31
突然、目の前にカレンが姿を現わした。
それを見て、暴走寸前だったエレンさんが正気を取り戻した。
「お姉ちゃん。そんな所に居たの!?」
「うん、ずっとね。それより、あなたはエレンちゃん、だよね? 転生をする前の……」
「そうだよ。お姉ちゃんの妹のエレンだよ」
「そっか。ひさしぶりだね」
「いや、ゆうて今のエレンちゃんと入れ替わってまだ一月くらいしか経ってないけどね」
「そうだね。ふふ、でも、すごく久しぶりな気がして」
「うん、私も……」
そんな日野森姉妹の会話を、エレンは共有したエレンさんの視界から眺めていた。
それはどこにでもある仲の良い姉妹の姿だった。
前世のエレンにも姉がいた。とても優秀な姉だった。それに比べて前世のエレンは平凡な少女だった。彼女は、ことあるごとに姉と比較された。時には心無い言葉をぶつけられることもあった。それでも彼女は姉が大好きだった。
捨ててしまっても構わない記憶ばかりの前世だが、姉との思い出だけは忘れがたいものだった。だがその思い出も、転生してから少しずつ欠落を続け、いまはもう姉の顔もはっきりとは思い出せなくなっていた。
だからだろうか。
前世の姉とよく似た雰囲気を持つカレンのことを、どこか本当の姉のようにエレンは感じていた。
……いいなあ。
ぽつりと、エレンが呟く。
それが聞こえていたかのように、カレンが言った。
「それで、もう一人のエレンちゃんは?」
「私の中にいるよ。今は、ちょっとだけ私がこの体を使わせてもらってるだけ」
「そう……。じゃあ、エレンちゃんはまたいなくなっちゃうの?」
「まあ、そうなるかな」
「そっか……」カレンはそう呟くと、エレンさんを抱き締める。「また会えるかな?」
「……お姉ちゃんがそれを望むなら」
「え?」エレンさんの返事にカレンが顔を上げる。
完全に虚を突かれたといったカレンの表情。
その瞳には、泣きそうになりながら笑っているエレンさんの顔が映っていた。
「エレンちゃん、それってどういう……」
「ああ、ごめん。もう時間だわ。じゃあ、私は行くね」
「え、ちょっとエレンちゃん!?」
「またね、お姉ちゃん」
その言葉と共に、エレンの意識が何かに引っ張られるようにして覚醒した。
◆
「――おはよう、エレンちゃん」
「おはよう、お姉ちゃん」
気が付くと、エレンはカレンに支えられるようにして立っていた。
「ありがとう、エレンちゃん。私を助けてくれて」
「私は何もしてないよ? ここを見つけたのもエレンさんだし」
「違うよ。エレンちゃんだったから、ここまで来ることが出来たんだよ」
カレンはそんな風に言ってくれたが、エレンは後ろめたいものを感じずにはいられなかった もし、自分が転生なんてせず、この体と能力もエレンさんが使っていたら、きっと先程のようにカレンが悲しそうな顔をすることもなかったはずだ。
「ごめんね、お姉ちゃん」
「何が?」
――私なんかが妹になって。
そう言い掛けて、エレンは口を噤んだ。
きっとその言葉は、カレンを深く傷つける。
だから代わりの言葉を探した。
「怖い思いをさせたかなって……」
「全然」カレンは笑ってそう答える。「エレンちゃんなら、絶対に助けてくれるって信じてたから」
たとえ嘘でも、救われたような気がした。




