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眠れない夜

「さすがに足が痛いー!」


 午前も午後もダンスをしていたとあって足の疲労が半端なく、自室に戻った私は靴を脱ぎ捨ててベッドにダイブした。


「でも勉強より全然マシって思っちゃうのは月鈴が脳筋だからかな……」


 前世ではそうでもなかったのに、月鈴の肉体では頭を使わないことはとても早く習得できている気がする。ダンスも今日一日で普通以上に踊れるようになったはずだ。

 それにしても、ダンスというのは相手によって随分踊りやすさが変わるのだということを今日初めて知り驚く。

 勿論ダンスの先生が下手だったというわけではなく、当たり障りなく、正しく教えてくれていたのだろうけれど。それでもセレスティア王妃、更にミシェル王子と踊った時の動きやすさには感動すら覚えた。

絶妙なタイミングでのリードはとても踊りやすく楽しくて……


 そこまで考えると、ミシェル王子が夜会でたくさんの令嬢を相手に踊っていた姿がなんとなく思い出され、胸が少し痛む。


(あの中に、気になる令嬢とかはいなかったのかな……)


 二十一歳のディディエ王子には婚約者がいるが、まだ十七のミシェル王子には候補が時折あがりつつもはっきりと婚約者として決まっていた令嬢はいなかった。

 その、何名かの令嬢たちの中にはもしかしたらミシェル王子が気に入った令嬢がいたかもしれない。

 しかも、その子たちは当然ミシェル王子と年齢の釣り合う十七歳前後の令嬢たちだったはずだ。二十一のバツイチなどお呼びでもない。


「わ、私、大丈夫なのかな……」


 そう考えると途端に自信がなくなってくる。月鈴の容姿は美しいが、それは十七歳の少年から見ても同じとは限らない。

 それに、候補にあがっていた令嬢たちからしても私は面白くない存在に違いない。そちらからも足元をすくわれるなんてことがあるかもしれない。


「やっぱり断罪を避けるためにはミシェル王子の好感度を最大限にあげておかなきゃいけないよね」


 そう思った私は好感度をあげるべくミシェル王子の機嫌をとることにした。


・同級生のような気楽さで

・お色気はほどほどに、軽いスキンシップまで

・とにかく笑顔

・場合によっては武術での交流


 ……笑わないで!あまり使えない頭で必死に考えたんだから。

 まず、一緒にお茶をしたときに私が不躾に自分の食べかけのケーキを差し出したときに言っていた『気を許してもらえたようで嬉しい』という言葉。

 ミシェル王子はやっぱり王子として育ってきたあまり、距離の近い異性というものがいなかったに違いない。近づいてくる令嬢は漏れなく「第二王子妃」を見据えたものだったのではないのか。だから、ここは邪心のない純粋なやり取りを欲しがっているのではないかと予想したのだ。

 私のすることは、気安く話せるような雰囲気づくりをすること。きっとそうだと思う。

 次に……夜の部屋の前での一件と、私より年下の十七歳というところからも、あまりこちらの肉体美を使ったあからさまな誘惑は逃げられる可能性があるのではないかと思う。それに、私自身そういう誘惑は出来ない!(涙)ただ、若い男の子ということで、ちょっとだけ年上の色気を感じさせることは必要、なのかもしれない……ここは要検討ということで。

 それから感じたのは、私が素で笑ったときのどこか照れたような反応からいって、ミシェル王子は下心のない本心からの親しみのある表情に弱い、ように思う。ここは平和な日本育ちだった頃を思い出しながら頑張れたら……

 そしてやはり、武術に優れているミシェル王子の関心を引くのは武術。ここは月鈴の身体の記憶を頼りに、時間を見つけて鍛錬を少しずつ再開して手合わせくらいはした方がいいと思った。

 私の未来を握っているのはミシェル王子なのだから、色んな方面から精一杯頑張って彼の心を手に入れておかないと!


 とにかく以上のことを意識しようと誓って私は眠りについた。



「はっ!」

「ほっ!」


 月鈴の身体は元気なもので前日のダンス練習の疲労もほとんどなく朝から動けたため、私は朝食前に武芸の鍛錬をしていた。周囲は朝食の準備の匂いはかすかにするが、イレーネを含め起きている者はほとんどいなくて中庭もひっそりとしている。


「はっ!」


 嫁ぐにあたって慶西国の伝統の剣は没収されてしまっていたため、今やっているのは剣舞ではなく拳のみで行う舞になる。武術太極拳が近いだろう。

 しかし五年ほど鍛錬をサボっていた代償は大きく、納得いく動きには全くならない。


「キレが全然ないわ!」


 キレのある動きになるには舞の練習はもとより、基礎的な体幹の鍛錬も重要となる。それも、想像を絶するような量と内容の。


「よしっ」


 私は広い場所を探すとバク転を始めた。が、三回目で限界を感じてその場に座り込む。


「昔は何回でも出来たはずなのに……!身体が重い……ハッ!これはもしかして老化なの!?いやぁーーー!」


 半泣きで頭を抱えていると背後から吹き出す声が聞こえ、はっとしてそちらを見る。


「ミシェル王子……!」

「やはり、まだ動けるじゃないですか」


 笑いながらこちらに来るミシェル王子に対して、私はその分後ろに下がって距離を取る。そのため中途半端な距離で私たちは向かい合った。


「いつから見てたんですか!?」

「月鈴様が回転しているところは見ました。俺も鍛錬に出ていたのですが、その様子ならご一緒させていただいていたら良かったと」

「いいえそんな!久しぶりに身体を動かしたら全くダメで、とてもご一緒になんて……」

「そんなに謙遜しなくても。あんな動き、俺には出来ませんよ」


 いや、それはだって、武術の系統が違うからね?


「昔は何回でも出来たんですよ……なのにもう、ちょっとしか出来なくて自分に呆れてました」

「そうですか」

「なので、これから毎日朝の鍛錬も日課にしようかと思っていたところです!」

「なんと、それなら明日からは是非ご一緒に」


(余計な一言が墓穴を掘った……!)


 若干ひきつった笑顔で曖昧に頷いていると、ミシェル王子がまた少し距離を詰めたので私はその分だけ離れる。


「……どうして距離をとるのですか」


 傷ついた表情の王子に私は観念して言った。


「今、ものすごい汗ですから!絶対、汗臭いですから!近くに来たら絶対、匂いますから!!」


 ヤケになって涙目で告げた私にミシェル王子はふはっと大爆笑して言う。


「それなら俺も鍛錬後なので臭いですね。俺は気にしませんが、月鈴様は俺が臭いと気にされますか?」

「うぇ、い、いいえ……!」


 むしろミシェル王子からはいい香りがするようで、香水なのか高貴な人は体臭も高貴な香りがするのかと思ってしまうほどだ。一方私は肉体こそ高貴なのかもしれないが、やっぱり自分の汗臭さは気になる。


「なら、気にしないでください」

「いいえ、気にします!本当ごめんなさい、失礼します!」


 私は半ば強引にその場を後にして部屋に逃げ帰ったのだった。


ここまで読んでくださりありがとうございました!


セレスティア王妃が月鈴の相手をなぜ出来たか、という点について。

私は学生時代にちょっとだけ社交ダンス(競技ダンス)をやっていたのですが、もちろん女性は女性の足型を覚えるのが基本なのですが、時々同性の新入生に教えるために基本ステップは男性の足型を覚えて踊れるようにしておくと一緒に踊ることが出来て練習しやすかったので、その時の記憶を参考にしました。

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