約束の朝
お久しぶりです!
次の日の朝。
昨日はあのあと午前中にダンスの出来で及第点がもらえたため、前倒しだと褒められながら午後から座学での勉強をしていた。
それは国内外の王族、貴族の名鑑のようなものを見ながらどういう歴史のある家門だとか云々かんぬん、社交に必要な人間関係の把握。それはとにかく記憶力を試される内容で。
記憶の定着には睡眠後の再確認が有効だったはずなので、思い出せる家門をブツブツ唱えながら私は鍛錬するために中庭に向かった。
「おはようございます」
「あっおはよう、ございます」
(一緒に鍛錬とか緊張する……)
朝から国宝級の美形のミシェル王子の爽やかな様子は私には眩しすぎる。
それに、相手は今も現役どころかまだ全盛期も迎えていない日々鍛錬を重ねている武人。一方の私はいくら武芸に秀でていたとはいえ女の身体で、しかも前世の記憶を取り戻してからは全く鍛錬らしい鍛錬もしていないだらけきった肉体。(まだ若いから見た目の変化はないが、アラサーだったら確実に太っていたのではないかと思われる)
一緒に鍛錬なんかしてあまりの私のできなさに幻滅されるのではないかと急に心臓がバクバクしてくる。
(でも昨日はバク転三回は出来た!元の私だったら一回も出来てないもの、きっと月鈴の肉体がまだ覚えているはず!)
簡単な柔軟のあとミシェル王子は剣、私は体術が専門なのでそれぞれの基本の動きをしていく。
(やっぱりこの身体、頭を使わないことはめちゃめちゃ動きがいい涙)
「……本当に鍛錬は久しぶりなのですか?」
「ええ、はい、こちらに来て以来、です」
「そうとは思えない動きだ」
「……私も自分にびっくりしています」
休憩中、ミシェル王子が驚いて問いかけてきた通り。私の心配とは裏腹に、月鈴の身体は数年ぶりとは思えないくらい軽やかな動きで技を繰り出していた。
王子も驚いた顔を通り越して不審そうなくらいまでの視線でこちらを見るため、私は心の中で半泣きになりながら慌てて言葉を続けた。
「本当に、こちらに嫁い……で、きてからは一切武芸からは離れていたんです。だって、私がここで鍛えたりしたら……」
ただでさえ王に召される前に披露した剣技によって周囲の不信感を買っていたであろう亡国の王族の姫が、それからも鍛錬などを続けていたりしたら。
「……謀反の意はないということを示すために?」
「そうです」
「あんなに見事な剣舞を披露できるような腕前だったのに、自身の誇るものを磨けないのはお辛かったのでは」
「いいえ」
だって元々前世の私は動くことが得意ではなかった。それに。
「私、この国で平和に生きていきたかったんです。謀反なんてとんでもない!この国に害のあることなんて一切しないで、大人しく生きていこうって思っていました」
言い出すと日本人だった私の思いは止まらない。
「王の側室になんてなったら、後継を産んだりしたら、権力争いに参加したと見なされちゃう。しなくてもいい苦労をすることになっちゃう。それは嫌だったんです」
「しかし、第三王子を産んでしまえばいつか国母となり、誰からも指図されない立場になれる、ということは……」
「まさか!だって、あなたも、ディディエ王子もとても優秀じゃないですか。あとから私なんかが王子を産んだってそれは覆りません。それに、」
私は力いっぱい答える。
「あんな、あんなに年上の旦那さんなんて、しかも、他にも奥さんがいる旦那さんなんて嫌じゃないですか!」
(しまった……)
私の力いっぱいの発言に驚き目を大きくするミシェル王子。
その顔を見て私は今の発言を後悔する。自分の父親をけなされ、更に側室が嫌だというのは、これから婚姻関係を結ぶであろうミシェル王子に言って得することは一切ない。
きっと、ミシェル王子も場合によっては政治的な意味から側室を持つことも考えられる。それをはなから嫌だと否定するのは今後の私たちの関係にも影響を及ぼしかねない。
「あ……」
「……」
「わ、私はただ一人の人を大切に想いたくて、それを誰かと争うことなくいたいんです」
ミシェル王子とディディエ王子の母君同士は不仲だと聞いている。そういういざこざを避けたいという言い方なら、ミシェル王子にも理解できるのではないか。
そう思ってうまい言い訳になったのではないかとちらと王子を見上げた。ら。
「それって、俺に対してもそう思って……くれていますか?」
少し、赤くなった頬。見上げた私の瞳からさっと視線を逸らしながら言われた言葉。
「も、勿論です!」
「!」
(よし!ここで仲良し作戦!)
「私はミシェル王子を生涯の伴侶として、大切に想って、いきたいです」
「……っ」
「もしかしたら他の方を側室に……なんて日も来るかもしれないけど……どうか私のことも、忘れないでいてくださいね?」
(じゃないと追放ルートが発生しちゃうかもしれないもん、絶対ムリ!)
もしそうなったらどうしよう、側室なんて時点で私泣いちゃうかも……なんて独り言を呟き、だからお願いしますね?という確認のため右手を伸ばし、そっと彼の左手に触れる。
「な、泣いちゃ……。あなたを泣かすことはしないと、誓います」
「良かった」
私の仲良し作戦は効いたようで、いつも王子らしく余裕のある様子の彼が珍しく焦ったようにそう言う姿は、四つ年下だということを思い出させるようで素直に可愛いと感じた。
「では、俺から一つ提案をしても?」
「あら、なんでしょう?」
ふわりと笑ったミシェル王子の美しい顔に赤面した私はそれをごまかすように少し視線を外してから再度微笑んで見上げる。
「月鈴様、ではなく月鈴と呼んでも?」
「!」
「月鈴妃は勿論、月鈴様だと、まだ父のものという気がして……」
「も、勿論です」
「では俺のこともミシェルと呼んでください」
ここまでお読みくださりありがとうございました。




