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狩人の生活  作者: 青海苔
第二章 星屑の反逆者達
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古代の悪夢

「ラフィーちゃん。 今日もよろしくお願いします」


 「あぁ、いえいえ。 こちらこそ」


 バックヤードから女が姿を現す。 派手に着飾り、高い香水のニオイを纏っている。 少し気怠げな目元に似合わない黄色いドレス。


 「今日はラフィーちゃんに対応して欲しいお客様がお見えになるので、そのつもりで」


 浅く咥えた紙巻きタバコへと火をつけると寝起きの不機嫌さに似た表情のまま返事を返す。


 「……そんなお金持ちが来るんですか? もっと儲かってるお店ならあるのに……」


 「まぁまぁ。 たまには、違った趣の店を所望する事もあるでしょう。 それか」


 「選り好みの激しい殿方って事?」


 「まぁ……」


 「任せておいてオーナー。 難しい男を扱うのには自信があるの」


 同じ頃、随分と大きな馬車の荷台でモーガンが着たこともない様な高いスーツへと袖を通していた。


 荷台ではあるが、ハッキリ言って外観とは考えられない広さだ。結界術式の応用であると思うが、一般的な生活をしていればまず目にしない光景だ。


 ちょっとした小屋程のスペースがあり、テーブルに銃保管庫。 マナクリスタル給電機、特務クラス個人を支援するだけにしては設備過剰な気もする。


 「……この服 成金趣味全開だな。 わざわざ客に扮して探る必要あります?」


 応援に駆けつけた狩人で、えらく声に元気がある男がモーガンの前に近づく。


 「じゃ、こうか? 拳銃構えて、『おらぁ! 狩人協会だ!』 って行った場合、使い魔展開されて逃げられるに決まってるだろ。 コソコソしてんのはそれだけ理由があっての事だろうさ……おし、じゃ行っておいで」


 「長生きな魔族相手と戦闘になった場合、周囲の客や従業員はどうする?」


 「残念だが、必要な犠牲になってもらう他無いな。 コミックブックやノベルならヒーローが登場して死人無しで切り抜けるだろうが。 現実は悲惨だ。 飯食って息するだけでストレスがたまる世の中だ。 ……なぁに、心配するな。 客はみんな狩人協会の人間だ。 おめぇさんが件の対象に接触できたと共に従業員は避難させる」


 「……了解。 可能な限り引き付けます」


 「おう。 自然体で行け。 設定はこうだ、アンタは製鉄事業で財を成した2代目、若気の至りで散財豪遊。 女遊びにクスリも大好き。 金を使いまくる事で胸の空虚さを埋めたい若造ってシナリオだ」


 モーガンの表情が強ばり、その役を演じなければならないといった顔つきになった。


 「……ほう」


 「冗談だ。 好きな様に振る舞ってくれ」


 「了解」 


 しばらく後。 先程とは外観の違うモーガンを乗せた馬車を窓辺から女が見下ろしていた。


 「へぇ。 あれが。 まぁ確かに雰囲気のある男だこと……魔術師か?」


 非日常を楽しむ為に構成された屋内へと入ると、モーガンは少し浮かない表情を見せた。 この時点で察した事が1つある。 潜伏する魔族に気取られている事は確実だという事実だ。 薄く広がる魔力の残渣が逃げ場を失って漂っているのがその証拠だ。


 (加えて、電波の遮断か。 もしくは撹乱か)


 楽観的に空想するなら、魔族を殺す実力を持っている狩人は誰であるかは割れていないと考える事くらいだろう。 悲観的に考えるなら、この建屋に入った人間は自分以外生きて出られないという事実が存在感を強めているという事だ。


 柔らかすぎる絨毯を革靴で踏み締める度にその存在感は輪郭を持って目の前へと現れた。 黄色いドレスを着た女。 あの死屍累々の部屋で感じ取った魔力の痕跡そっくりな魔力残渣の終着点。


 「初めまして〜、ラフィと申します」


 「初めまして。 モーガンと言います」


 向こうも直感したのだろう。 モーガンを目にした途端に気配が変わったのを感じ、既に見破られていると踏んで話を続ける。


 「どうしてこの仕事を?」


 水商売を続けるだなんて。 お節介中年の余計なアドバイスへと続けるつもりではなく、魔族のテメェが人間に扮してまで何やっていたのかを聞き出すためだ。


 「……はて、何処から言うかねぇ……。 ここに居るって事は、私の駒を殺してくれたんでしょう? ハンドサインはやめた方が良いよ。 数秒でこの建屋にいる人間を殺せるんだしさ。 まぁ、座りな」


 腰を悪くするくらいに柔らかいソファーへと腰を下ろす。 立ち上がった途端に起爆する爆弾を尻で敷いている気分だ。


 「……そうか。 それなら仕方が無い。 負けたよ。 お上からは、捕獲か殺害しろって言われてたもんでね。 無茶言うよねぇホントさ……なるほど、ここの店員の中に魔力が混じってるって事は既に寄生済みか。 餌のついた檻に誘い込まれたのはコッチの方だったとは」


 「いい目を持ってるのね。 ホント、今から半殺しにしなきゃいけないのは心苦しいわ」


 「半殺し? そりゃあ、お優しいこった。 何故殺さない? デクスターの指示かい?」


 「アレの指示を受けるだなんてまっぴら。 ただね〜ここで世界中に知らしめる為に暴れないと今後に影響が出る」


 「では誰の為に」


 「それ知ったら殺さないとさ」


 「望むところだ。 ここに居る連中は自分が死ぬことなんざどうでもいいと思ってる大馬鹿野郎達さ。 暴れ回って一般人大虐殺を防げるのであれば本望だろう」

 

 「……戦う気かな?」


 「どうせ生かして出させてはくれないんだ。 仕方無いだろう」


 「さぁ。 もしかしたら可能性は0じゃないよ?」


 モーガンがクソ怠そうにため息をつくと、どうでもいい話題に対して、どうでもいい話で上書きし始める。


 「私はね……歴史が好きでね。 人生においてあらゆる失敗を経験するには時間が足りない。 過去を知り先人の失敗から学ぶ。 それが歴史の正しい使い方だ。 かつて、イスルの羊飼いと言われた男が居た。 彼は魔族の赤子を拾い、我が子のように愛し育てた。 その結果、集落全員が寄生体に乗っ取られ、その男も食い殺されたんだとさ」


 「つまんない話ね」


 「あぁ。 魔族を庇うと縛り首、イスルの羊飼いこの2つだけはな、情報伝達が手紙だけだった時代、あらゆる地方ですら鉄の掟として、教訓として伝えられてきた。 それ程に魔族の犠牲者が多く、数多の集落が滅んだ故の法律とフィクションさ。 要するに、魔族の言葉を信じて容姿に惹かれると最後、血族諸共皆殺しにされたんだ。 各地に残って当然さ」


 「酷い言われようだねぇ。 仕方無いだろう? そう言う生き物なんだ」


 「そう言うのを滅ぼさないと気が済まねぇのが人類ってやつさ。 お前らは病気みたいなもんさ。 根絶されたら皆が喜ぶ」


 「……さぁ。 今回は無理だと思うけれど」


 「どういう意味だ」


 「さぁね。 じゃあ、3つ数えたらお互い合図を送りましょう。 お仲間さんに逃げろ〜ってさ。 アタシは使い魔を起動させる。 面白いゲームでしょ?」


 クソほどしょうもないゲームに乗るほか無い。 そう目で伝えるとラフィーを自称する魔族が声を出す。


 「3、2、いーー」


 モーガンの輪郭が揺らぐと共に、角張った解体包丁の様な刀身が女の首元へと滑り込んで行く。


 「素敵バァカねぇ〜」


 瞳の魔力光が鈍く漏れ出すとともに、異様な光景が飛び込んできた。 潰される様に折れ曲がった柱と迫りくる天井。 圧搾機に掛けられたかのように潰れ縮む人々。


 「アンタ程度の魔術師じゃあ50年早いっての。 まぁ、今日死ぬんだけどねー」


 地鳴りの様な音と共に噴煙が立ち込め、周囲に潜んでいた狩人達がライフル銃の狙いを絞る。 紙媒体スクロースを持った魔術師が魔力励起を起こして煙の内側へと意識を向けた。


 ライフルを構えた狩人が魔術師へと問う。 視界の利かない中、彼、彼女らが感じ取れる魔力の揺らぎで大まかな位置に銃口を向けるためだ。


 耳につけたイアホンからは分隊長の指示が短く伝えられる。 各自索敵と。


 「何処に居るか判るか?」


 ライフルマンが横の魔術師へと顔を向けようと首を傾けた時、月光に照らされた何かが風を切る音がした。 男には刹那に見えた白銀の糸が魔術師の顔に向って吸い込まれた様に見えた。


 「どうした」


 硬い地面へとスクロールの束がバサリと落ちると共に、術師の顔にミミズがのたうち回るかの様な凹凸が蠢く。


 「……まずいっ!」


 顔から胸が割れ、最下級魔族の姿が影を伸ばすとともに乾いた音が何度か鳴る。


 視界が利かない場合は魔力を見る事が最善手ではあるが、魔族もそれは同じだ。 経験の差もあるが、情報伝達を必要としない単独での身軽さが活きるこの場合においては、1手先を行くのは包囲された獲物の方である。


 「あらあら。 これで包囲したつもりかしら」


 そう言って煙の中から姿を現した怪物の胸に穴が開いた。 その穴からは少量の血が吹き出ると共に黒い粒子が煙のように立ち上っている。


 硬質な石すら削り取る捕食器官が耳元で風斬り音を立てる中、狩人の握ったライフルの銃口は女へと向けられている。


 「……っち。 大した度胸だこと……ぶち殺してあげるわ……!」


 魔力の励起光と共に、使い魔がライフル銃を真っ二つにする。 腕を切り落として苦痛を与える算段だったのだろうが裏目に出た事は明らかだ。


 銃身が地面に落ちる音と共に使い魔の片脚が吹き飛ばされ、地面を這う。 狩人の手には銃身を短く切り詰めた散弾銃の口が煙をくゆらせていた。


 「ストライダー2 下級魔族と交戦。 持ち場を一時離れる」


 もう一度引き金を引くと2つに割れた頭の片方が吹き飛び、捕食器官の動きが鈍る。


 死に損ないの狩人に気を向けていると彼女の背後に気配が迫る。 あの状況で死に損なった奴など多くは無いと術式を展開する。


 「……」


 半透明な輪郭が迫る凶刃を弾くと共に青い火花が頬を照らす。 残像混じりの刃が何度も繰り出されるが全て同様に軌道を逸らされる。


 「旧い戦い方だこと。 でもやっぱり、全盛期の赤目達には及ばないね」


 ラフィーが左手をかざして魔力を込めた途端、モーガンの胸が浅く凹んで押し出されるようにしてふっ飛ばされる。


 石造りの建屋へと衝突するとモーガンを起点に家屋が崩れ土煙が立ち込める。


 「口ほどにもない。 けど、追跡されると厄介だ。 念入りに潰しておこう」


 「〈堅固な大盾ヴァレグ・レーフ〉」


 そう呟くと共に先程の術式が手加減だったかのように半透明な壁が噴煙を押しのけながらモーガンの沈む建物を上空から地上へと押し潰す。


 噴煙はすぐに晴れ、プレス機に掛けられたかの様な更地が広がっていた。


 「……」


 ラフィーの視線は既に別の場所を向いていて、視線が向いた場所からモーガンの声が聴こえてきた。


 「……満足かい? にしてもすげー術式だこと」


 隣の建物の2階。 渡り廊下の柱の間隙からモーガンが姿を見せる。 吐血したのだろう。 口元には雑に拭った血の擦過痕が伸びている。


 「……ほぅ。 頑丈な男だ。 まぁ、アンタが生きてたとして、取り巻きはどんどん死んでる。 助けに行ったほうが良いんじゃない? そうしないと、使い魔がどんどん増えて、この国中がアタシの使い魔まみれになっちゃうよ〜?」


 「それは私の仕事じゃないし」


 多少はリアクションが無いと言った甲斐がないなと目を細めるラフィー。 


 「……おっかしいなぁ。 大体のーー」


 「死ぬのを承知で皆ここに居る。 戦いで死ねるのなら本望だろうさ。 生きるも死ぬも実力次第。 自己責任だ。 それに国中が使い魔だけになった方がこっちとしてもやりやすい。 人間がいないのなら遠慮が要らないからな。 心置きなく燃やし尽くせる」


 崩れた建物から滑り落ちる砂利の音がやけに大きく響く。


 「……」


 「魔術師同士の喧嘩のセオリーだ。 先ずは説明から〈タール・ボウイ〉。 私はこう呼んでいるがーー」


 石油の巨腕がモーガンの側に出現するとともに鈍い音が鳴る。タールボウイの巨腕には六角形の窪みがびっしりと刻まれ、一部は貫通してモーガンの肩を抉った。


 「量に物言わせるタイプね。 私事ではありますけどな、術式の改造にハマっていてね。 前の分だとデクスターにボコされたか改善版を組んでみたんだ。 ……〈発勁〉」


 モーガンの体に広がる刻印が赤熱し、鈍い光を放つ。 マグマの様な色が一瞬煌めくと継続して熱を放つ。


 「どんな派手なものを見せてくれるかと思えば。 ただの肉体強化?」


 モーガンの握る刃物がオレンジ色を呈し、切っ先に炙られた地面の雑草が瞬く間に縮んで黒く崩れ去る。


 「されども肉体強化さ」


 モーガンの姿が消え、男性用化粧品の匂いが漂って来る。


 「……!」


 首を刈る一撃を数枚の緩衝壁で防ぐと首筋に酷い熱傷を負った。 刀身自体は止まっている。 ただし高密度で結合した術式同士が衝突した際の結合崩壊にて放出される熱は想像を超えており、刀身自体の放熱を増長させるのだ。


 (背中を取られるだと……。 いやいや、熱くなるな……。 ったく、こうも昔の戦い方を継承する術師がいるとはな)


 「拒絶する中指、改め〈落日の横刀〉。 良い威力だろう。 首がつながっている結果に終わった事は不本意だが。 長生き魔族に冷や汗かかせられたなら上等。 さ、デクスターの情報を吐けば命までは取らない」


 「勝ったつもりでいやがる……ナメんなよ人間……!」


 「先に舐め腐ってたのはお前の方だろうが。 どの口が言う」


 つづく

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