56
イレイザーズ対策が決まった後、エレンたちは次に起こる事故現場や時間帯、被害者について情報のすり合わせを行った。事故が起きるのは明日の午前6時32分。現場はエレンの家の最寄駅から二駅先にある田園地帯で、始発の電車に乗れば、十分に間に合う距離だった。
ただ、被害者の男性の人相については、エレンはよく覚えていなかった――正確にはしっかり相手の顔を見ることが出来なかった――ので、代わりにマヤが説明をしてくれた。
「普通にイケメンだった」
「雑だな、おい!」と、ソウがツッコミを入れる。
「いや、それだけ分かれば十分でしょ? 早朝の田舎道でイケメンが歩いていたら、嫌でも目立つし。っていうか、うちが顔覚えているから問題なし」
「それでは被害者の確認はお姉様にお任せしますね」
「オケ」そう軽く返事をした後、マヤが何かを思い出したように声を上げる。「あ!? 今、思い出したんだけどさ。カレン姉が予知した時、自分はその予知の被害者を助けることはできないようなこと言ってなかった?」
「そうですね、言ってました」
「エレンはどうなの?」
「分かりません。お姉ちゃんは何か確信していたみたいでしたけど、私は特段……」エレンはそう答えると、申し訳なさそうに付け足す。「ただ、その縛りが無くても、今回は私以外の人にあの男性を助けてもらいたいんですが……」
エレンの頭に浮かんだのは、前回のループで演じた醜態。保護するべき相手の前で挙動不審になったあの記憶は出来れば闇に葬り去ってしまいたかった。それを再演するというのは、いくらなんでも拷問が過ぎるというものだ。
「じゃあ、それはうちが対応するよ。エレンの黒歴史は別にしても、予知にノイズが入るのは防ぎたいし。……まあ、言うても、普通に話し掛けるだけなんだけど」
「それだけ聞くと、本当に大したことではないように思えますね」冷めた目をエレンに向けてメイが言う。「まったく、どうしてそんなことも出来ないんだか」
「ごめんなさい……」
自分でも分かってるんです!
どうしようもない奴で、ほんとすみません。
だから、そんな目で見ないで!
何だか、ことあるごとにメイからの評価が下がっているような気がする。
エレンが肩身を小さくしていると、「メイ」とソウが低い声を出す。
「そういうこと言っちゃダメだろ?」
「だ、だって……」
「お前だって、毎日豊胸体操してるのに、どうして全然大きくならないんですか~? って言われたら嫌だろ?」
「な、何でそれを!?」メイは、ガタッと立ち上がりかけたが、ここが図書館であることを思い出すと、咳払いをして静かに席に座った。
「メイちゃん……」マヤが同情の視線をメイに向ける。「ごめんね。うちのを少し分けて上げられたら良かったんだけど」
「やめて下さい、そういうの。余計に惨めになるので……」メイは目にうっすら涙が浮かべると、ソウを睨みつける。「兄さんの変態」
「へ、変態!?」
「そうですよ。大体、どうして兄さんがその……、私がゴニョニョ体操していることを知ってるんですか? お風呂に入ってるときしかやってなかったはずなのに」
「え? もしかして、諌山君、メイちゃんの、妹のお風呂を覗い――」
「て、ないからね! 風評被害も甚だしいわ! 前に家の掃除をしていた時に、メイが買って来た雑誌に付箋が張ってあったのを見たんだよ」
「ふーん。まあ、諌山さんがそう言うなら、それでいいんじゃないですか? あ、でも、これからは半径5m以内に近付かないでもらえるとありがたいです」
「唐突な敬語!? やめて、めっちゃ距離を感じる」
「……兄さん。そんなに見たかったんなら、素直に言ってくれたら良かったのに」
「言わないよ? てか、別に見たくもないし」
「はあっ?」ガチギレ気味にメイが言う。
その様子をエレンは、あわあわしながら見ているしかなかった。
何で、こんなカオスな状況になってるの?
気が付けば、滅茶苦茶空気が悪くなっている。
……明日、本当に大丈夫かな?
不安を抱えたまま、エレンは翌日を迎えた。




