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 一口食べた瞬間、濃厚なチーズとトマトの酸味が口いっぱいに広がった。

 次いで鼻腔を突き抜けるバジルの香りが更に食欲を掻き立て、エレンは2切れ、3切れと無言でピザを胃袋の中に収めて行った。


 間違いなく今まで食べた中で一番美味しいピザだった。それなのに何故か激しく既視感(デジャブ)を覚えた。店内は、昼時を少し過ぎていたからか客数は少なく、内緒話をするにはもってこいの環境だった。だが、二人は当初の目的を忘れて黙々とピザを頬張り続けた。


「あんたら、よく食べるねえ」ピザのお替りを注文したエレンたちを見て店員の老婆が言った。


「おばあちゃん、この店のピザ、チョー美味しいよ」


「あら、そう。ありがとう」


 割とそっけない返事。だがその態度がツボにはまったらしく、マヤは老婆とおしゃべりを続けた。


「あとでこのお店、SNSに上げてもいい?」


「ええよ、ええよ。どんどん上げてちょうだい。お客さんたちみたいに可愛い女子高生も来てくれる店ってなれば、若い男性客も増えるだろうしね」


「おお、おばあちゃん。意外と強かだね!」


「当然だよ。何が理由でバズるか分からないからね」


 老婆と会話をしている間に、エレンたちの前にあるピザは残り1切れずつとなっていた。


「……あれ? そういえば、うちら何でこの店に来たんだっけ?」


「本題を忘れてたんですね」


「本題はこの店のピザだよ。あんたの話はついで」


「ひどい! 割と重要な話をするつもりだったんですけど!」


「どうせあれでしょ? 転生してエレンの体に乗り移ったあんたは、なんやかんやありながらも困難を乗り越えて、ようやく何かいい感じでゴールにたどり着いたものの、今日この日に戻って来ちゃったとか、そんなところでしょ?」


 本当にこの人はネタバレ製造機だな。


「……あの、マヤさん。もしかして、私の心を読みました?」


「え、読んでないけど? てか、まだあんたとしっかり目を合わせてないし。心なんて読めん」


「何か、私がマヤさんの能力を正しく理解している感じで話してますけど、その辺はいいんですか?」


「だって、どうせあんた全部知ってるんでしょ?」


「まあ、そうですけど」


「だったら、隠す意味ないじゃん。……あ、てかさ? 前のエレンはどこ行ったん?」


「分かりません。……まだ、私の中に居るのかもしれないですけど……」


「ああ、引き籠っちゃった系か……」


「いや、そういう系じゃないかと思いますけど」


「で?」


「え? で? とは?」


「だから、うちに何か用があったんじゃないの?」


 マヤに促され、エレンは当初の目的を思い出す。


「マヤさん、日野森カレンを知っていますか?」


「知らんが?」


 即答だった。

 何となくそんな気はしていたが、やはり落胆は大きい。


「誰なん? そのカレンって? あんたの姉妹? いや、ってかエレンに姉妹は居なかったか……」


「居たんです!」無意識に声が大きくなっていたエレンに、マヤの眉がピクリと動く。「この時間に戻って来る前までは……」


「うーん。何か結構ヤバめな状況?」腕を組みながらマヤが言う。「ねえ、エレン。ちょっとあんたの心、読ませてもらってもいい?」


「はい。最初からそのつもりでしたから」


「オケ。じゃあ、早速……」


 マヤは体を前に乗り出すと、エレンの瞳をじっと覗き込んだ。それから数十秒が経過した後、納得したように頷いたマヤは椅子の背にもたれ掛かった。


「……え、マジ? マジであんた転生者なの? っていうか、転生して時間もループしてるの? おまけにゴリラみたいな怪力まで身に付けて? 何か設定盛過ぎじゃない? ダイジョブ?」


「大丈夫……、とはとても言えない状況ですけど」


「だよねえ。……ていうか、別世界のうち、エレンのお姉ちゃんのことめっちゃリスペクトしてる感じじゃない?」


「そうですね。カレン姉、カレン姉って、いつも仲良さそうでしたし」


「でも、この世界には居ないんだよね?」


「はい……」


「ってことは、エレンは時間をループしてるんじゃなくて、別の世界に転移してる説なくない?」


「別の世界ですか?」


「そそ」


 確かにその可能性は否定できない。

 少なくとも自分は一度死んで、別の世界に転生をしているのだ。

 ほかにも似たような世界があっても不思議ではない。


「仮にそうだとしたら、やっぱりこの世界には、お姉ちゃんは存在していないんでしょうか?」


「さあ、そこまでは分からんけど。ただ、ここでこれ以上話していても答えは出ないと思う」


「そうですね……」


 会話が途切れる。

 ふと店内を見渡すと、客はエレンとマヤの二人だけになっていた。

 必要以上に長居するのは気が引けたので、エレンたちは店を出ることにした。


「うわっ、暑っ……」外に出た瞬間、気怠そうにマヤが言う。「で、これから、エレンはどうするの?」


 そう言われても、すぐに答えが出るものではない。

 分かっているのは、自分はこれからもこの世界で生きて行かなければならないということだ。

 カレンが居ないこの世界で。

 

 それは少しだけ寂しいと思った。

 転生する前の自分なら、きっとそんな風に感じることはなかっただろう。


「とりあえず、もう少し姉の手掛かりがないか調べてみます」


「りょ。じゃあ、うちも手伝うよ」


「え? いいんですか?」


「いや、当たり前でしょ? 何、驚いてんの?」


「だって……」


「うちら、ずっ友だって約束したじゃん」


「……それ、多分、もう一人のエレンさんとじゃないですか?」


「そうだっけ?」マヤが首を傾げて考え込む。


 この人との関係も振り出しに戻ってしまったのね……。

 

 カレンが居ないこととは別の寂しさをエレンが感じていると、「あっ、ごめん」とマヤが言った。


「前のエレンともそんな約束してなかったわ」


 一瞬で寂しさが吹き飛ぶ。


 本当にいい加減な人だと思った。

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