13
「――で、カレン姉に呼ばれて来たみたわけだけど何の用?」日野森家のリビングでソファに腰掛けながら
斉木マヤが言った。「うち、午後から弟と映画見にいく約束してるんだけど」
「あ、弟さんと仲直り出来たんだ?」
カレンがそう言うと、途端にマヤが笑顔を浮かべた。
マヤには人の心を読む力があったが、先日、その力で弟の心を読んでしまったらしい。
そのせいで、斉木姉弟しばらく険悪な状況になっていた。
「そうなんよ。何かずっと微妙な感じだったんだけどね。昨日、『まあ、よく考えたら、今更姉ちゃんに隠すようなことなんてないし』とか言って許してくれたんよ。それどころか、『俺も大人げなかったから』って言って、今日、うちが見たがってた映画に誘ってくれたの。……ああ、まじでうちの弟が天使過ぎでヤバイ!」
エレンは、マヤが毎日のように弟へ貢物を買っていたことを知っていた。それも割と高価なものを。きっと、流石にマズいと弟さんも思ったのだろう。マヤを映画に誘った時の弟さん姿が目に浮かぶようだった。
「まっ、そういう訳だから。うち、今日は割と忙しいんだよね」
「ごめんね、マヤちゃん。そんな時に呼び出しちゃって」
「いいよ、いいよ。カレン姉のお願いだしね。で、うちにお願いしたいことって?」
「それなんだけどね――」
カレンが自分が見た予知の記憶を見て欲しいと頼むと、「りょ」とマヤが軽い返事をした。
「そんじゃあ、早速だけどカレン姉、うちの目を見てくれる?」
「うん」
カレンとマヤが目を合わせる。
それから数十秒が経過し、「え、これマジ!?」とマヤが言った。
「カレン姉、ヤバいじゃん! もし、エレンが本当の力に覚醒しなかったら死んじゃうやつじゃん」
「あ、うん。そうなんだよね。だから、どうやったらエレンちゃんが――」
「これは多分、前世と今世のエレンが一つに融合することで真の力に目覚めるパターンだね。問題は今のエレンの潜在意識に眠っているもう一人のエレンをどうやって呼び覚ますかだけど……」
カレンの言葉を遮って、マヤがぽつぽつと独り言を口にする。
「……何かマヤちゃん、私たちが知りたかったことのほとんどを教えてくれたね?」カレンが隣に居たエレンに耳打ちする。
「というか、新たな問題提起までしてくれたけど……」
「こういうの何て言うんだっけ?」
「……ネタばれ?」
「ああ、それそれ」
日野森姉妹が小声で話し合っていると、我に返ったマヤがこちらに顔を向ける。
「ごめん、二人とも。ちょっとトリップしてたわ」
「ううん、気にしないで」と、カレンが答える。「ところで、エレンちゃんの中に、もう一人のエレンちゃんがいるみたいなことを言ってたけど、それってどういうことなの?」
「ああ、それ? まあ、うちがカレン姉の記憶を見て思いついた推測だけど……」
カレンの予知で、エレンは不思議な力を使って未来のカレンを救い出していたらしい。その時のエレンは以前のようなギャルっぽい口調になっていたそうな。
「でも、それって、前のエレンちゃんが主人格になったってことなんじゃない?」
「ん-、何かそういう感じでもなかったんだよねえ。口調はたしかに前のエレンと同じだったんだけど、雰囲気はむしろ今のエレンみたいだったから」」
「それで、前世の私と今世の私が融合したんじゃないかって思ったんですか?」
そう尋ねたエレンに、「そゆこと」とマヤが答える。
「カレン姉は、予知を見た時、何か感じなかった?」
「それがよく分からなくて……。私の予知って、何ていうか今の私が未来の私に憑依するような感じでね。見聞きしたものは共有することが出来るんだけど、そのとき私が何を感じたかまでは分からないの」
「そっかあ」
「でも、私もマヤさんの説が濃厚な気がします」
「その心は?」
「実は……、前に一度だけ、自分の意思とは無関係に口が動いたことがあって……」
「それって、もしかして、私が初めてエレンちゃんに予知のことを話したあの日?」
「うん」
「やっぱり。あの時のエレンちゃん、ほんの少しだけ前のエレンちゃんみたいになったから」
あの時は別のことに気を取られて深く考えもしなかったが、いま思えばあれは私の中に眠っている日野森エレンが表に出て来たということなのかもしれない。
「じゃあ、やっぱり、カレン姉を助けるには、エレンの中のもう一人のエレンを呼び出す必要があるわけだ」
「そういうことになるね」
そう言って、カレンとマヤがこちらに目を向ける
なにやらすごく期待に満ちた目だ。
そんな目を向けられても、どうすればよいのか分からなかった私は、もう一つ、気になっていたことをマヤに尋ねる。
「あ、あの! ところで私がお姉ちゃんを助けたときに使っていた力っていうのは、どんなものだったんですか?」
「それ? うーん、ぶっちゃけ、分からん」
「え?」
「何か一瞬、バァーッってなって、気付いたらエレンがカレン姉を助けてたって感じ?」
「え?」
「だよね、だよね! 私も同じ」
「まあ、そりゃ、うちが見たのはあくまでカレン姉の予知の記憶だから」
「それじゃあ、どうやってお姉ちゃんを助けたかは……」
「分からん」
「えぇ…………」
「まあ、まあ、エレンちゃん。そんなに気を落とさないで。きっと何とかなるよ」
「……はあ。お姉ちゃんは、どうしてそんなに気楽でいられるの?」
収穫はあった。
でも、一番知りたかったことは分からなかった。




