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唐突に殺人未遂の容疑を掛けられた。
だが、マヤに抱き着いている少女は、エレンの記憶を総動員しても見覚えがなかった。
そんな相手を自分が殺す理由はどこにもない。
いや、というか私、普通の女子高生なんですけど?
殺人どころか暴力を振るうことにだって抵抗がある訳だし……。
「……あの、マヤさん? いくらなんでもその冗談は質が悪いですよ?」
エレンがきつい口調でそう言うと、「ああ、ごめん」とマヤが謝る。
「ちょっと説明を端折り過ぎたわ」
「ですよね!」
「ただ、この子がエレンに死ぬほど怖い目に遭わされたってだけだから」
「それがおかしい! 私、その子に何にもしてないですよ!?」
「いや、それがしてるんだって」
「いつですか?」
「……前回のループで、あんた、カレン姉を攫われたでしょ?」
「え? あ、はい」
「その誘拐犯がこの子」
「はい!?」
「で、その時にこの子……。ああ、名前はメイちゃんっていうんだけどね。メイちゃん、あんたにどぎつい殺気をぶつけられたみたいなのよ。それが軽くトラウマになってるっぽい」
「そ、それ、私の所為じゃ……」
あの時、私の体を動かしていたのはエレンさんであって私じゃないんです!
そう訴えたかったが、今はぐっと飲み込む。
「まあ、うちもメイちゃんの記憶にあるエレンを見たけど、控えめに言って魔王って感じだったよ」
「ま、魔王!?」
エレンがショックを受けている脇で、マヤが少女に話し掛ける。
「っていうか、メイちゃんは、そんな目に遭ってどうしてうちらのこと助けてくれたん?」
「そ、それは……。兄さんがそうしろって言うから」
「お兄さん?」
「へえ、あんたお兄さんが居るんだ。どんな人? かっこいい?」
マヤさん、今、そこじゃない。
「世界一、かっこいいです」
あ、答えちゃうんだ。
ん? っていうか、自分の兄を世界一って。
この子、もしかして……。
「うわ。あんた、ブラコンじゃん。まじウケル」
ああ、言っちゃった。
悪気はないんだろうけど。
マヤさん、そういうところがあるからなあ……。
案の定、怒りを露わにした謎の少女ことメイは、マヤをぐいっと両手で押して距離を取ると、「ブラコンじゃないわ!」と声を上げた。
「私は事実を言ったまでよ! うちの兄さんは世界一かっこいいんだから‼」
その言葉を聞いて、マヤの目がすっと細くなる。
「はあ? 世界一かっこいいは、うちのシュウ君なんですが!?」
「誰よ、シュウ君って?」
「うちの弟。……ほら、これ」そう言って、マヤがスマホを取り出す。
「……あ、あなた、自分の弟を待ち受け画面にしているの?」
「悪い?」
「い、いえ。で、でも、恥ずかしくないの?」
「何が?」
「そ、それは、ほら……。他の人に見られたらとかって、考えないわけ?」
「自分の愛するものを見られて何が恥ずかしいのよ?」
「ハッ!」
あれ?
何だかメイちゃん、ものすごく感銘を受けたって顔してる?
「……そ、そうよね。私が間違っていたわ」
「分かればいいの」大人びた表情を浮かべてマヤが言う。「……それより、あんたみたいな子がそれだけベタ褒めするってことは、お兄さん、すごいイケメンなんでしょ? 写真とかないの?」
「そりゃあ、少しはあるけど……」
「えー、見せて見せて! 超気になるし!」
「ま、まあ、どうしてもって言うなら見えてあげなくもないけど」
兄に関心を持たれて気を良くしたのか、メイは肩にかけていたバッグからスマホを取り出す。その様子をエレンは少し離れた場所から窺うことにした。あまり近付くとまたメイを怖がらせてしまうとかもしれないという配慮だった。だが、本当の恐怖を覚えたのは、むしろエレンの方だった。
メイのスマホの画面には、同じ男性の画像が数え切れない程、保存されていた。メイがスマホの画面をスクロールする度にその男性の画像が映し出されて行く。その様子をエレンとマヤが無言で見つめていると、スマホを操作するメイの指がぴたりと止まった。
「素敵でしょ?」そう言って、メイがはにかむように笑った。
それは大変可愛らしい笑顔だった。だが、シチュエーションがひど過ぎる。エレンの目には、メイが何か得体の知れない怪物の様に映った。流石のマヤもエレンと同じ感想を抱いたのか、一度、メイから距離を取ると、無言のままこちらに近付いて来た。
「エレン、気付いた?」
前置きもなくそう言ったマヤにエレンが頷く。
「ええ。私もあれは予想外でした」
「うちも」
「まさか、お兄さんの写真をあんなにたくさん保管しているだなんて……」
「いや、別にあれくらいは普通でしょ?」
「え?」
「え?」
あれ?
何だか、話が噛み合っていないぞ?
エレンが当惑していると、やれやれとマヤが肩を竦める。
「うちが言っているのは、あの子のお兄さんのこと。あれ、諌山君じゃない?」
「諌山君?」
そう言われてエレンはようやく思い出す。
メイのスマホに映っていたのは、クラスメイトの諌山ソウだった。




