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狩人の生活  作者: 青海苔
第二章 星屑の反逆者達
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籠に積んだ果実

 なんと無様な光景だろう。 見る限りの人工物が瓦礫と化し先程まで文明がそこにあった事ですら嘘に思える程だ。


 壁外との境界が消え去り、壁外にある穀物畑が煌々と燃え上がって夜景によく映えている。 さらに奥に運河が流れているが、術式が着弾した影響で火の通った川魚が下流へと押し流される異様な光景が目に入る。


 「……びっくりした〜。 やめてよね〜。 マジで」


 魔族の角が崩れ落ちると共に、失った部位が瞬く間に再生し、臓器に骨、毛髪まで元通りだ。


 落日の横刀が地面に突き刺さり、握ったままにぶった斬られた腕が風に吹かれて揺れていた。


 身体中、穴だらけになったモーガンが壁へと寄りかかるのをじっと眺めて、冷たい風が顔を撫でると同時に魔族が怪訝な表情を呈した。


 「なんで死んでないの?」


 想定では、軽い独り言を放った後、目の前には地にへばりついたモーガンの死体。 勝ち誇って虐殺ゲームの続きを愉しむ。 


 魔族の予想であり確信のある未来予測だったが、そとおりにはならなかった。 コレが現実の辛いところだ。 世界は他人を基準に動き、辛坊が必要なのだ。


 「落ち着けよ……好きでもない女が切れ散らかすのなんて気配すら感じたくない」


 まず、どうやって説明しようか。 術式を分割して放った場合のパワー分散による速度低下、再度1つに凝集化させて潰すまでの所作にラグがあったから走って避けた。 


 脂で象った囮を潰させただとか。 色々理由はあれど口にして出すような事は何1つない。


 「ま。 運が良かっただけ」


 大勢殺して来た魔族にはその言葉が恐ろしかった。今までこの術式を避けられた奴など、ほぼ居なかったのだ。同族での殺し合いや、長年の経験が『運』と言う言葉を否定したがっている。


 「嘘をつけ。 どう防いだのか教えろ」


 身体中の六角形の穴。血は出ているが深くは無い。


 「随分と自信のある術式だったのか、防がれた事が無いと聞こえる口ぶりだねぇ……大勢死人が出た術式を防いだとは評し難いが……そんなに知りたいか?」


 負傷して血を流す男にしては随分と目に闘志を感じる。 何か手を持っている様子で下手に近づけば先程同様にスライスされる可能性があると顎を引いて返事を返す。


 「勝ち目は無いだろう。 有利に交渉出来る立場か?」


 「交渉……? する気はさらさら。 勝ち負けもこうなっちゃ、些末な問題に過ぎないが……勝ちを自ら譲る気は無い。 血圧さえ保てれば、人間ってのはよく出来てるもんでな、中々意識を失うことは無い」


 「……」


 「……さっきの術式。 制圧術式ってやつか。 普通は近場でぶっ放すなんてことはしない。 威力から見て炸裂距離は数百メートル。 それまではただの熱と光特性である魔力の凝集体。 流石に核が露出してる状態で道連れするとは思えなくてな」


 「はん。 大した度胸だ」


 普通であれば臆して言葉もスラスラと出てこないだろうに。 ちょっとした称賛を送りたくなったのか、

ラフィーが呟く。 もっとも、自分よりか下の術師に対する後味の悪い称賛ではあるが。


 「……にしても、また大勢死んだな……」


 「気に病む必要は無い。 その内やるつもりだった」


 瓦礫の中から死蝋化した手や脚が見切れている。灰色の粉塵に染められた赤い亀裂のある突出物は何かの建材に見えるが、生きた人間の成れの果ての姿だ。


 インフラが破壊された影響か、木造家屋が漏電での火災に呑み込まれていく。 モーガンはその光景を力無く見つめ、火のない場所からも抜け出た輪郭のはっきりとした白い霧を見送るのだ。


 「……気に病む必要は無いだと? お前の様な奴が真意いみもわからず口にするなよ。 ぶち殺したくなってくる……」


 感情を込めず、棒読みに近い抑揚で言葉を吐き出す。


 「なに怒ってんのさ。 煽るために言ってるに決まってんじゃん! あははは! フヒヒ……でもぉ、仕方ないよねぇ〜。 そっちだって大勢殺したんだしさ〜」


 「同じ腹から産まれた別個体を殺して食っちまう怪物が、一丁前に人間の真似しやがる」


 「ケケケ……。 効いてる効いてる」


 ラフィーがモーガンの右腕を拾い上げるとボリボリと音を立てながら手指を食い千切る。 骨ごとすり潰して大男の様な雑で鬱陶しい咀嚼音を鳴らしている。


 「んまっ。 これ好き」


 小指に薬指が一口で無くなり、バクバクと頬張っていく。 瞬く間に掌が消え去ると、火の通った肘側を口いっぱいに頬張る。


 モーガンの右腕に脂がまとわりつき、真っ黒い腕が象られる。


 「捕縛だとか、情報吐かせるだとか……お前に対する軽蔑の念が足りてなかったよ。 今見て判ったよ」


 「ん〜? 何が〜?」


 「赤目の祖先様って奴がお前ら魔族を根絶やしにする為、血眼になって殺し回った事は正しかった。 って事だよ……〈タール・ボウイ〉」


 ラフィの体から無数の黒い円錐が内側から皮膚を突き破る。 肉片と疑似血液が飛び散る。


 「……ぐ……! はははは……! 痛いじゃない♡」


 「核を削れる威力は無いがね。 〈発勁〉」


 モーガンの姿が轟音と共に伸び、振りかぶった拳圧縮される音が鳴る。


 「〈黒曜石の拳オブシディアン・フィスト〉」


 地響き混じりの衝撃波が辺りを吹き荒ぶ。 大きく潰れた胸部からは体液が漏れ出ているものの、魔力で防護したためだろうか。 大した損傷は与えられていない。


 「残念ね。 自慢の馬鹿力も役立たずで……」


 「それはどうかな。 そろそろ緩んで来た頃だろう」


 「は? 何言って」


 大量の吐瀉物をまき散らすかの様な音と死臭が立ち込める。 黄色い衣服が茶黒い油で汚れ、核と骨を除いた軟組織が液化して流れ落ちるのだ。


 「……クソ!」


 ラフィーの瞳に魔力光が宿った瞬間、モーガンの右手の親指が顎を突き破る。大きく逸らされた視線の先で大爆発が起こり、再び大勢が死に耐えた。


 「いつまでも人間の真似して戦えると思うか」


 「そ〜だなぁ!」


 ぶっとい双角が出現し、毛が逆立つ程の魔力を滾らせる。 彼女の周囲だけが陽炎で歪んでいる様に景色が歪む。


 「退け」


 舌打ち並の短い一言でモーガンが横へとふっ飛ばされる。 速度の出た落石に衝突されたかの様に半身が潰れ、立ち上がる事なく瓦礫に体を預ける。


 眼窩底骨が割れたせいか、眼球が奥へと落ち込み、瓦礫に押し付けられた肋骨が表皮を突き破って土埃へと流れ出ている。


 「……切断より打撃が有効か」


 両脚が4関節に見えるように曲がり、モーガンがうめき声を上げている。


 「〈老いた赤子〉」


 モーガンの真上に髭を携えた色白の赤ん坊が出現する。 油絵の具の様なタッチで浮かび上がった異質な境界を持つ術式。


 例の如く、小鳥が傍へと落っこちると共に肉が黒く変色して液化を始める。黄色っぽい骨が変形なく這い出てくる。


 下がらせていた最下級魔族の肉も同様にして崩れ落ち、骨だけが残りつつある。 恐ろしい術式特性だが、雑魚処理専用のものだ。 


 「……制圧術式? 使い魔程度なら効いてるっぽいけど」


 浮かび上がった赤子の偶像。 ラフィーが放った術式が軽い音と共に頭を吹き飛ばすと大粒な黒い雨が振り始めた。


 「……汚い」


 「……お前さん、魔族の中でも1番強いんじゃね? 悪かったよ上澄みだとか言って。 まぁ、でも純粋だよな」


 「……?」


 「今だ」


 何か手があるように呟いた手前、何かが起こるのを待っていたが、何も起こらなかった。 数分ないし数秒で死骸に変わる前の人間と魔族だけ。


 「はぁ? みんな逃げ出したんだよ。 周辺に居るのは非術者の死に損ないに数名の術者。 統率も取れていないだろう? 今更何が出来る」


 「冗談さ。 冗談。 でも内心ヒヤッとしただろ。 まぁ、こんなことでしか反撃出来ないのは尺だが……仕方が無い……」


 失血で意識を失い、頭が垂れる。辺り一帯に散らばった魔力含有量の豊富な脂の中から骸骨を模した傀儡モドキがワラワラと溢れ出てくる。


 モドキであって傀儡ではない。 散らばった脂の小川の一部にモーガンが触れいて、ソレを介して術式操作を行っているのだろう。


 「……どれ、首を落としておこうか。 こんな真似をしたとて、何の意味も無い。 ここまで負けず嫌いな術者は今まで見なかったよ」


 透明な大盾を垂直に向けて狙いを定める。 透き通った夜空を眺めていると大きな違和感を抱くのだ。


 夜空が妙に綺麗だ。 星々が弱く光り、満月が夜空の雲を濃く照らしている。


 夜空が綺麗だ。何も遮るものが無い。


 結界が張られていない。


 そんな事に意識を向けていると、湿った音が背中側でなった気がする。 有象無象の傀儡モドキの1体が迫ったのだろう。


 「……〈我が一刀、万物を穿つ〉」


 若い女の声。 モーガンの術式では無い。 まったく系統の違う魔力励起を感じ取り表情が強ばる。


 「っは?!」


 黒色と言うのは暗すぎる刀身。 光が全て吸い込まれて消え去っている様な魔力剣。 柄は木製に見え、それを掴む細い手指はスラリとしていて、人差し指が薬指よりも長い。


 そんな魔力剣だが羽毛でも摘んでいるかのようだ。


 ナタリアがほんの少し力を込めて放った斬撃は何物にも軌跡を妨げられることはない。


 「〈次元断〉」


 振り返ったと共に世界が回転する。 ある程度で止まるはずだった横回転は静止する事なく続き、モーガンの姿を3度捉えた後に地面へと落ちた。


 体の断面から熱が逃げ出ていく。


 地面から見上げたモーガンの口元は嘲笑うかのように引きつったまま固まっている。 拡散した瞳は何を見つめているわけでもない筈だ。


 その筈だが、予めその場所に落ちてくるのを見越していたかのように、じぃっとラフィーの瞳を覗き込んでいるかのようだった。


 「……ははは。 あっぱれだな」


 ラフィーの瞳から光が抜け落ちると静寂がその場を支配した。


 「ふぅ……対象魔族の活動停止を確認」


 無線機へと声を吹き込むと間髪入れずに返事が返ってくる。


 「了解した。 回収部隊を送る。 モーガンは無事か」


 「蘇生出来るとは思えないけどね」


 「首が外れてないなら望みはある。 持って帰ってこい」


 「了解」


 つづく

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