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 結局、カレンの手掛かりは得られなかった。

 ラーメン屋を出たエレンは、マヤと一緒に最寄りのバス停でバスを待つことにした。


「……暑い」一分と経たずにマヤが言った。「ぶっちゃけさ、超能力が身に付くならもっと便利な奴がよかったよね」


「……たとえば、どんな?」


「えー、一瞬で髪が巻けるとか?」マヤは暑さの所為か投げやりっぽい返事をする。


「いいんですか、超能力がそんなので?」


「全然、いいでしょ。超便利じゃん」


 前世の頃から自分の容姿にあまり頓着の無かったエレンには、いまいちピンと来ない話だった。


「はあ」と適当な相槌を打つと、マヤが少しだけムッとした表情を浮かべた。


「じゃあ、エレンだったらどんな能力が良いと思うの?」


「私ですか? そうですね……」言いながら、ある能力が頭に浮かぶ。「探し物が見つかる能力」


「……あーね」


 嘆息混じりにそう言って、マヤはスマホの画面に目を移す。だが、何かを操作する気配は見られない。それが気まずさを紛らわせるための所作であることは、コミュ力の低いエレンでも分かった。


「……ごめんなさい」


「え、何? 何で謝るん?」


「え? だって、私の所為で余計な気を遣わせてしまったみたいだったから……」


「いやいやいや。あんたの方が気を遣い過ぎだから」そう言って、マヤは呆れたような苦笑を浮かべる。


「そんなこと――」


「あるでしょう。なーんか、一々言葉選んでるなって感じがするし。会話のテンポが遅いのもそのせいなんじゃない?」


「私、遅いですか?」


「うん」


 即答だった。

 自覚はあったが、面と向かって言われると少しだけ凹む。


「ま、いいんじゃない。そんなことで一々腹を立てる人もいないだろうし」


「そう、ですね……」


 不意に、前世の母親の顔が頭に浮かんだ。


 ――いいのよ、無理しなくても。


 もはやお前にはもう何も期待していないと告げる母の瞳、その目を見る度に自分に対する情けなさを感じた。同時に安堵している自分もどこかに居て、それを自覚することで余計に自分がくだらない人間に思えた。


 優秀な姉の様にとまではいかなくても、せめて人並みに振舞うことが出来たら、多少息苦しくても世間に迎合することくらいはできたかもしれない。転生して、超能力を身に付けたとしても、空っぽな人間性は何一つ――。


「――どしたん、エレン? めっちゃ陰の気発してるけど?」


「あ、え? え?」


「何か、いまトリップしてなかった?」


「す、すみません。ちょっと考え事っていうか、ぼーっとしてました」


「まあ、この暑さじゃね。早くバス来ないかな」


「ですね……」


「ところでさ?」


「はい?」


「お姉さんのこと、両親には聞いたの?」


「いえ……」


「じゃあ、確認しといた方が良いよ。意外と簡単に答えが見つかるかもしれんし」


「そうでしょうか?」懐疑的な口調でエレンは答える。


「さあ? 知らんけど」


 本当に適当だな、この人。


「ただ、うちはちょっと解せんのだよ」


「解せんって、何がですか?」


「その、カレンって人、本当にこの世界には存在していないのかってこと。ここがもしあんたが元居た世界のパラレルワールドだとしたら、そのカレンって人だけ居ないってのはどうにも納得が出来ないんだよね」


「……まあ、確かにそれはそうですね」


「だからね。もしかしたら、前の世界とは違った形でそのカレンって人は存在しているのかもしれないって思って」


「違った形?」


「そう……。例えば、あんたの親の隠し子とか?」


「…………」


 それは、流石にブラックジョークが過ぎるのでは?

 そう思ったのだが、異常に勘の良いマヤが言うと、頭からその可能性を否定する気は起きなかった。

 まあ、流石に隠し子説はないだろうけれど。


「あとで、両親に連絡してみます」


「うん。それがいいよ」優しく笑ってマヤが言った。

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