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至急、マヤの弟を助け出さなければならない。
不幸中の幸いなのは、こちらにはカレンの予知があるということ。
事件がいつ、どこで起きるのか。
それが分かるだけでも大きなアドバンテージになる。
ただ、今回に限っては、いくつか大きな障害があった。
そのうちの一つが……。
「――どうして、うちがついて行っちゃいけないの!?」
先程のカレンの様に、今度はマヤが駄々を捏ねていた。
それも仕方のないことだ。
これから自分の溺愛する弟が殺されるかもしれないと分かっていて、黙っていられるはずがない。
そんなマヤに対し、カレンは冷静に、どこか突き放すように答える。
「事件を回避した予知では、その場にマヤちゃんの姿はなかったから」
予知で見たのと違う要因が混ざったらどうなるか分からない。
カレンが言いたいのはそういうことだろう。
これまでエレンたちは、カレンの予知通りの状況を作り出し、事件を回避して来た。
それを先頭で指揮していたのは他ならぬマヤだった。
だから、カレンの言うことが間違っていないことはマヤにも理解は出来ているはずだった。
それでも感情がそれを受け入れない。
「そんなの、納得いかないし。偶々、カレン姉の予知の中に、うちが映ってなかっただけかもしれないじゃん!」
「仮にそうだとしても、不確定な要素であることは変わらないでしょ?」
「でも! でも……」
マヤがカレンに諭されることはあっても、言い負かされる所を見たのは初めてだった。
それくらい、今のマヤには余裕がなかった。
「お願い、マヤちゃん。今回だけは言うことを聞いて。でないと、弟さんの命が……」
自分でも卑怯な説得の仕方だと思ったのだろう。
カレンの顔が辛そうに歪んだ。
大きく見開かれたマヤの目から大粒の涙が零れ出す。
「シュウちゃん。シュウ、ちゃん………」
顔を両手で覆い、さめざめと泣き続ける友人の肩に、エレンは手を伸ばそうとしてすぐにやめた。
こんなとき、どんな言葉を掛ければ良いか分からなかった。
前世で周囲から虐げられて来た弊害か、人を元気付ける言葉も、慰めるような言葉も、エレンは持ち合わせてはいなかった。
もし、ここに居るのが、私じゃなくて本物の日野森エレンだったら……。
「――心配すんなし。私が何とかするから!」
きっと、こんな風に声を掛けていたことだろう。
「エ、エレン?」
「あんたの弟は、私がぜったい助ける!」
それが自分の口から出ていた声だと気付いた時には、マヤが腰に抱き着いていた。
「……エレンちゃん、今の?」
何かを聞こうとしていた姉に、エレンはただ首を振って答えるしか出来なかった。




