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見つめ合う二人を眺めながら、カレンはマヤが何をしようとしているのかを考えていた。
おそらくマヤはカレンの記憶にある景色を読み取ろうとしているのだろう。
「カレン姉、目を逸らさないで!」
「あ、う、うん。ごめんね。……あはは。でも、何かちょっと照れちゃって……」
「可愛いかよ」
「え、なに?」エレンの呟きに、カレンが反応する。
「ううん。何でもないよ。それよりお姉ちゃん、集中して」
「はーい」
しばらくして、「もういいよ」とマヤが言った。
「カレン姉の言ったとおり、事故が起こるのは田園地帯みたいね」
「そうなの。何か目印になるようなものでもあれば、場所も特定しやすかったんだけど……」
「あー、多分だけど、何とかなると思うよ そう言って、マヤはスマホをポチポチといじり出し、しばらくの間、無言の時間が続いた。「……見つけた」
「え?」
「多分、ここじゃない? カレン姉が見た場所って」
マヤが差し出して来たスマホの画面を、カレンとエレンが覗き込む。
「あ! そうだよ、ここだよ! すごい、マヤちゃん。どうして分かったの?」
「得意なんだよね。動画の背景とかから場所を特定するの」
「すごーい!」
「うわあ……」
友人の隠れた特技に若干引きつつ、問題が一つ解決されたことを喜ぶことにした。
◆
翌日の早朝。
エレンたちは、始発の電車に乗り、マヤが特定した田園地帯の最寄り駅に向かった。
「電車、空いてるね?」
「始発だからね。エレンは大丈夫? 早起きは苦手でしょ?」
「平気です。記憶が戻ってから、前ほど朝が辛くなくなったので」
「それって、体質も変わったってこと?」
「というより、生活習慣が変わったせいかと。以前の私は夜更かしが多かったので」
「そうなのよ。エレンちゃんってば、いつも夜遅くまで動画見たり、ゲームしたりして。夜更かしは美容にも良くないからって注意していたのに全然聞いてくれなかったの!」
「ごめんなさい」居た堪れなくなってエレンが謝る。
「あ、違うの。今のはエレンちゃんのこと言ったんじゃなくて……」
「いや、エレンのことでしょ?」
「うぅ……、なんだかややこしいよお」
唸るカレンを見て、マヤが肩を竦める。
「カレン姉? もしかして、緊張してる?」
「……う、うん」
カレンの予知では、事故が起こるのは、午前6時半頃。
運送用のトラックが突然蛇行し、ちょうどそこを歩いていた通行人が巻き込まれてしまうらしい。
これだけ情報が揃っていれば、事故を回避するのは容易にも思える。
だが、カレンの話では、そう簡単には行かないらしい。
「私が予知したものは、私自身には変えることが出来ないから」そう言って、カレンはエレンの方を見る。「今回も、エレンちゃんに協力してもらうことになるけど、大丈夫?」
「だ、だだ、大丈夫だよ、お姉ちゃん。昨日、何度も予習したし」
ガチガチに緊張している姉妹に対し、マヤは泰然としていた。
「言うて、ただ、通行人に話し掛けるだけでしょ? 楽勝じゃん?」
「そ、そうなんですけど……」
「今のエレンちゃん。すっごい人見知りだから……」
「でも、うちらとは普通に話せているじゃん?」
「それは、二人とも以前の私と仲が良かったから、自然と安心できるっていうか。でも、知らない人が相手だともろに前世の私が顔を出して来て……」
「なるほど。……何か、ものすごくしょうもない理由でピンチになってね?」
「ど、どど、ど、どうしよう、お姉ちゃん!? 何か、どんどん緊張して来たんだけど」
「お、おお、落ち着いてエレンちゃん! だ、大丈夫よ。ほら、アレ! これから話をする人のことをかぼちゃだと思えば!」
「それ、何かちがくない?」そう言って、マヤが呆れたように溜息を吐く。「でもさあ? 一昨日、子供を助けたときは上手く出来たんでしょ?」
「あの時は、私、一言も話さなかったので……」
「筋金入りだねえ。……ねえ、カレン姉? やっぱり私が代るんじゃだめなの?」
マヤの提案に、カレンは首横に振って答える。
「うん。理由は分からないけど、私の予知を回避できるのはエレンちゃんだけみたい」
「でも、試してみる価値はない?」
「一度しかないチャンスだよ? しかも人の命が掛かってる。一か八かで動くなんて出来ないよ」
「……ま、そうだよねえ。となると、やっぱりエレンに任せるしかないわけか」
二人の視線を受けたエレンは引き攣った笑みを浮かべる。
「ま、任せてください」
「頼りねえー」と、マヤが言った。




