ランチらみうアサリ豆
らみうは決まって正午に現れる。昼は安いセットがあるからだ。
らみうは必ず〈ラー牛バーガー唐揚げチャーハンガムランチ〉を注文する。内容はラーメン、牛丼、ハンバーガー、唐揚げ5個、チャーハン、そしてソーダガムだ。
らみうはそれらをひと口で頬張り、ガムを放り込んで咀嚼する。
すると、1分15秒後にはラー牛バーガー唐揚げチャーハンガムランチは口内で1つの塊と化し、転売が可能になる。
らみうはそれを店内にいる気の弱そうな老人に5倍の値段で売りつけることで生計を立てている。老人がいない日は気の弱そうな女性に売りつけている。女性がいない日は気の弱そうな中学生だ。
らみうは悩んでいた。
こんなことを繰り返していたせいで、店内にはもはや自分とマッチョの男しかいなくなってしまったのだ。
このままではこの牛丼屋が潰れてしまう。そう思ったらみうは、牛丼屋大改造計画とスーパーすごいすごい集客システムを考えたいと店長に申し出た。
しかし店長は般若のような形相で鼻から針を出し、威嚇してらみうを追い出した。
それもそのはず、らみうは指名手配犯なのだ。指名手配犯にランチを提供するのはともかく、雇用するとなると話が変わる。逃亡資金の調達に協力したとしてニードルを引っこ抜かれるに違いないのだ。
ガムを飲み込むのは基本的にタブー視されている。酷い場合には窒息、酷くない場合には窒息しなかったりするからだ。
それを推奨・強制しているらみうは国民全員の怒りを買っており、見つかり次第殺されることになっているのだ。
しかしここの店長は違った。彼を見つけても殺そうとしなかった。毎日4800円のランチを頼んでくれるからだ。その大将の優しさに人々は涙を流したという。
さて、国民全員がらみうを殺そうとしているはずなのに、大将の優しさを見て涙を流す人がいるというのは不可解である。これはいったいどういうことなのだろうか。
この謎を探るため、店内にいるマッチョッチョ軍団のリーダーである神沼六海が立ち上がった。彼は探偵でもあるのだ。
六海率いるマッチョッチョ軍団は息を合わせ、四方かららみうを囲んだ。
「王手!」
あと一手でらみうを取れる位置にいる六海が叫ぶ。
しかし、角であるらみうは盤面を斜めに移動し、華麗に回避してみせた。
「JKと2人で暮らしたい!」
らみうは突然そう叫ぶと、女子高に瞬間移動した。
「あの子かわゆいっ!」
らみうの目線の先には、食堂で可憐にパスタを食べる少女の姿があった。
「ご馳走様でした」
食べ終わるまで近くで待ち伏せしていたらみうは、少女の声を聞いて顔を覗かせた。
椅子を戻さずに立ち去る少女。
らみうは結局、少女に声を掛けられなかった。
「俺、椅子戻さない子無理なんだな。あんなにかわゆいのに、椅子戻さないだけで無理になるなんて」
そんなことを独りごちながら食堂付近をウロウロしていると、さっきの美少女よりも可愛い美少女がトイレに入っていったのが見えた。
「食堂もあるしトイレもあるし、すごいなぁこの高校は」
らみうはそう言って女子トイレに侵入し、洗面所に栓をして水を溜め、着色料[赤]をありったけ投入して顔を洗った。
「あーうんこ出たー」
用を済ませた美少女は、洗面所で真っ赤な水で顔をバジャバジャ洗っているらみうに一切視線を向けることなく退出していった。
「無理になった⋯⋯。俺、トイレで手を洗わない子無理なんだ。知らなかった⋯⋯」
そう、手を洗う習慣が全くないため、1ミリも手洗い場が目に入っていなかったのだ。ゆえに、そこに真っ赤な顔の女がいようが、ゴジラと羽生善治が戦っていようが、マシュマロが読書をしていようが、ぬりかべがPK全敗していようが、一切関係ないのだ。彼女と手洗い場は別世界なのだ。
日が暮れ始めると、らみうはアサリを見せた。
「ほらお嬢さん、これが僕のアサリですよ」
通りがかりの少女がアサリを受け取ると、おもむろに口へと運んだ。
ヴァリヴォリヴァリヴォリ
「かっけぇー」
ロックでシャレオツな咀嚼音にらみうは圧倒され、感動し、一目惚れした。
「俺、アサリを殻ごと食う子が好きなんだ⋯⋯。知らなかった。知らなかったなぁ」
らみうはアサリを大量に生みだし、その両手を差し出しながら「あ⋯⋯あ⋯⋯」と求婚した。
「オメーみてぇなおっさんと結婚するわけねーだろクソハゲゲボウォータースライダーが」
らみうはその晩考えた。あのJKと一緒に住むにはどうしたらいいか。
翌日、らみうはあのJKの家を特定し、母であるルミコを誘惑した。アサリを見せたらイチコロだった。やっぱり親子だ。
さらにその次の日、らみうはルミコと同棲することになった。当然JKもついてくる。
「パパ、アサリ出してよ」
「はいはい」
らみうは頭をパカッと開け、閉め、両手からアサリを生み出すと、JKに向かって投げ始めた。
「鬼は〜外、福はあ内〜」
「チャルメラのメロディでやる人初めて見たかも」
そう言って娘は豆で対抗した。
ある日、ルミコが死んだ。らみ者かに首を絞められたのだ。
それかららみうは娘と2人で暮らすこととなった。JKと2人で暮らす。目標達成である。
らみうは思った。
サメって、なんで人と違うんだろう。
なんか顔もとんがってるし、ヒレも全部とんがってるし、日本語通じないし、英語も通じないし、じゃあお前なに人なんだよって言ったらインド人ですって。なんだお前、なに人だよ。
らみうとJKは毎晩アサリと豆を投げ合った。
ルミコが生きていた、あの頃のように⋯⋯