26
「たくさん死ぬの。とてもたくさんの人が……」
そう言ったカレンの声は不自然な程に冷静だった。
そうしていなければ、自分を保つことが出来ないと言外に告げているようだった。
「お姉ちゃん、大丈夫?」
冷静に見えるカレンに向かってエレンは言った。その声にカレンは不思議そうな表情を浮かべる。それは自分の状態が理解出来ていないという顔だった。
「何が?」
「ううん、何でもない。……それで、どんな予知を見たの?」
「それは……」
カレンの話によると、エレンたちの住む町から駅二つ先の住宅街で大規模な火災が発生し、多くの人が犠牲になるらしい。それを聞いて最初に気になったのは、「駅二つ先」という聞き覚えのある言葉だった。
「ねえ、お姉ちゃん。もしかして、それってお姉ちゃんが見たもう一つの予知と同じ町なの?」
「そう。私が殺される場所のすぐ近くだよ」
淡々と答えるカレンに対し、エレンはひどく感情をかき混ぜられていた。
回避したはずのカレンの死が、再び、現実になろうとしている。
「行く、つもりなの?」
「うん、行く」ためらいなくカレンが答える。「そうしないと、きっと大勢の人が犠牲になるから」
「お姉ちゃん一人が行っても、何も出来ないよ?」
「そうだね。だから、エレンちゃん、一緒に来てくれる?」断られるだなんて微塵も考えていないような口ぶりでカレンは言った。
「ねえ、お姉ちゃん分かってる? その町に行ったら、お姉ちゃんは殺されるかもしれないんだよ?」
「分かってるよ」
「分かってないよ!」自分でもびっくりするくらい大きな声が出た。「せっかく自分が死ぬ予知を回避出来たっていうのに、どうしてまた危険を冒そうとするの?」
どれだけ大勢が死のうとも所詮は他人だ。
カレンが彼らを救う義理なんてどこにもない。
それなのに……。
「知っちゃったから」困ったように笑ってカレンは言った。
これは、何を言っても無駄だとエレンは思った。
きっとカレンは自分一人でもその予知に抗うつもりだ。
ほんの一瞬前まで、説得を試みようとしていたエレンは盛大に溜息を吐く。
「……分かったわよ。私も行く」
「ありがとう。エレンちゃんなら、そう言ってくれると思ってた」
「はいはい。……それで、その火災っていうのは、いつ起きるの?」
「明日の午前1時53分だよ」
「そう。明日の午前……、1時53分!?」
現在の時刻は日付が変わる2分前――午後11時58分。
あと、2時間もないじゃない!
しかも、それからわずか18分後には、カレンの死が予知されている。
「ちょっと、待って。流石に時間が足りなくない?」
「大丈夫だよ。出火の原因は分かってるから」
「いや、そういう問題じゃなくて! 仮にその予知を回避できても、今度はお姉ちゃんが助からないよ!?」
「うん、だからそれも大丈夫。だって、エレンちゃんが助けてくれるから」
また、それだ!
この期に及んでも、カレンはどこか楽観的だった。
「だから、お願い。私を助けて?」
そんな風に頼まれたら、もう断ることなど出来なかった。




