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狩人の生活  作者: 青海苔
第二章 星屑の反逆者達
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火のついた導火線

 「おっし。 こっちの遺体も収納した。 内部に術式活性無し。 搬送急げ〜!」


 慌ただしい現場から見える空は朝焼け色を呈している。不機嫌そうなナタリアがコーヒーを持ってモーガンの元へと近づいて来る。


 「なんで呼んでくれなかったんですか?」


 目の下が黒くなった、疲れた顔をしたモーガン穏やかな声で事情を話し、コーヒーを口にした。


 「……すんません。 一報するのがやっとでね。 あの部屋が被害者の住居ですけど、中から7人の遺体が回収されたらしいです。 血を吸うと言うよりか、人間を食っていたって感じですかね」


 なんだか妙なニオイがするなとは思っていたが、モーガンの靴や上着に生乾きの体液らしきものが付着しているのに気がついた。


 「うげぇ……そんな中に入ったの……うわ、なんかニオうと思ったら……」


 「シャワーを浴びたいですね。 それに、あの屋内には非常に毒性の強い細菌が空気中に漂ってたみたいで……なんかマスク無しで入ったら肺炎になるレベルだったらしいですよ?」


 モーガンから一歩下がり、コーヒーを渡した手を見る。流石にズボンで拭くのは失礼か。 そんな視線を向けつつ引きつった表情を浮かべるのだった。


 「うえぇ……汚い」


 「呼ばれなくて良かったでしょ?」


 「ま、まぁ。 そうかも……うわ! な、なにそれ?!」


 モーガンが手に持っている名刺の様なカードには不快な色の染みが付いている。 床に落ちていたのか、短い毛も付着していた。


 「被害者の所有物。 次はこの店に聞き込みをします」


 狼狽えながらも目を細めたナタリアがカードの文字を遠目で読む。 インクが滲んでいるが、配色的にお堅い名刺などでは無さそうである。


 「これって、キャバクラのカード?」


 「さっき、地元の狩人に聴いたところ、露出の多いネェちゃんと酒を飲める店らしいですよ? 彼に変異の原因を埋め込んだ元凶が居るはずです」


 「……元凶?」


 果たして情報を与えても良いものか。 そんな考えを巡らせたが、教えずに前線に出てこられても困ると思い口を開いた。


 「魔族の中でもそういう種類が居るんですよ」


 冗談でも言ってるように見えたのか、困ったように微笑む。 冗談でしょ? といった表情だ。


 「魔族? お伽噺の生き物じゃ」


 「祖先が根絶した筈の生き物ですが、まぁお伽噺というのは違うかと。 今頃本国は大騒ぎでしょうな」


 「……どうして?」


 「歴史の話ですよ。 戦争に次ぐ戦争の原因となった火種がまだ燻ってたとなれば、枕を高くしては眠れないってだけの事で……グルド人の歴史って詳しいですか?」


 「いえ」


 「周辺国を征服し、大勢を奴隷だとかに落とした。 今でも奴隷を使っている国で関わらないほうが身のため。 紅い目には気をつけろ。 大体はこういう教わり方だと思いますが……」


 歴史の話をざっとするとですね。 そう断って話を続ける。


 「グルド人は大きくわけて3つの大戦を制しました。 魔族との戦争で魔王を処刑し残党狩りを半世紀続け、根絶宣言をするまでの第1次大戦。 疲弊したところで魔族から奪った土地を分捕ろうとしたオークを殲滅した第2次根絶戦争。 オークを支持していた周辺国への報復戦争。 厄災戦争と呼ばれる戦争です。 全ての元凶となった魔族が生きてたとすれば、ちょっとしたっパニックも起こるでしょう。 マスメディアは新聞を売るために適当な情報を垂れ流すでしょうしね」


 「あぁ、そういう」


 「それに、また魔族との戦争が起こる可能性が出てきたとなれば、国のお偉方も呑気してられないでしょうし。 今頃周辺国との会合が開かれてるでしょうね。 狩人協会の総本山はあの国にありますし、内政のごたつきもあるのに、はてさてどう動くか。 ははは、いよいよ本国に帰る理由が無くなって来た」


 「……魔族って人と同じ形をしてて感情もあるとは聞いたことがあるけど……」


 「絵本だとかに出てくる優しい魔族ですか。 居るんじゃないですかね。 だけど、これ見てそう思えます?」


 そう言ったモーガンの瞳には虚無が宿っていた。 温情や人間的な道徳観を持つのは素晴らしい事だ。 だが、誰かの成れの果てから漏れ出した この地面の染みに向かって言えるのか。 そう訴えている様にも見える。


 「一眠りしたら店に行きますよ。 客として。 午前中の経営者への聞き取り、お願いしますね〜。 午前中に起きてる奴かは不明ですが」


 そんな事を抜かすモーガンへと見知らぬ狩人近づいてきた。 彼曰くカサンドラという女から電話が来たという。 大体誰から掛かってきたかおおよそ見当がつく。


 別のテントへと入り、受話器を取ると女にしては野太いオヤジの声が聴こえてきた。 随分と聴き慣れたレオの声だった。


 「ども。 そろそろ掛かってくると思いましたよ」


 「そうかい。 こっちは朝っぱらから大忙しだよ。 魔族が出たってんで、電算情報網を総洗いさ。 脱退した国家も全て洗い直して……まぁ良い」


 「結論から言おう。 この件、早急に終わらせる必要がある。 政治的な話だが、公表された時には原因が消え去っているような状況が好ましい」


 「なるほど。 アテはあるんですか? んなこと言っても」


 「ある。 物流業者の失踪者リストから妙なのが居てな、カルロスという男。 他の失踪は壁外で起きているがコイツは別だ。 物流拠点到着後、荷物を引き渡してる。 数日滞在した後に戻る予定だったが、そこから出た記録がない。 馬を超過滞在させてる履歴も残っていてな、問い合わせたらまた面白い事が判った。 搬入立ち会い者曰く、女の子を連れていたらしい」


 面白い事。 状況としては違和感を覚える事を指すのだろう。 大体の話は推察出来る。


 「……独身か?」


 「……あぁ。 それに加えその子供、妙な色気があったらしい。 それでいて男を誘導しているかのような物言いだった」


 「隷属の術式か」


 「その後の目撃証言でカルロスらしき男が若い女を連れ歩いていたとも情報がある。 似顔絵だが……どう見てもその女の子がそっくり大きく成長した姿に見える。 人探しの依頼だ。 旧魔族軍残党の女と思しき個体の捕縛、あるいは討伐を依頼する」


 「……了解。 無理難題でしょうが、なんとかしましょ。 それにしても随分と仕事が早い」


 「後援の狩人が来るの遅かったろ? 多分シャワーも浴びられて。 無いのは、優先順位が変動したって事さ」


 「眠ってる人を叩き起こしてまで聞き込みを?」


 「おかしいか?」


 「いいえ、そんくらい必死こいてくれてた方がこっちも動きやすいッス。 それじゃ」


 つづく

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