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 結論から言うと、お姉ちゃんの予知は問題なく回避された。


 事故現場へと赴いた私たちは、速やかに被害者の男性を見つけ出した。

 それから私の一世一代の勇気を振り絞った説得により、その男性が現場へ向かうのを食い止めた。

 おかげでいま、私は駅構内のベンチでぐったりとしている。


「エレンちゃん、えらい! よく頑張ったね!」お姉ちゃんが良い子、良い子しながら私を労う。


「いや……。いやいやいや。エレンがやったのって、あのお兄さんの前でただテンパってただけじゃん。あんまり挙動不審だったから、逆に心配されてさあ」


「でも、そのおかげであのお兄さんは事故現場に行かずに済んだんだから結果オーライじゃない?」


「まあねえ。でも、何かさあ。うちらの初陣があれって、ちょっとどうよ?」


「…………ま、まあ。そういうこともあるよ。誰だって最初から上手くいくはずないんだから。これから! これからだよ、エレンちゃん!」


 何だろう。

 励まされるほど惨めになるこの感覚。

 自分のことながら、まさかここまでの醜態を晒すとは思っていなかった。


「でもさあ、傍から見ると中々面白い絵面だったよね? あのお兄さん結構かっこ良かったし。あれじゃあ、まるでガチガチに緊張したギャルが逆ナンしているようにしか見えなかったし」


「あー、まあ、それは確かに」


「あのお兄さんも満更じゃないって感じだったしね?」


「そう言えば、あの人のエレンちゃんを見る目、何かちょっといやらしかった気がする……」


「カレン姉?」


「助けたの、失敗だったかな?」


 ぼそりと呟くカレンに、マヤの頬が引き攣る。


「真顔でそういうこと言うのやめよ? 何かマジっぽく聞こえるから」


「え? なに言ってるのマヤちゃん? 冗談に決まってるじゃない?」


「目が笑ってないよ、エレン姉……」


 そんな二人のやり取りを聞きながら、次はもう少しちゃんとできる様に頑張ろうとエレンは思うのだった。


     ◆


 前世の記憶を取り戻して二週間。

 その間にエレンたちは五回、カレンの予知を回避していた。

 そのどれもが一筋縄ではいかなかったが――主にエレンのコミュニケーション能力の欠如の所為で――自分たちの行動が人の助けになっているというのは悪い気がしなかった。


 私が誰かと一緒に人助けをしているだなんて。

 前世の私が聞いたらなんて言うだろう?


 ……なんか不思議な感じ。 


 そう思った時だった。


 ふと当たり前の疑問が頭に浮かんだ。


「……ここ、どこ?」


 何となく見覚えのある風景。

 エレンは周囲を見渡しながら、この状況にどこか既視感のようなものを覚えた。


「これって、あの時見たのと同じ?」


 確信があったわけではない。

 ただ、もしかしてという予感はあった。

 

 やっぱり私にもお姉ちゃんと同じような力があったのね……。


 カレンの予知を初めて回避した時、一瞬だけ見えた不思議な光景。

 あれは未来の景色だった。


 もっとも、転生なんておかしなことを経験したエレンにとって、不思議な力に目覚ることなど、それほど驚くようなことではなかった。まあ、そういうこともあるよねと、軽く受け流すくらいには現状を冷静に見つめることが出来ていた。


 問題なのは、先程から伝わって来るこの力の本質。


 ……これ、絶対ハズレだよね?


 カレンと同じく未来が見える。多分、これはそういう類の力だ。だが、何と言うか、痒いところに手が届かないような絶妙な使い勝手の悪さを感じた。


 例えばそう。

 いま目の前に浮かび上がったカレンの姿。

 首から血を流し、虚ろな瞳でこちらを見つめていた彼女は、「ごめんね」と言って、その場に倒れた。

 

 エレンは反射的にその体を受け止めようとしたが、花弁が散るように、カレンの体が虚空へと消えて行った。

 まるでこれは決して変えられない運命なのだと誰かに言われているようだった。

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