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 諌山兄妹は、これまで80回以上も、7月20日から9月1日を繰り返して来たらしい。

 その間に自分たちと同じような能力者を仲間にしたこともあった。

 彼らは皆、諌山兄妹と同様にループに巻き込まれた者たちだった。

 だが、そのすべてがイレイザーズの手によってこの世を去った。


 そうした経験から、諌山兄妹はこの世界の法則性のようなものをいくつか解き明かしていた。

 一つ、ループに気付くことが出来るのは能力者だけであること。

 一つ、ループの流れを大きく変えるような行動を取ると、イレイザーズとなった人間たちにより消されてしまうこと。

 一つ、イレイザーズに消された人間は存在しないことにされてしまい、その効果はループをした後の世界でも持続されること。


 ほかにも、このループにいる間は死んでもまた同じ時間を繰り返すことになることや、ループ内の出来事は基本的に同じ流れを辿ることなどがあった。だが、それでも未だに分からないことも多くあった。

 

 なぜ、自分たちは能力に目覚めたのか。

 イレイザーズの正体は何なのか。 

 どうしたらこのループから抜け出すことが出来るのか。


 繰り返される同じ時間の中、ソウはイレイザーズの脅威に必死で抗い続けて来た。ある日、両親がイレイザーズに変貌したことがあった。その時は、もういっそこのまま食われてしまおうかと、生きることを諦めそうにもなった。


 それでもどうにか持ちこたえて来られたのは、妹のメイの存在によるところが大きかった。自分が消えた後、残されたメイの姿を思うとこのまま投げ出すことは出来ないと思った。だが、ここ十数回のループでは、まったく状況の進展が見られず、いよいよもって自分が壊れるのが先か、イレイザーズに消されるのが先かという状況になっていた。


 そんな時だった。何気なく見ていたニュースにソウは違和感を覚えた。そのニュースはクラスメイトの姉の死を伝えるものだった。


「それって……」


「あなたのお姉さんのことよ」


 ソウの話が一区切り付くのを待っていたのだろう。エレンが口を開いた時、ちょうどメイが人数分のアイスコーヒーを持って戻って来た。


「俺たちが巻き込まれたこのループでは、基本的に同じようなことが起こっているんだけど、君のお姉さん――日野森カレンさんだけは、いつも異なる形で亡くなっていたんだ」


「どういうことですか?」


「それは分からない。ただ、そのことが何かこのループを抜け出す手掛かりになるかもしれないと思った僕は、君に接触を図ることにしたんだ」


「接触って……、あの公園でのことですか?」


「うん」


「……だったら、その時に相談してくれても良かったのに」エレンが小さな声で呟く。


 批難するつもりはなかった。

 だが、メイにはそう聞こえたようだった。


「仕方ないでしょ。イレギュラーがあったんだから」


「イレギュラー? 何それ?」マヤが、ソウとメイを交互に見ながら尋ねる。


「前回のループでは、何故かイレイザーズが一度も現れなかったんだ」


「へえ。だったら動きやすかったんじゃない?」


「逆よ。今まで散々、私たちを消そうとして来た奴らが、突然、姿を消したのよ? 不気味過ぎて余計に身動きが取れなくなったわ」


「ああ、なる」


「でも、それを言い訳にするつもりはないよ。慎重になり過ぎていた所為で、日野森さんに接触するのが遅れたのは事実なんだし」


「兄さんの所為じゃないですよ! その人が能力に覚醒したことだって、発覚したのはつい最近のことなんだから……」


「それって、メイちゃんが、カレン姉を攫った時のことだよね?」


「……はい」


「ああ、その話もメイから聞いてるよ。ごめんね、うちの妹が余計に話をややこしくして」


「まったくね。でも、まあ、メイちゃんのあの記憶を見たら、あまりきつくは言えないかな? あの時のメイちゃん、マジでエレンに殺されるって思ってたみたいだったから」


「らしいね。でも、俺には未だに信じられないんだけど。……日野森さんって、そんなにすごいの?」


「端的にいって人間じゃないよね」


 そう言って、マヤが苦笑していると、「あれ?」とメイが口を開く。


「そういえば、前回のループで、あのカレンって人がおかしなことを言っていたんですけど」


「お姉ちゃんが?」


「ええ。……たしか、あなたは前世の記憶が蘇った、とか何とか? わけが分からないですよね?」


「あ、それ、本当です」


「「えっ!?」」諌山兄妹が同時に声を上げた。


 嘘でしょ? 

 そうと言いたげなメイの視線を受けてマヤが頷く。


「うちの能力でも確認したから間違いないよ」


「斉木さんの能力って、人の記憶が読めるんだっけ?」ソウが尋ねる。


「まあ、そんなところ。で、エレンの記憶を読んだら、女神様がエレンを転生させたことが分かってね」


「はあ!? 女神様? それマジで?」


「マジマジ。超キレイな人だったよ。……あと、めっちゃエロい」


「へ、へえ……」


「兄さん、興味があるんですか?」淡々とした口調でメイが尋ねる。


「いや、べ、別に変な理由じゃないからな! た、ただ、女神が居たっていうことに驚いていただけで。神という存在に対する純粋な好奇心っていうか」


「私が聞いたのは、転生についてなんですが?」


「諌山君、めっちゃ早口になってるし。エロい女神に興味津々なのバレバレだし」


「……兄さん?」メイが光の抜け落ちたようなの目をソウに向ける。


「やめて。その目、やめて!」


 何だろう。

 真面目な話をしていたはずなのに、一気に脱線してしまった。

 これは早めに軌道修正を図らないといけない予感がする。


「あ、あの、今はその話は一旦、保留にしませんか?」


「そ、そうだね! 日野森さんの言う通り」エレンの助け舟にソウが全力で乗っかる。


「諌山君には、あとで女神様のことについてきちんとお話しますから」


「日野森さん、気の遣い方が間違ってるよ……」


「兄さん、私もあとで話がありますので」


 がっくりと肩を落とすソウは、少しだけ気の毒に見えた。

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