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 話が一段落すると、パンと手を叩いてカレンが言った。


「とりあえず、エレンちゃんたちには、これまでどおり私と一緒に予知で危険な目に遭った人を助けるお手伝いをお願い出来るかな?」


 自分が死ぬかもしれないと分かっていて、いつもと変わらない態度を取るカレンに、マヤも怪訝な表情を浮かべていた。


「――エレン。ちゃんとカレン姉の様子を見ていて上げて」日野森家を出て行く前にマヤが私に言った。

「多分、結構無理していると思うから」


 マヤの言葉通り、翌日、カレンは熱を出した。

 そして、その日の夕方、彼女はまた一つ、予知を見た。

 その予知は、今日の夜に起きるらしく、エレンとマヤは二人だけで人助けに向かうことにした。


「私も行く!」

 

 そう言って仕方ないカレンに、見舞いがてら日野森家に来ていたマヤが、「いや、熱が38度以上もあるんじゃ無理でしょ」と正論をぶつけた。


「とりま、カレン姉の予知を見せて。そしたらすぐに作戦を考えるから」


 ……何だか、いつの間にかマヤさんがリーダーみたいになってる気がする。


 エレンがそんなことを考えていると、「ダメ」と深刻そうな声でカレンが答えた。


「今回の予知は、マヤちゃんには見せられない」


「え、何? どゆこと?」


「今回の予知はね、殺人なの」


「殺人!?」思わずエレンが声を上げる。


「そう……。今日の午後9時21分。南区の倉庫街で殺人が起きる」


「そ、そんなの、すぐに警察に連絡した方が……」


 エレンの言葉に、カレンは首を横に振る。


「私が見た予知の内、失敗した方では、警察や大人にも相談した後だった。でも、警察の方は何か別の事件が起きていて取り合ってくれなくて、私たちやマヤちゃんの両親とか、身近な大人はみんな連絡が取れないみたい」


「そういえば、うちの両親二人とも出張中だったわ」思い出したようにマヤが言う。


「うちも今日は帰りが遅くなるって、さっき連絡が……」


 エレンがスマホのチャットアプリを見せると、「やっぱり」とカレンが肩を落とす。


「で、でも、誰か一人くらい話を聞いてくれる人がいるんじゃ……」


「そうやって手をこまねいてる間に、事件が起きて、結局、私たちは間に合わなかった」


「じゃ、じゃあ、成功した方の予知はどうだったの?」


 エレンがそう尋ねると、何かに気付いたようにマヤが、「あ!?」と声を上げる。


「もしかして、カレン姉が一緒について来たがっていたのって、そういうこと?」


「うん」


「え、何? どういうこと?」


「多分、事件を回避できた予知では、カレン姉も私たちと一緒に現場に来ていたんでしょ?」


「そう」


 だから、カレンは無理してでも一緒に来たがったのだ。

 予知で見た未来と状況を合わせるために。


「……そういうことなら、やっぱりお姉ちゃんにも一緒に来てもらった方がいいのかな?」


「いや、っていうかさ。今回は、手を引いた方が良くない?」


「え!? でも、それじゃあ、予知で犠牲になった人は……」


「うん、エレンの気持ちも分かるよ。でもさ、殺人事件を食い止めるとか、ぶっちゃけうちらには荷が重すぎるでしょ。ちょっと不思議な力が使えるからって言っても、うちら普通の女子高生なわけだし。これまでみたいにノリで何とかなる状況でもなくない?」


 限りなく現実的なマヤの意見。

 倫理観以外で反論の余地がないエレンは口を閉ざす。

 だが、それをカレンは真っ向から否定した。


「だめ。この予知は絶対に回避しないと」


「どうして? 今までもそうだったけど、カレン姉はお人好しが過ぎるよ? 今まではまだどうにかなりそうだったけど、今回はうちらにも危険がおよぶかもしれないわけじゃん? 言い方悪いけどさ、赤の他人のために二人を危険な目に遭わせるのはうちは反対なんだけど」


 カレンの言うことはもっともだ。

 エレンだって、二人を危険な目になど遭わせたくはない。

 そう思っていると、「後悔するから」とカレンの口から声が聞こえた。


「後悔?」


 ピンと来ないカレンの答えに、エレンが首を傾げていると、対面にいたマヤの顔が見る見る蒼くなる。


「ま、待って。ちょっと、待って。……ねえ、カレン姉? そう言えば、どうしてさっきうちに予知の記憶を見せてくれなかったの?」


「……………………」


「もしかして、他人じゃないの?」


「……………………」マヤの言葉に、カレンが顔を背ける。


「……まさか、シュウちゃんなの?」


 シュウちゃんとは、マヤの弟ことだ。本名は斉木シュウジ。マヤは弟をシュウちゃんと呼んで溺愛していた。


「ねえ、答えてカレン姉!」いつもどこか飄々としているマヤが、人目も憚らずに大声を上げる。「シュウちゃんが殺されるの?」


 数秒の沈黙の後、カレンは絞り出すように、「うん」と答えた。

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