防ぐ手立ても見当たらないというのも事実だった。だから、そうした事態になった場合の対処は考えておかなければならない。
結論をぼかすようなソウの言い回しに、エレンは違和感を覚えた。
もしかしたら、この問題について、ソウはすでに結論を出しているのかもしれない。
――きっと、恨まれるだろうな。
蚊の鳴く様な小さな声が、エレンの耳に届いた。
「ん? 日野森さん、どうかしましたか?」
「え?」
「いま、兄さんのこと、じっと見てましたよね?」
「あ、ごめんなさい。ちょっと、ぼうっとしちゃって……」
「本当ですか?」メイが訝しげな視線をエレンに送る。
「は、はい」
「……まあ、それならいいんですが。あまり、紛らわしいことしないで下さいね」
何がどう紛らわしいのだろう。
二人のやり取りに、ソウが気まずそうに愛想笑いを浮かべる。
――気にしないで。
ソウが小声で言った言葉に、エレンは小さく頷く。
「ところで、斉木さん。ここ最近、シュウジ君に何か変なところとかはなかった?」
「シュウちゃんに変な所なんてありませんが?」真顔でマヤが返事をする。
「うん。今、そういうことを聞いてるんじゃなくてね?」ことシュウジのことに関しては、まったくブレないマヤの態度に、ソウが感嘆混じりに言う。「俺が聞きたいのは、前と様子が変わったところはなかったかってこと」
「特に気になることはなかったかなあ。ああ、でも、前回のループでは、この時点でシュウちゃんには、うちが能力者だって伝えてあったんだよねえ」
「今回は伝えてないの?」
「シュウちゃん、日中は部活で、夕方からは塾に通っているから、すれ違いが多くて……。あんまり話せてないんよ」
切なそうに答えるマヤに、ソウが何かを言おうとして、ぐっと堪えるのが見えた。
彼が何を言いたかったのか、エレンはすぐに分かった。
だが、今はそんなことより、前回のループと異なるこの状況が、今後、どのような影響を齎すのかが気になっていた。
「ところで、シュウジ君の事件が起きるまでの間に、日野森さんたちが助けた人はどれくらい居たの?」
「えっと……、先日の男の子と今日襲って来た人を含めると、全部で5人です」エレンが答える。
「となると、あと、三人か……。残りの三人を助けた日付は分かる?」
「はい」
「なら、シュウジ君の事件が起きるまでに、検証をしよう。君たちが助けた人たちが、本当にイレイザーズになっているのかを」
「もし、イレイザーズになってたら、どうします?」
「捕まえる。イレイザーズ化するための条件が分かるかもしれないからね」
それからも、ファミレスで侃々諤々、意見が交わされた。
シュウジの事件が起きるまで10日足らず。
せめてもう少し時間があれば……。
誰もがそう思い、それを口にはしなかった。
だが、引き返すという選択肢だけは、すでに消えていた。




