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 翌日の早朝。

 エレンたちは予知にあった事故現場へとやって来ていた。

 

「おそらく、事故を防いだらイレイザーズが現れるだろう」腕時計を見ながらソウが言った。「そうなったら、メイ。すぐに能力を使ってくれ」


「分かりました」


「日野森さんも。いつでもこの場から逃げ出せるようにしておいて」


「はい」


 被害者の男性は、田園地帯に走る線路の高架下から現れる予定だった。エレンたちはその方向を見つめながら予知の時間が訪れるのを待った。早朝とはいえ、夏の日差しは暑く、じんわりと額に汗がにじんで来るのを感じた。


「……まだかな?」マヤが呟く。


「流石にまだなんじゃ? 予知の時刻までまだ十分くらいありますし……」


 エレンがそう答えた時だった。

 視線の先にある高架下の陰から誰かが現れるのが見えた。


「あれ?」


「どしたん、エレン?」


「いえ。高架下から誰かが出て来たので」


 それを聞いて、マヤたちもエレンと同じ方向に目を向ける。

 すらりと背の高い青年が、こちらに向かって歩いて来ていた。


「予定の時刻より少し早いですね?」メイがソウに言う。


「そうだね。まあ、どのループでも多少の誤差はあったから、別におかしくはないけれど……。斉木さん、あの人で合ってる?」


「うーん、まだちょっと良く見えないなあ。まあ、でもこの時間帯にここを通るのは一人だけだったはずだから、まず間違いないと思うけど」


「分かった。じゃあ、僕と斉木さんで、あの人の足止めに行って来るよ」


「え、諌山君も来るの? 別にうち一人でもいいけど?」


「いや、いつイレイザーズが現れるか分からないのに単独行動は危険だよ」


 ソウの注意喚起を聞いて、「まあ、たしかに」とマヤが頷く。


「諌山君でも、居ないよりはマシか」


「マシって……」


「兄さん、大丈夫です。ここできっちり働けば、汚名返上も出来ますから」両手をぎゅっと握り締めてメイが言う。


「まず、汚名を被った記憶がないんだが?」


「ほら、何やってんの諌山君。早く行くよ」


「何か、僕、こんな扱いばっか……」不満を漏らしながら、ソウがマヤの後を追って行く。


 そんな二人を見送りながら、「大丈夫かな?」とエレンが呟く。


「問題ないでしょう。事故が起きる時間まで、ちょっとだけ足止めをするだけですから。適当に話をしていればすぐですよ」


 メイはそう言ったが、少なくともエレンにとってそれは最高難易度のミッションだった。

 ぶっちゃけ、イレイザーズを追い払っている方がまだマシとも言える。

 そんなことを考えていると、唐突に悪寒を感じた。誰かに体中を撫でまわされているような不快感にエレンが眉を顰めると、その隣に居たメイの体がぐらりと傾く。


「メイさん!?」エレンは咄嗟にメイを抱き止めると、その顔を見てぎょっとする。


 額から流れ落ちる夥しい汗、呼吸は激しく乱れ、意識が朦朧としているのか目の焦点も合っていない。


「メイさん! 大丈夫ですか!? メイさん!?」エレンの呼びかけに、メイは唇を微かに動かすと小さく首を横に振った。


 まともに返事も出来ないメイに、エレンはすぐに救急車を呼ぼうとした。しかし、スマホを取り出し画面をタップした瞬間、視界の先でソウとマヤが同じように倒れ込んでいるのが見えた。苦悶の表情を浮かべた二人はメイほど深刻な情状況ではなかったが、それでもまともに動けそうにはなかった。


「これって、まさか……」


 イレイザーズ?

 心臓を鷲掴みにするような殺気がエレンを襲った。

 エレンがその殺意の出所に目を向けると、これから助けるはずだった青年が歪んだ笑みを浮かべているのが見えた。エレンと青年との間には、まだ一キロ以上の距離があった。だが、はっきりと彼と目が合った。その時には、エレンはメイを抱きかかえてマヤたちの方へと走り出していた。


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