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 翌朝、目を覚ましたエレンが朝食の用意をしていると、玄関のチャイムが鳴った。

 なんだろう? 回覧板? 通販? 

 いずれにしても、朝から知らない人と顔を合わせるのは気が滅入る。

 そんなことを考えながらインターフォンの画面を見ると、そこにはマヤの姿が映っていた。

 ほっと息を吐き、エレンは玄関に向かう。


「おはよう、エレン」扉を開けると、マヤが明るい笑顔でそう言った。


 眩しい……。

 朝から陽のオーラ全開だ。


「お、おはようございます。どうしたんですか? こんな朝から」


「ああ、うん。何か、微妙に迷惑そうだけど、まあいいや。それよりちょっと、聞いて」


「何ですか?」


「あのね。うちも、朝起きたら前回のループのことを思い出したんよ」


「そうですか」


「え、反応薄くない?」


「いえ、だって、諌山君たちも、そのうち思い出すだろうって言ってたから。それに、マヤさんの場合、思い出さなくても、私の記憶を読んで前回のループのことについては、ほぼ理解しているでしょうし」


 ぶっちゃけ今更という感じである。

 

「うわ、マジレス。ここはもっと喜ぼうよ。記憶が戻らない可能性だって0じゃなかったわけなんだし」


「そ、それはたしかに……」


 ソウたちの話を鵜呑みにし過ぎていたのかもしれない。

 実際、マヤにカレンのことを覚えていないと言われた時は、かなりショックを受けた。

 もし、あのままマヤの記憶が戻らなかったと考えると、ぞっとするものがある。


「というわけで、うち、考えたんだけどさ」


「はい」


「また、前回みたいに人助けしない?」


「え?」


「いや、え? じゃなく。だって、考えてみ? うちら、これから誰がどこで命の危険に晒されるかしってるわけでしょ? いくらこの世界がループしているからって、それを見過ごすのはなんか違くない?」


 ああ、そうだ。

 昨日の私も、そう思ったからあの子を助けに走ったんだ。

 いま思うと、あれはかなり思い切った行動だった。

 

 私の中にそんな正義感のようなものがあったなんて自分でも意外だ。

 でも、そうだよね。人の命がかかっているんだもん。人見知りがどうとか言ってられないし。

 大丈夫。目を合わせず、会話をしなければ、私にだって人助けは出来る! はず……。


 エレンはそう自分を奮起させる。

 だが、マヤの提案は、いやでも昨夜見た夢を思い出させた。


「あの、マヤさん。そのことで少し相談が……」


 エレンは昨夜見た夢のことをマヤに話した。


「なるほどね。エレンにも予知が……。で、その予知の中で、うちらは皆、死んでいたと?」


「はい」


「でも、それはエレンが自分の予知を否定した場合に起こることなんでしょ?」


「エレンさんが言うには、ですが」


「だったら、予知通りに行くしかないでしょ?」


 あまりにもあっさり答えたマヤに、「え、いいんですか?」とエレンは思わず訊き返す。


「私が見た夢が予知だって確証もないのに……」


「だからそれを確かめるんじゃん? それに人助けをしようって提案したのは、うちなわけだし」


「まあ、それはたしかに……」


「それに、昔から言うじゃん?」


「え?」


「義を見てせざるは乳なきなりって」


 ……それ、メイさんの前では、絶対言わないで下さいね。


     ◆


 マヤの提案を聞いた後、エレンが諌山兄妹に相談をすると、図書館で話し合いが持たれることになった。ちなみにエレンが電話をしている間に、マヤは日野森家のリビングで朝食を食べていた。本当に自由な人である。


「……まったく、昨日の今日で学習しないんですか、あなたは?」


 図書館の入口で呆れながらメイに言われたエレンはすぐに弁明を図る。


「いえ、それは元々、マヤさんが言い出したことで――」


「言い訳しない!」ふんすと肩をいからせメイが言う。


 昨日から思っていたが、どうやらメイは人の話を聞かない系の女子らしい。

 やっぱり苦手なタイプだ。


 そんなメイの頭を軽く小突きながら、「落ち着けって」と兄のソウが言う。


「とりあえず、中に入ろぜ? 外は暑いし。こんな話をしていたら、また奴らに嗅ぎつけられないとも限らない」


「そうですね」


 兄の言葉には従順なメイが素直に頷き、エレンたちは図書室の中に入る。開館からまだ然程時間が経っていないせいか、利用者の数はまばらだった。昨日と同じテーブルが空いていたので、エレンたちはそこに席を取ることにした。


「で、さっきの話なんだけど、マジでやる気? 単なる思い付きじゃなく?」


「もちのロンだよ、諌山君」マヤが答える。


「その意味、分かってる?」


「分かってるよ。麻雀の掛け声でしょ?」


「うん、違う。そうじゃない」


「冗談だって。ちょっとマジな顔しないでよ。……つまりあれでしょ? 本来のループの流れを変えることになるってことでしょ? 分かってるよ」


「その結果、イレイザーズに襲われる危険が増すってことも?」


「当然」


「日野森さんも?」


「はい……」


 エレンの返事に、ソウはしばらく瞑目した後、重々しく息を吐き出す。


「まあ、日野森さんの話が本当なら、選択肢はないんだろうけど……」


 仮にエレンの見た夢が予知でも何でもなくただの夢であれば、ソウは迷わずマヤの提案を却下していた。しかし、エレンの夢が事実だった場合、支払うのは自分たちの命になる。このループの中では普通に死んでも同じ時間を繰り返すだけなのはすでに検証済みだったが、それでも何の根拠もなく賭けるにはデカ過ぎるチップだった。ならば、たとえイレイザーズに襲われる可能性があっても予知どおり人助けをする方に賭けた方がまだマシだった。


 いずれにしても、明日になれば分かる。

 エレンの予知が本物は否か。


「というわけで、作戦会議をしたいと思います」ソウが渋々納得したところで、マヤが小声でそう言った。

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