それはまるで、晴天の霹靂のような。
新作を書き始めました。
どうぞよろしくお願いいたします。
「父上。いえ、王。あなたの妃を。月鈴妃を私に賜りたい」
「え……?」
美しい青年がこれまた美しい声で王に請うた言葉。
予想とはあまりに違う展開に私の目は点になり、絶句する。
今発言したのはこの国ミルタナシアの第二王子、ミシェル・クロード・ミルタナシア王子、十七歳。
長きにわたって繰り広げられていた隣国ネロヴォルオ国との戦いを参戦して僅か二週間で終結させてきた、非常に武芸に秀でた王子である。
今、その武勲を称える場において褒美として願われたのが、王の側妃。それだけでも驚く事態なのに、望まれた月鈴妃というのがこの私だということなのだから絶句するしかない。
何を隠そうこの私はある乙女ゲームの世界に転生した元日本人のOLだ。(ありがち~)
この世界は、王子育成ゲーム!第一王子と第二王子、好きな方を選び王位につけるために奮闘するものだった。もちろん恋愛要素も盛りだくさんで(きわどいシーンもあった)、王子そっちのけで敵を押しのける陰謀を画策ばかりしていると愛情不足判定で婚約破棄に至り、かといって恋愛ばかり楽しんでいると自分の選んだ王子はどんどん愚鈍になり王位継承権を失う。
そして私の立ち位置は……悪役姑!実際は王子の実母は生きていて、自身は側室の一人なので姑というのかなんというのか。とにかく、結構な脇役だが、攻略していくうえでヒロインの邪魔をする悪役として度々登場する役どころだ。
この国に滅ぼされた慶西国の姫君、景月鈴だった私は生まれ育った国を離れ、この国にやってきた次の日に日本人であった記憶を取り戻した。(これまたありがち~)
その時この肉体は十六歳。祖国が滅び国民は眷属となり、両親と嫡子である兄を殺され、自身は戦利品としてこの国の王のものとなり「明日は王の伽に行くように」とお達しがあった次の日、つまり伽の日のその朝。
今いる世界が自分が冴えない日本人OLであった頃知っていたゲームの世界であること、そして自身が攻略対象である王子の周囲でヒロインをいじめる、悪役令嬢ならぬ悪役姑であることを突如理解したのである。
絶望からの記憶復活は少しだけテンションがあがったけれど、自身の立ち位置を把握して再度急降下。
「わ、私があの姑なんて……あのおじさん国王と十六の私が夫婦なんて……犯罪すぎる。無理!」
確かこの姑は若くして産んだ第三王子を国王の座に据えたいという野望があり(ゲーム内では大した重要人物ではないためこの辺はふわっとしていた気がする)、第一王子と第二王子の足を引っ張ろうとして日々画策する悪役以外の何者でもない人物である。
このままいけば将来は悪役継母、姑として次代の国王と妃であるヒロインに葬られる運命となるのだ。せっかく命は助かったのに、そんなのはごめんである。出来るなら平穏な人生を過ごさせていただきたい。
考えた私は、運命を回避すべく自身をプロデュースすることにした。
「王にお見せしたい芸がございます」
幸いこの肉体として生きてきたこれまでの記憶があり、月鈴自身は武芸に秀でた気の強い姫君であったので剣舞を見せることにしたのだ。そこで「うっかり」近くにいた臣下の服だけを見事に切り裂く、というオプションもつけて。
「あら、うっかり手元が狂ってしまいましたわ。申し訳ございません」
少しずれていたら首が落ちていましたね♡という私に王含め、見ていた王族や臣下たちは皆ぞっとした表情になる。
その夜に閨に呼ばれたが、王は明らかに怯えていた。この王は私の国を滅ぼしたが、自身は血の気が多い武人ではなく戦術に長けた軍師タイプであったため自分の腕力では私に勝てないと悟ったらしい。
私が持ってきたお茶すら怯えて飲もうとせず(毒は入れてない)私が頭の髪飾りを直そうと自身の頭に手を伸ばすと「ヒィっ!その簪で刺さないで!」と言ったのだ。
私はにっこり笑って言った。
「刺しません。私のお願いを聞いて下さるなら」
「な、なにかな」
聞かないと刺すのかい、という呟きは無視して微笑む。
「私をお飾りの妻にしてください」
「と、言うと?」
「伽はお断りさせていただいても?」
「き、君がそれを望むなら……」
「ありがとうございます。でも今宵はこちらで一晩過ごさせていただきます。そういうことで、お願いしますね」
こうして私は王と正式な夫婦とはならずに妃として過ごせることになった。子どもは産まないので王位争いに参加することもない。(第一王子と第二王子の母親は違うので諍いがあるらしいが)
あとは王子たちとは近付かず、ヒロインが来ても邪魔をしない。そうしないと私は次代の王を邪魔してその妃をいじめた悪役継母として、王子が即位した暁には牢獄に入れられるか流罪になる。その時に夫である元国王は全く頼りにならなかった。そんなのはごめんだ。
それなのに……?
あの記憶復活の日から五年。私と国王が並ぶ目の前で、この王子は私を下賜して欲しいと言った?
「しかし……ユーリン妃は私の妃だ」
「父上とは正式な夫婦ではなく、その御身は清いままと聞いておりますが」
「なっ……!」
「知っ……いや、その、なんだ、どこから聞いた」
これは隠していたことだった。白い結婚が公になると私の立場も弱くなるしその身は簡単に追放される可能性もある。この国でのそれなりの地位が約束されているなら、跡継ぎを産む可能性のある存在として王妃と側妃の嫌がらせに耐えることなど大した問題にもならなかった。衣食住に困らないならそれ以上のものは望まない。
はじめは定期的に王のもとに召される振りをしていたが、ここ二年ほどは怠っていた。それが良くなかったか。
「皆知っていますよ。……正式な夫婦でないなら褒美として下賜していただいても問題ありませんよね?」
「いや、あ……そうだ、な」
「ではお願いいたします」
「……え?」
私の意思は?そんなもの考慮されるわけないことはわかっているけれども。
王としては寝首を掻いてきそうなお飾り妻など手放したいと思っていたのだろう。体よく褒美として王子に差し出せるのだ。しかし我が子が危険に晒されるとは思わないのだろうか?もちろん武人である第二王子とは私が全力で戦ったとしても敵わなさそうだが。
「ミシェル王子はまだ成人していなかったな。婚礼はそなたが十八になってから佳き日を決めるとしよう」
「はい!」
……こうして私は悪役継母から一転、攻略対象の第二王子の婚約者に据え置かれることになった。
ここまで読んで下さり、ありがとうございました!