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普段はすごく頼りになるのに、弟が絡むとどうしてこんなに残念な人になるんだろう?
それが本日更新されたエレンのマヤに対するプロフィールだった。
家を飛び出したマヤは、しばらくしてシュウジによって無事連れ戻された。
「……ご、ごめんなさい」シュウジに頭を押させられながらマヤが謝罪を口にする。
シュウジにしこたま叱られたのか、マヤの目は真っ赤だった。
下手すると先日の事件の時よりひどい有様かもしれない。
何だか気の毒になって、エレンはすぐにその謝罪を受け入れた。
「……マヤちゃんって、あんなに残念な子だったっけ?」
「お姉ちゃん、それ思っていても口にしちゃダメな奴」
「すみません。いつもはこんな人じゃないんですけど……」シュウジが気まずそうに頭を下げる。
「そ、それはよく知っているから大丈夫です。シュウジ君も気にしないで下さい」
エレンがそう答えると、シュウジが照れたような笑顔で、「ありがとうございます」と言った。
「……やっぱりエレンさんって、素敵な人ですね」
「ギリッ!」
「そ、そんなことないですよ……」
「いえ、この前、俺を助けてくれたときもすごくかっこよかったです! でも、姉さんに少しだけ話は聞きましたけど、大変ですよね? エレンさんもカレンさんも、うちの姉さんみたいにおかしな力が使えるようになってしまったって」
「うん、そうだよ」とカレンが答える。「そのあたり、マヤちゃんにはどのくらい聞いてるの?」
「いや、いま言ったこと以外には……。どうせ今日集まるんだから、そのとき話すよって言われて」
「そっかあ。じゃあ、簡単に説明するね。私の力は人の死を予知することが出来るの。その力で、この前のシュウジ君の事件を知ったんだ」
「そういうことだったんですね。……ん? ってことは、俺ってもしかしてあの時、死ぬ可能性があったってことですか?」
「あっ……。うん、まあ……」
「ああ、それで姉ちゃんが、いつもに輪をかけておかしくなっていたのか……」シュウジはそう言うと、落ち込んでいるマヤの方を見る。「姉ちゃん、ごめん。俺、何も知らなくて……。心配かけてたみたいだ」
「シュウちゃん……」マヤはブワッと涙を浮かべると、シュウジに抱き着く。「私こそ、ごめんね。肝心な時に役に立たなくて」
「そんなことないよ。ありがとう、姉ちゃん」
「シュウちゃああん!」
姉の背中をポンポンと叩くシュウジは、エレンと目が合うと、困ったものですといった様子で苦笑を浮かべた。どうやらもう緊張はしていないようだ。ただ、何だろう。感動的な場面のはずなのに、妙に部屋の湿度が上がったような気がするのは……。
「それで姉ちゃんの力が人の心とか記憶が読めるもので、さっきの話だとエレンさんは身体能力の向上でしたっけ?」
「うーん、マヤちゃんについてはそうなんだけど、エレンちゃんについてはまだはっきりしないことが多いんだよね」
「というと?」
「エレンちゃんは、他にも私と同じように予知能力もあるみたいなの」
「え、マジすか!?」
「うん。マジマジ。そうだよね、エレンちゃん?」
「ま、まあ……。ただ、まだ一回しか見てないから、何とも言えないんだけど」
「それが私の死を予知していたっていうんだから、何か意味がありそうな気もするけどね」
「え、ちょっと待って下さい! いま、カレンさん、自分が死ぬ予知って言いました?」
「うん、言ったよ」
「何で、そんなに落ち着いてるんですか?」
それについてはエレンも全く同感だった。
「だって、私の予知だとエレンちゃんが私を助けてくれることになってるから」
「いや、エレン姉。それはまだ確定したわけじゃないでしょ?」
「でも、この前の事件で、エレンちゃんの新しい力も分かったことだし、きっと大丈夫だよ」
えへへと笑ってそう言ったカレンに、マヤが嘆息を吐く。
「まあ、たしかに希望が出て来たのは間違いないかもね。少なくとも、エレンの力が判明したのは大きな前進だと思う」そこまで言って、マヤはシュウジの顔を見る。「ねえ、シュウ君? 事件の時の記憶を見せてもらってもいい?」
「別にいいけど、どうして?」
「シュウ君は、エレンが力を使った所を目の前で見てたんだよね?」
「見てたっていえば見てたけど……。ぶっちゃけ、何が起こったのか、ほとんど分からなかったよ? 気づいたら全部終わってたって感じだし。そんなん見て役に立つかな?」
「それを確認するんでしょ?」
マヤはそう言って、シュウジの頬を両手でつかむと、じっと彼の瞳を見つめた。
集中している所為か、少しずつ、マヤの顔がシュウジの顔に近付いて行く。
「なあ、姉ちゃん。前も思ったんだけど、姉ちゃんの力って、こんなに顔を近づけないといけないもんなの?」
「集中するには、このくらい近くの方が良いのよ」
当然の様にそう答えたマヤに、「あれ?」とカレンが口を開く。
「でも、私の時はもっと遠くからやってなかった?」
「カ、カレン姉!?」
「……姉ちゃん。真面目にやろうか?」
「……はい」
三人から白い目を向けられたマヤは、渋々、普通にシュウジの記憶を読み始めた。
ここまでのマヤは非常に残念な感じだったが、力の運用は間違いなく以前よりも成長していた。
シュウジの記憶を読み取ったマヤは、それを更にスロー再生し、当時のエレンがどのような行動を取ったのかを詳細に把握することに成功した。
その結果、マヤの口から出て来たのは、「エレン、マジ怪物じゃん。ウケる!」と言った言葉だった。
「どういうこと、マヤちゃん?」
「どうもこうも、マジヤバイって。バカみたいな速さで移動したと思ったら、カレン姉に飛んでった銃弾を指先一つで弾き飛ばしたり、犯人たちをものすごい勢いで突き飛ばしたりしてさ。ぶっちゃけ、マジゴリラかと思ったわ!」
「ゴ、ゴリラって……」
「いや、ゴリラでもあそこまでのことは出来ないか……」
「姉ちゃん、そんな言い方、エレンさんに失礼だろ?」
「何よ、シュウ君? シュウ君はエレンの味方なの?」
「いや、味方って今はそういう話……。ああ、面倒くせえなあ、この姉は!」
シュウジが本音を漏らした後、エレンたちは今後の方針について話し合った。やることはこれまで通りカレンの予知で危険な目に遭う人を助けることだったが、それに追加してエレンがいつでも自分の力を発揮出来るようにすることが課題となった。
「で、でも、そうは言っても、私は何をすればいいんでしょうか? そもそも私、どうしてあんな力が使えたのもよく分かっていないんですけど……」
「それはやっぱり、この前の状況にヒントがあるんじゃない? エレン、悪いけどちょっと記憶を見せてもらってもいい?」
「あ、はい」エレンはマヤに言われるまま、彼女と目を合わせる。「……何か、分かりましたか?」
「……ううん、全然。ただひたすらエレンがテンパってるのが伝わって来ただけ」
「あ、そうですか……」
「まあ、それもそのうち分かるんじゃない?」あっけらかんとした様子でカレンが言う。
「カレン姉、楽観的過ぎるよー」
「だって、分からないことをいくら考えたってしかたないでしょ? 今のところ、手掛かりになるようなものもないみたいだし」
「それはまあ、そうなんだけど……」
「大丈夫だよ。きっと何とかなるから……」
まるで決まり文句のようにカレンが言う。
だが、その後、エレンの力は少しずつ成長を見せることになった。




