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 数秒と掛からずにエレンはマヤたちに追いついた。

 蹲っている二人は、意識こそあるものの、メイと同様にまともに動けそうもなかった。

 エレンは、抱えていたメイをその場に下ろすと、「二人とも、大丈夫ですか?」と声を掛ける。


「全然……。ってか、何、これ? どうなってるの?」


「多分……、あいつの所為だ」ソウが前方の青年に視線を向ける。


「ああ、やっぱり? この辺に居るの、うちらを除けばあの人だけだし……」


「……あの人が、イレイザーズ?」エレンの呟きにソウが頷く。


「助ける予定だった人が敵だったって、何それ? 昨日の焼き増し? ほんと芸がないんだけど……」


 悪態を付くマヤの顔色はかなり悪くなっている。


「日野森さんは、平気なの?」


「え? あ、はい。私は別に……」そう訊かれてエレンが答える。


「不幸中の幸いか……。これで日野森さんまで行動不能になってたら完全にお手上げだった」


「いや、エレン一人が動けて意味ないっしょ? どうすんの、この後?」


 エレンたちが話している間も、件の青年は一定の速度でこちらに向かって来る。


「……笑ってる?」


「何、エレン? どしたん?」


「いえ、あの人、何かこっちを見て笑ってるんですけど……」


「え、何それ、キモッ。どゆこと? もしかして、エレンの知り合いだったりする?」


 残念ながら、この世界に知り合いと言える人物はマヤたち以外にはほぼ居ない。


「違います」とエレンが即答すると、彼女の耳に誰かの声が響いた。


「面白いね、君」その声は、先ほどからエレンが注視していた青年の唇の動きと合致していた。「俺の干渉を受け付けない人間なんて久し振りだ」


「あなたが、みんなに何かしてるんですか?」


「まあ、そうだね」


「どうして、こんなことを?」


「俺たちのことをイレイザーズとか名付けたのは、君たちだろう? なら、君たちを消すために決まっている」


 ビリビリと空気の震えるような殺気を感じエレンは息を飲む。

 あの人、この前の男の子と同じだ。

 危険過ぎる……。 


「日野森さん、誰と話しているの?」


「あの、似非イケメンでしょ。この状況からして」ソウの問いにマヤが答える。「何でこの距離で会話が成立しているのかは分からないけど……。それで、エレン。あの人、何て言ってるの?」


「私たちを、消すって」


 エレンの返事にソウとマヤが息を飲む。


「メイ、能力は使えるか?」


「ごめんなさい。頭がぐちゃぐちゃで集中が出来ません」


「そう言う諌山君は?」マヤが尋ねる。


「俺もダメだ。さっきから上手く能力が使えない」


「マジで? これちょっとヤバくない?」


「ちょっとどころではないですね」メイが渇いた笑みを浮かべて答える。「まさか私たちの能力を阻害する能力者が相手に居るなんて……」


「一体、どんな原理よ……」舌打ち混じりにそう言ったマヤが、ふと何かに気付いたような表情を浮かべる。「あ、うち、分かったかも」


「お姉様? 分かったって、何がですか?」


「あいつの能力。多分、振動だ」


「振動?」


「うん。さっきからうちの心拍数がめっちゃ上がってるの。緊張のせいかと思ったけど、多分、違う。エレンの耳にだけ自分の声が聞こえる様にしていたのも振動を操ってたからじゃない? 何か、前に物理の授業でそんな話聞いた覚えがあるし……」


「いや、たしかに筋は通っているけど……」


「正解だよ」今度は、全員にその声が聞こえた。「驚いた。まさか出会った直後に能力を看破(ネタバレ)されるとは思わなかった」


 流石、マヤさん。

 相変わらずのネタバレ性能。


 だが、相手の能力が分かったことで、エレンたちの危機感は一層大きくなった。


「振動を操るって……。マズくないですか、兄さん?」


「程度によるけど、もし、奴があらゆるものの振動を操作できるとしたら洒落にならない」


「でもさ、こういうのって、相手と距離を取れば効果が薄くなる説なくない?」


「…………」メイの言葉にイレイザーズの青年が足を止める。


「あ、なんか当たりっぽいんだけど……」


「問題は逃げ切れるかどうか、ですね?」


 エレン以外の三人が能力の使用が出来なくなっている。この状況でイレイザーズ相手に逃げ切ることが出来るのか。


「わ、私が、時間を稼ぎます!」


「え!? エレン? でも、ダイジョブなん?」


「大丈夫、だと思います。……多分」


 エレンは、先日、あの男の子に襲われた時のことを思い出す。

 彼がイレイザーズだと分かったとき、自分でも意外なほど普通に話が出来ていた。

 きっと、相手が明確に敵といえる存在なら、余計な気を遣わなくても良いからなのだろう。

 そうエレンは自己分析していた。


「兄さん、どうしますか?」


 メイの問いに、ソウは数秒考えて結論を出す。


「日野森さん、任せてもいい?」


「はい」


「諌山君、マジで? エレン一人に任せるの?」


「それしか方法がない。というより、この場に俺たちが居ることの方が日野森さんの負担になる」ソウは険しい顔で答えると、エレンの方を見る。「ごめん、日野森さん。俺たちが奴の支配域から出たら、すぐに君も離脱してくれ」


「分かりました」エレンは静かに頷くと、一歩前に出る。「行って下さい」


 三人が撤退していく足音を聞きながら、エレンは歩み寄る青年の足止めに向かった。

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