最下級魔族
際限なく伸び続ける筋肉の鞭。骨由来とは思えない先端の刃を残像混じりの軌道で振り回している。石材製の舗装路が削れ飛ぶ程の威力の攻撃を全て躱し、武器を抜く。
「まるでフードプロセッサーだな。 元の人格はもう無いのかな?」
束になって振り下ろされた触手を一振りで切り離す。肉厚で山刀程の長さのある鉈を軽々と振り抜き、足元に散らばった触手を眺める。
「流石に体重以上に分裂できまい。 しっかし驚いたねぇ。 吸血鬼騒動だと聴いて来てみれば……数世紀前に滅ぼされた筈の生き残りが居たとは。 歴史の資料でしか見たこと無いぞ……」
再形成した触手の射出を石油の腕で受け止める。止めたはずだが腕を貫通してモーガンへと迫るのだ。
「……あぁ、そういう感じ?」
ピンと張った筋肉と鋭く削られた骨。目元から数センチの位置で揺れている切っ先は月光を鈍く宿し、妖しく揺らめいていた。
「魔力で強化してるからか、銃弾受ける程度の魔力密度じゃ貫通するね」
石油の腕が煮立つと共に眼前の凶器が焼け切れると共に何発かの銃声が鳴り、膝から血が吹き出た。
「銀の弾頭。 肉体の延焼が無いしほぼ確定かな。 こちらモーガン。 吸血鬼騒動の元凶らしき個体と遭遇。 繁華街の廃墟前にて交戦します。 回収班、現場の封鎖班を願います」
「了解モーガン。 位置は端末で把握した。 すぐに向かわせる。 ナタリアはどうした?」
風切音の鳴る触手を躱しながら無線機を使い続ける。
「話し合いの結果とだけ。 じゃ、切りますね〜」
無線機から手を離した途端、異形の怪物の息を感じる程近くにモーガンの姿があった。右手の拳に魔力の揺らぎが色を呈して浮かび上がり、己の肉体の影のせいか余計にくっきりと見える赤い瞳が光を放っていた。
「すまんな。 これも仕事だ。」
砲弾でも爆発したかの様な音と共に怪物の胸に穴が開いた。 爆散した肉が壁へとこびりついた景色が胸の穴から見て取れる。
「術式〈発気揚々〉の改善版だ。 名前はまだない。 あの憎たらしいデクスターにも通じれば良いが……」
ぶち当てた筈の拳には一切の血も肉片も付いていなかった。間に魔力の板を緩衝としてぶん殴ったと言う説明が一番早いだろう。
死んだ触手人間の死骸の横へと立ち、大きく損傷した複眼が繋がる組織を辿る。 そうしている内に大きく欠損した怪物の本体が見えた。
「……心地の良い仕事じゃないけど、慣れちまって仕方がねぇ」
酷く損壊した亡骸の傍へと佇み、リラックスした表情で夜空を眺める。
つづく




