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 この時間なら、マヤはきっと家には帰らず、どこかで遊んでいるはずだ。

 スマホを取り出し電話を掛けると、2コール目を待たずして返事があった。


「おお、サボり魔。あんた今どこで何してんのよ?」


「ごめんなさい。ちょっと、色々あって……」


「え、何、そのしゃべり方、ウケる。まさか優等生キャラにイメチェンでもするつもり?」


「いえ、そういう訳じゃないんですけど……。ちょっと話したいことがあって。これからどこかで会えませんか?」


「何? 電話じゃ話せないこと?」


「はい。……マヤさんの力にも関係することなので」


 エレンがそう言うと、電話の向こうからマヤが微かに息を飲む音が聞こえた。


「私の力って、何のこと?」


「人の心が読める」


 端的なエレンの返事にマヤが言葉を失う。警戒させてしまったかもしれない。だが、マヤ相手に迂遠な言い回しをするのは気が引けた。何より、彼女なら、今の言葉だけでも、きっと答えに辿り着いてくれるような気がした。


「……あんた、誰?」


 案の定、望んでいた返事が返って来た。

 やはり恐ろしく頭が切れる人だ。


「それも含めて、お話ししたいことがあるんです」


 それから数秒の沈黙の後、「分かった」とマヤが答えた。


「でも、その前にお昼にしない? この前、何かいい感じの店を見つけたから付き合ってよ」


「分かりました」


「とりま、店の場所を送るから」マヤはそう言って、通話を切った。


 それから一分もしない内に、エレンのスマホに店の位置情報とメッセージが届いた。


『その店、ピザが美味しんだって』


     ◆


 マヤが指定して来たその店は、隣町の湖の近くにあった。最寄り駅で電車に乗ったエレンは、隣町の駅へと向かうと、そこからはバスを使って移動することにした。

 

 エアコンの効いたバスの中、エレンがぼんやりと遊歩道を眺めていると、炎天下の中でランニングをしている人がちらほら見えた。インドア派のエレンにはとても真似は出来そうもない。


『次のバス停で停まります』


 誰かが停車ボタンを押したのだろう。バスの中にアナウンスが響いた。エレンが降りるバス停はまだ先だったが、下車する時に手間取りたくなかったので、スマホの決済用アプリは起動させておくことにした。


 それからしばらくしてバスが停まった。二名の乗客が降り、再びバスが動き出す。湖に沿うように道を走っていたバスが緩やかなカーブに差し掛かると、窓の外から強い日差しが差し込んで来た。


「眩しっ!」


 エレンがブラインドを下げると、後ろの席から声が聞こえた。


「……ママ、桜の木が折れてるよ」


「あら、本当? この前の大雨の所為かしらね?」


 他愛のない親子の会話。だが、自分には、ひどく縁遠いものに思えた。考えてみると、前世でも今世でも、まともに両親と会話をした記憶がなかった。


 さらに三つ、四つと無人のバス停を通り過ぎたところで、エレンは座席付近のボタンを押した。マヤが指定して来た店は、次のバス停のすぐ近くにあるはずだ。


 やがて静かにバスが停まり、エレンが下車すると、目的の店が目に留まった。

 そこではすでにマヤの姿があった。

 エレンは駆け足で店の方へと向かう。


「すみません。お待たせしました」


 エレンが頭を下げると、「ええよ、ええよ」とマヤが似非関西弁で返した。


「むしろ、あやまるのはうちの方かもしれんし」


「え?」


 首を傾げたエレンに、マヤは店の前にある看板を指差す。


「何か、思ってたのと違う店だった」


「えっと……。ここ、ラーメン屋さんですよね?」


「うん。でも、何かここで出すピザが美味しらしいんよ」


「何でラーメン屋さんでピザ?」


「さあ、知らんけど。とりま、立ち話もなんだし入りますか」マヤはそう言って店の扉を開ける。


 何だか見覚えのある店だと思ったが、その理由はすぐに分かることになった。

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