余命宣告を受けたら婚約者の態度が酷かった
すっかり病気で体が弱ってしまい毎日生きていくのが精いっぱいって感じでしたが、少しづつ体調が良くなり時々時間が取れた時に思いついた話とかを書いていました。
そのうちの1つです。
やっと完成したので久しぶりの更新。
読んでくれる人がいればうれしいですが、ひっそり更新でもいいかなって思いまして。
短いのでさらっと読んでいただけたら嬉しいです。
「なんだ……エリーナまだ生きてたのか」
買い物をして店から出てきた私の目の前に、運命のいたずらと言うべきか信じられない偶然で2か月近くも姿をくらませていた婚約者とかち合ってしまった。
気づかれたくはなかったが隠れる場所もなく婚約者は私に気づいてしまう。
浮気相手だと思われる女性を腕に絡ませニヤニヤと醜く下卑た笑いを浮かべて私を見下していた。
またいつものように見たいものしか見ず、勝手に想像を膨らませているだけなんだろうなぁ~っと思いつつ私も冷めた目で婚約者を見る。
もともと生きていく為に婚約した相手、つまり政略結婚する相手なのに自分がすべき仕事も全て私に放り投げフラフラしている人だったので当然愛情が育つはずもなく、久しぶりに会って言われたこの言葉で感情はマイナスに振り切れた。
余命宣告を受けた事に対しこの態度。
彼に対し軽蔑と嫌悪感が湧いてくる。
私はエリーナ・アトゥワレイ、普通の平民だ。
この世界じゃ比較的珍しい金の瞳とクセのないまっすぐな薄ピンクブロンドをひとつに結び華やかさはないものの清潔感と元貴族だったせいなのか気品があると言われていた。
父は水設備の功績者として一代限りの男爵位を王より授かった。
そのおかげで貴族しか通うことが出来ない貴族学園に入学出来て、私は優秀な成績を修めて卒業することが決まっていたので将来はこのまま王宮勤めが出来れば……と思ったが、そうはならなかった。
卒業する一か月前に父が馬車の事故で亡くなってしまったのだ。
当然残された私と母は平民に戻るしかない。
学費は払い終わっている事と、卒業まで短かった事、さらに新興商会で貴族にも顔が利くようになったフランザーン商会の会長から一人息子のフェブライと婚約を結び、卒業後は商会の仕事を手伝ってくれるなら学園を卒業出来るように口利きをしてくれると言うことで、私はその申し出を受けた。
父の残した遺産があるものの、母の老後には少し不安だったがフランザーン商会に入れるならその心配もなくなる。
それどころか、一人息子のフェブライには後を継がせられないので、もし私が優秀なら養女にして後を継がせてもいいと言うのだ。
こんな好待遇受けないはずがない。
学園を卒業して婚約者となったフェブライと初めて顔合わせをしたのだけど、彼は割と整った容姿をしていた。
少しくすんだグリーンの髪と印象の強い赤い瞳。
質のいい服を着ていたのだがなんとなく着崩れしているような印象を受け、品が感じられない。
婚約してから話すようになってしばらく、彼が商会の跡継ぎになるのは無理だと言う会長の言葉を理解した。
まず、マナーがなっておらず、話し方が上から目線だ。
物事の推測が甘い。
周りをきちんと見ない。
人を見る目がなく、自分の見たいものしか見ない。
話をしていても自分が思い込むとその後、誰から何を言われてもそれを受け入れないのだ。
自分は優秀だと勘違いをしており、他者を見下していて人との諍いが絶えないのだとか。
こんな性格で貴族相手の会長は務まらないだろう。
だから会長は一人息子のフェブライに替わって仕事を引き受けてくれる相手を探していたのだろう。
会長が満足するような働きをすれば私が跡継ぎになれる可能性があるのはやりがいがあった。
フェブライがフラフラ街で遊んでいる間、私は商会の仕事を必死で覚えた。
睡眠時間や遊ぶ時間を削り仕事を覚え、周りからの信頼を得て私はとうとう隣国へ商売の手を広げる為にいなくなる会長の代わりに王都支社を任されるまでになった。
このまま問題がなければ私はフェブライと結婚し、商会の跡継ぎになれる未来まで手が届くまでになれたのだ。
努力が実になる未来に期待が膨らむある日。
結婚式まで1年を切った頃、フェブライが浮気をした。
相手は同じ平民のリリアン・ハザウェス。
金髪の癖のある長い髪にピンクの瞳。
少し幼さを残した少女だ。
とはいってももう成人しており、私とフェブライの1つ年下の21歳だけれど。
宿屋が経営してるレストランでウエイトレスをしてフェブライに出会ったらしい。
人懐っこい性格で明るく、可愛くって甘え上手でフェブライの自尊心をくすぐるのが上手く、胸と尻が大きいせいかフェブライはすぐに彼女に夢中になってしまったようだ。
夢中になったとしても、私と婚約破棄してリリアンと結婚は出来ない。
そんな事、会長が許さないだろう。
けれど彼は見たいものしか見ない。
信じたいことしか信じない性格だ。
当然フェブライはリリアンと別れなかった。
それどころかリリアンに自分はこの商会の次期会長であり、私、エリーナなどいつでも追い出せる権限を持っていると話しているらしい。
なぜそんなことを知っているのかと言うと、当然商会の社員や会員達からの情報で聞いているからだ。
1人や2人なら嘘が混じっているかもしれない。
けれど、そんな報告は社員会員に限らず、顧客からも聞く。
2人はあらゆる場所でいちゃいちゃしているのを目撃され、それをご親切に教えてくれる人が後をたたない。
その数はかなりものだ。
そんなある日のことだった。
いつもは2、3日程度なら帰って来ないこともあったが、かれこれ一か月近くフェブライが帰って来なくなった。
街での目撃情報は尽きなく街でウロウロしているから行方不明ってことではない。
フェブライに連絡を取ろうとしても居場所をコロコロ変えているようで捕まらないのだ。
また例の変な思い込みから変な行動を取っているのだろう。
頭が痛いばかりだった。
商会の仕事もあるのにフェブライにばかり時間を割くことは出来ない。
向こうから現れるのを待つしかないのだろうか?
そんなことをしていたらどんどん時間がなくなっていくのに……。
時間のない中、最終手段として隣国にいる会長夫婦に手紙を出したが返事はいま帰国するのは難しいとの事。
時間はどんどん少なくなっているのに、とにかく頭の痛い問題である。
いなくなる三か月前に私とフェブライが毎年の健康診断を受けた。
結果私だけが引っかかってしまって再検査になってしまったのだけど、フェブライはそれを楽しそうに聞くだけで心配すらしてくれなかったし、病院に2人が呼び出されたと話した時もフェブライは一緒には行ってくれなかった。
そして診断結果をフェブライに話をしたが彼はきちんと最後まで話を聞かず途中で家を飛び出して行ってしまったのだ。
それから何度も話をしようとしたが、フェブライは笑うばかりで真剣にとりあってはくれない。
命がかかっているのに……。
病名は魔力変換回路障害。
魔力量は貴族の方が多い為、魔法は貴族にしか使えない。
けれど、平民に魔力がないわけではないのだ。
私たち平民は魔法が使えるほどの魔力量がないだけで、生活魔道具を動かせる程度の魔力はある。
そして魔力が少量の平民にとって一番怖いのが魔力変換回路障害だ。
魔力が少量過ぎて体内の魔力回路に循環する魔力が停滞し溜まりやすくなるせいで障害が起きてしまう。
そして魔力変換回路障害は治らなければ半年後には詰まった魔力が回路を破壊し死んでしまう恐ろしい病気だ。
すぐに治療をすれば運が良ければ停滞を除くことが出来るのですぐに病院で治療しなければならない。
一緒に病院に行こうと誘ってもフェブライは話の途中でどこかに行ってしまう。
それがうざかったのかとうとう帰ってこなくなってどうしようもなかった。
会長に手紙を出しその返事をもらい、私はフェブライを探すのを諦めて2か月後、買い物に街に出たら偶然リリアンといるフェブライと出会い冒頭の言葉を言われたのだ。
私はため息を1つ吐き出して2人を見る。
「フェブライィ~そんな失礼なコト言っちゃかわいそうよぉ~」
「おお、リリアンは本当に優しいなぁ。俺はこんな地味で仕事ばかりしてる名前だけの婚約者、認めてなかったんだ。それなのにしつこく付きまといやがって」
「しょうがないよー。フェブライはぁフランザーン商会の跡取りだもん」
「そういう貴女もフェブライが跡取りだから近づいたんでしょ?」
私がそう言うとフェブライの形相が鬼のようになる。
「ひどいわ! リリはフェブライの優しくて頼りがいがある所が好きになったんだもん! お金持ちとか跡取りとか関係ないもん!」
「最低の女だな! リリと出会って俺は変わった。リリは俺の運命の相手なんだ!」
「つまり?」
「お前のような女とは婚約破棄して俺は愛するリリと結婚する!!」
そう断言したフェブライにリリアンは嬉しそうにその大きな胸をさらにフェブライの腕に押し付ける。
「婚約破棄しても本当に後悔しないのね?」
「当たり前だ! お前みたいな女よりフランザーン商会の会長夫人にはリリの方がずっと相応しいっ!!」
「……相応しい? 簡単に不敬罪で処刑されるかもしれない貴族相手にどうやって商売するんです?」
私に言われて何か思い出したのだろう。
フェブライの顔色が変わる。
普通の平民は買い物するのに必要な計算や自分の名前を書くぐらいの学力しかない。
フェブライは小さいころから家庭教師がついて勉強してきたのでそれなりの学力はあるが貴族相手に商売は無理だ。
貴族特有の言い回しや作法が出来なければこちらは平民である。
うっかり失礼なことをしてしまえは首が飛ぶ。
だから会長は作法などが身につかなかったフェブライの代わりに私を選んだのだ。
その事は会長がさんざんフェブライに話していたが都合良く忘れたか変換されているのだろう。
つまり、どのみち私と結婚しなくてもフェブライは跡継ぎにはなれないのだ。
「リ、リリはお前と違って愛らしく頭がいいからなっ! すぐに俺に相応しくなってくれる」
「つまり3年かかって学んだ私の代わりにリリアンさんがすべての仕事を引き受け、フェブライの分も働いてくれて貴族相手に一人で交渉したりするフランザーン商会の仕事をしてくれるってことなのね?」
「……え? 私一人?」
「そうよ。3年間、1日3時間睡眠。働かないフェブライの分も朝から夜まで働いていたのは私がフェブライと結婚するからだもの。ちなみにフェブライは何年間も仕事を仕込まれたけどまったく使い物にならず役立たずだから会長に諦められたのよ?」
「や、役立たずじゃない! 教え方が悪かっただけだ!」
「……」
事実を知ってリリアンの顔色が悪くなる。
「もっと言うと、余命宣告を受けた身で後が継げるの?」
「は? 余命宣告を受けたのはお前だろう」
「違うわよ」
「え?」
今さら驚いた顔をするフェブライにまたため息がこぼれる。
何度も話したのに途中で遮ったり『はいはい』と言うだけで真剣に聞いてくれなかったのはフェブライだ。
「私は何度も説明したわよ? だから一緒に病院に行こうって言ったじゃない」
「なっ……え? だって……」
「会長からも手紙がきたでしょ?」
「あっ……でも俺……、小言だと思って開けてない」
呆れた事実にさらにため息がこぼれる。
「魔力変換回路障害だから早く治療しないといけないってみんなも言ってたでしょう? まあ、今更病院に行ってももう手遅れだと思うけど……」
「……俺、死ぬのか?」
「そ、そんな……噓でしょ? フェブライが死んじゃったら私、会長夫人になれないじゃない……」
私とフェブライのやり取りを聞いてリリアンがつぶやいた言葉は私が言った言葉を肯定するような言葉だった。
「リリアンさん、さっき金持ちとか跡取りとか関係なくフェブライの事愛してるって言ったわよね? なら彼の最期を看取るのは貴女に任せるわ」
そう私がリリアンに言うと、リリアンは青い顔をして顔を左右に振りながらフェブライの腕から自分の手を放す。
そんなリリアンの様子にフェブライは信じられないようなものを見る目で見つめている。
「リ、リリ……。リリには出来ないわ」
「あらどうして? フェブライの事、愛しているんでしょ?」
「愛してたのはフェブライが私をお姫様のような生活をさせてくれるって言うから! どうして若くて可愛い私が何も出来ないしてくれないフェブライに時間を使わなくちゃいけないのよっ!」
「リリ……」
「そ、そうだわ! 私、最後までフェブライと一緒にいてあげるっ! だから私にフランザーン商会をちょうだい? リリにフランザーン商会を残すって遺言書いてくれればリリが最後まで一緒にいてあげるよ?」
バカみたいな話を言い出すリリアンに私は静かに返答する。
「フランザーン商会は会長の物でフェブライにどうにかする権利なんてないわよ」
「……遺産は?」
あるとは思っていない表情で私に聞くリリアンに笑いがこみ上げてくる。
この子、フランザーン商会が欲しいなんて言い出すから馬鹿かと思っていたけれど、察しはいいのね。
「毎月10万ダリのお小遣いならあるけど働いていないのよ? もちろんないわ」
フェブライは毎月10万のお小遣いと、当然いずれ代金は支払わなければならないがフランザーン商会の商品をツケで買うことが許されている。
リリアンに貢いだ物はフランザーン商会の商品だろう。
私が病気だからと会長に許可をもらって返済期間を延ばしていたせいでフェブライはけっこうな返済金が溜まっている。
死んでしまえば返せないとわかっていても会長はたった一人息子のフェブライの為に、商会の商品を持っていくのを止めることはなかった。
最終的に会長が支払うつもりなのだろう。
「リリっ! あんなに俺自身の事愛してるって跡継ぎとか関係ないって言ってたじゃないかっ!! それなのにやっぱり金目当てだったのかよ!」
「お金なくちゃ生活出来ないでしょっ! 私まだ若くてこんなに可愛いんだよ? 男なんて選び放題なんだからどうせならお金持ってて贅沢して暮らせる人を選ぶに決まってるじゃない」
「なんだよ、最低だな!」
「私が最低なら自分はどうなの? フェブライだって最低じゃない! 婚約者に自分の仕事を全部押し付けて浮気して贅沢して、彼女に感謝するどころかまだ死んでないのかだなんて普通聞く?」
確かに彼女の言う通りだと思う。
私もフェブライは最低な男だって思ってる。
「そ、それ、それは!」
リリアンの言葉に言い返せないのか、フェブライがどもった。
「……ねえフェブライ? こんな大通りのど真ん中で言い合っていないで、いいかげん病院に行ったら?」
私の言葉に自分が余命宣告されていたことを思い出したフェブライは真っ青な顔色で何も言わず走り去って行った。
残されたのは私とリリアン。
これだけは言っておかないと、と思い出す。
「婚約者がいると知りながらフェブライと浮気したのだから私は貴女に300万ダリの慰謝料を請求します」
「……」
リリアンは私の言葉にうつむき、しばらくすると小さな声でごめんなさいと謝罪をしてくれた。
「300万ダリはきちんと払います。 ……でも今手元にまとまったお金はないから分割で支払うわ」
謝った事と払う意思を見せたことで私はリリアンをとりあえず許すことにした。
あの時、急いで病院に行ったフェブライは精密検査を受けたが、魔力変換回路障害の治療には遅すぎて余命三か月は覆されなかったらしい。
それでもそのまま入院して一縷の望みを持って治療に入ったと戻ってきた会長から聞いた。
3日後にフェブライから見舞いに来いという手紙が届いたが、私はその手紙をゴミ箱に捨てた。
私が余命宣告されていると勘違いしていた時、フェブライは何もしてくれなかったのだから私もする必要はないだろう。
会長はフェブライに一度会っただけですぐに隣国に戻って行った。
商会の社員も誰もお見舞いに行ってないらしい。
そりゃそうだろう。
籍だけあって会った事もない次期跡継ぎでもない会長の息子なんて誰が見舞いに行くだろうか?
誰も来てくれない事にフェブライは最初は怒って暴れていたらしいが、それも落ち着き塞ぎこむようになったらしい。
最近では泣いているんだとか。
因果応報。
自分のしたことはいずれ返って来る。
あれからフェブライは誰にも会えないままひっそりと一人で亡くなった。
私は会長の養女になり、こちらのフランザーン商会支店の店長となって商会を盛り立てている。
1つ驚いたことは、慰謝料を請求していたリリアンが商会員になり私と一緒に働くようになったのだ。
慰謝料が払えないリリアンは会長に掛け合って商会で働きながら私に慰謝料を返済していきたいと願ったらしい。
まさかそんなことになるだなんて思わなかったけど、リリアンには接客の才能があったようで、店員として持ち前の明るさと可愛らしさだけでなく、センスが良く次々とリピーター顧客を生み出して商会に利益をもたらしていた。
「なんでこんなことになったのかしら?」
「あら、店長は私の働きが不満なんですかぁ? 私は商会にちゃぁんと儲けさせてあげてると思いますけどぉ?」
わざとらしい舌っ足らずな言い方で可愛く首をかしげて私を見るリリアンにため息がこぼれる。
「そうね。ありがと」
私がそう言うとリリアンが極上の笑みを浮かべた。
何故かリリアンに懐かれた私は、慰謝料の支払いが済んでもリリアンにまとわりつかれ続けた。
それこそ一生だったのはこの時の私はまだ知らない。
終わりっですぅ
短すぎてびっくりしましたらすみません。
※いつものごとく誤字脱字王なので見つけたらこっそり直しておきます。
わざわざ教えて下さる方には感謝しておおります。