12
翌日、話すか話さないか悩んだ末、エレンは自分が見た予知についてカレンに聞かせた。
怖がらせてしまうのではないかと思ったが、それを聞いてもカレンに動じた様子は見られなかった。
「そっかあ。私、死んじゃうのかあ」どこか他人事のようにカレンが言う。「……それにしても、姉妹揃って同じような力に目覚めるなんて運命的なものを感じるよね?」
「何、暢気なことを言ってるの!? お姉ちゃん、死んじゃうんだよ?」
「うん、分かってる」
「分かってないよ! ……もしかして、私の話、信じてないの?」
「ううん。ちゃんと、信じてるよ」
「だったら――」
思わず大きな声を上げたエレンに、「大丈夫だよ、エレンちゃん」と穏やかな口調でカレンが言う。
「その予知は外れるから」
「え? ……それって、どういうこと?」
「私もね、同じ予知を見たの。でも、その結末はエレンちゃんの見たものとはまったく逆だった。私の予知では、エレンちゃんが私を助けてくれた。だから、私は何も心配してないの」
「そ、そんなの、本当にそうなるかなんて分からないじゃない」
「分かるよ」
「どうしてそう言い切れるの?」
「信じているもの。エレンちゃんなら、きっと何とかしてくれるって」
「そ、んな……」
過度な期待を寄せられても私に出来ることなど何もない。
前世もそうだったのだ。
それはきっとこれからも変わらない。
だって、私は……。
「自分のこと、信じられない?」
「え?」
「そういう顔してる」カレンが年長者の笑みを浮かべて言う。
「どう、して?」
「分かるよ。お姉ちゃんだもん」
「でも、私は……」
「本当の日野森エレンじゃない?」
再び、私が言おうとしていた言葉を姉が口にする。
まるで心を読まれているみたいだ。
でも、嫌な心地はしなかった。
むしろ、この人は私のことを理解してくれているという安心感があった。
どうしてそんな風に出来るのだろう?
今、本当に大変なのはお姉ちゃんのはずなのに……。
「……お姉ちゃんは、怖くないの?」
「何が?」
「死ぬのが」
「怖いよ。とっても怖い」
「だったら――」
「でも、私は信じてるから。私が見た予知の通りに、きっとエレンちゃんがなんとかしてくれる。これまでみたいに」
「……そんなの偶々だよ」
「ううん、違う。あれはエレンちゃんの行動の結果。……すべては必然だったの」
「必然って……。そんな、何の根拠もないこと……」
「根拠ならあるよ」
「え?」
「エレンちゃん、覚えてる? 私が予知を見始めたばかりの頃の話」
「う、うん。いくつか予知を見て……。でも、誰も救うことができなかったって」
「そう。……どうしてか分かる?」
「わ、分かんないけど」
「あなたが居なかったからだよ」
「私?」
「そう。私の予知が回避できるようになったのは、あなたが現れてからだった。前世の記憶を取り戻したエレンちゃんが」
「で、でもそんなのはやっぱりただの偶然――」
「そう決めつけるだけの根拠もない。違う?」
「そ、それは……」
「私はね。エレンちゃんが前世の記憶を取り戻したのには何か意味があるんじゃないかって思ってるの」
「え、いや、それはあの女神様の手違いで……」
「うーん。でもさ、女神様が、そんな人間みたいな失敗をするかなあ?」
たしかにお姉ちゃんの言うことも一理ある。
あれでも一応、腐っても女神様だし。
何か意図があったとしてもおかしくはない。
「ところでエレンちゃん?」考え事をしていた私に姉が言う。
「何?」
「エレンちゃんが見た予知だと、私はどういう風に死んじゃうの?」
「どういうって言われても……。私が見た予知はなんていうか抽象的ではっきりしないから。お姉ちゃんがたくさんの花びらになって消えて行ってしまう光景だけが見えて……」
「そっかあ。私が見たのとは大分、違うね」
「お姉ちゃんはどんな予知を見たの?」
「私のはね。自分の意識が途切れるほんの少し前の光景。その時の私はスマホでエレンちゃんに何かを伝えようとしていたんだけど、途中で力尽きちゃって……。ただ、未来の私は、自分がもっと早くエレンちゃんの本当の力に気付いていれば、こんなことにならなかったのにって、すごく後悔してた」
私の本当の力?
それって今朝見た予知能力のことだろうか?
いや、それだったらわざわざ「本当の」だなんて言わないはずだ。
「私の力って、予知能力じゃない?」
「そうだと思う。もう一つの予知だと、エレンちゃんすごくかっこよく私のことを助けてくれてたし。きと何か別の力を使ってたんだと思う。」
「私がかっこよく?」ダメだ、まったく想像が出来ない。「それって、どんなふうに?」
「うーん。それがね。もう一つの予知の方はエレンちゃんと同じですごく抽象的なの。何ていうか、こう、バアーッて感じで……」
うん。
全然、分からない。
「お姉ちゃん、もっと具体的に説明して」
「そう言われても、本当にそういう感じだったんだし……」
困った。
姉の予知が頼りなのに。
これでは助けようにも助けられない。
誰か姉の予知を言語化できる人物はいないだろうか?
そう思った瞬間、私と姉は同時に相手の方を見た。
「マヤさん!」
「マヤちゃんだ!」
声を上げた私たちは、すぐにマヤさんに連絡を取ることにした。




