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「ええ、そうです。諌山ソウは私の兄さんです」
エレンがスマホの人物について尋ねると、メイはあっさりとそう答えた。
「けど、どうして諌山君は、あなたに私たちを助けろって指示したの?」
「さっきから、それを説明しようと思っていたんです。……でも、まずは場所を変えた方が良さそうですね」
「あーね。外、めっちゃ暑い」げんなりしながらマヤが言う。
「というより、またイレイザーズに見つかったら面倒だから」
「え!? あいつらまだ追っかけて来るの!?」
「分かりません。でも、早めに身を隠した方が良いと思います」メイはそう言うと、スタスタとエレンたちの前を歩き出す。「ついて来て下さい」
そして、案内されたのは、閑静な住宅街にある二階建ての一軒家だった。
周囲の家と比べると綺麗な外壁をしており、新築からまだそれほど時間が経っていないことが窺える。
入口には、花柄の模様をあしらった表札があり、『諌山』の二文字が書かれていた。
「……ここは、?」
「私の家です」そう答えてメイは家の扉を開ける。「どうぞ、上がって下さい」
諌山家に入ったエレンとマヤは、リビングに案内された。
「兄さん、戻りました」
メイがそう言うと、リビングのソファに座っていた人物――諌山ソウがこちらを振り向いた。
「お帰り、メイ。それから日野森さんと……、斉木さん?」
「何? うちが居たら何か文句あるん?」
「あ、いえ、……別にないです」マヤのメンチに、ソウは引き攣った笑みで答える。
「ちょっと、マヤさん。どうしていきなり喧嘩腰なんですか!?」
「だって、この人、うちの顔見て露骨にがっかりした感じだったから。何か、ムカついて……」
「いや、がっかりしたんじゃなくて、驚いただけなんだけど……」慌てた様子で弁解したソウは、隣のメイに耳打ちをする。「メイ、どうしてこの人連れて来たの?」
「成り行きです。この二人、いきなりイレイザーズに襲われてたので」
「うわっ、やっぱりか。何か嫌な予感がしてたんだよなあ。メイを使いに出して正解だった」ソウが小さく安堵の息を吐く。「とりあえず、立ち話もなんだし座ってよ。すぐ飲み物を用意するから」
「それは私がやりますから、兄さんも座っていて下さい」
「ああ、うん。ありがとう、メイ」
「いいえ。……あ、あと、その斉木という人とは目を合わせないように」
「どうして?」
「記憶を読まれるので。その人も能力者みたいですよ」
「え、マジで!?」
ソウが目を向けると、マヤがにっこりと笑顔を浮かべる。
「大丈夫よ。意味もなく人の記憶を読んだりなんてしないから。精々、あなたが実の妹にいかがわしい感情を抱ているってことくらいしか」
「え!? に、兄さん、……それ、本当ですか?」もじもじしながらメイが言う。
「そんなわけないだろ!」ソウが悲鳴のような声を上げる。「ちょっと、斉木さん!? 人の記憶を捏造するのやめてくれる!」
「いや、軽いジョークじゃん。真に受けないでよ」
「何だ、嘘だったのか……」
メイは残念そうに呟くと、キッチンの方へと引っ込んで行った。
すると、正面のソファーに座ったエレンたちソウが頭を下げて来た。
「二人とも、ごめん。俺がもっと早くメイに指示を出していれば、こんなことにならずに済んだかもしれなかったのに」
「そ、そんな、諌山君は何も悪くないですよ」
「だよね。メイちゃんが来てくれて本当に助かったし」
「そう言ってもらえると助かるよ」苦笑を浮かべてソウが言う。「でも、本当はそうなる前にイレイザーズのことを忠告したかったんだけどね」
「……何か、その言い方だと、うちらが襲われるのが分かっていたみたいじゃん?」
「そうならなければ良いとは思っていたよ。でも、この世界がループしていることに気付いたら、大体の人間は正規のルートにない行動を取るものだから」
「ってことは、エレンがループに気付いてるって、諌山君は知ってたの?」
「知っていたのは、日野森さんが能力者だってことだね。ループに気付くのは、能力者だけだから。きっと前回の世界の記憶を保持しているだろうって思ったんだ」
「なるほど。……あれ? でも、うちは記憶を保持してないんだけど?」
「そこは個人差があるみたいだね。多分、二、三日もすれば記憶が蘇ると思うよ」
「そっか。じゃあ、いいや」あっけらかんとした様子でマヤが言う。「ところで、この状況って一体どうなってるの? ループだとか、イレイザーズだとかさ。ぶっちゃけ、昨日、突然おかしな力が使えるようになったばかりで、うちもかなりテンパってるんだんけど」
「そうだよね。じゃあ、改めて説明をして行こうか」そう答えると、ソウは自分たちが置かれている状況について説明を始めた。




