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狩人の生活  作者: 青海苔
第二章 星屑の反逆者達
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諸悪の源流

 時間は少し遡る。


 「えぇ……なんで私が……いやぁ……もっと強い人たち居るじゃないですか……」


 「面識あるの君だけだろ……それに、この団で1番美形だ。 相手方の団長がいらっしゃるんだ。 常識人を充てるのは当然……安全なポジションでもあるぞ? なんたってあのモーガンだ」


 「団長も常識……」


 「無いだろう? 俺は傍若無人、好き勝手に振る舞うし、嫌いな人間関係は全部捨ててる。 それが団長のメリットだ。 全ての選択が出来るし自分で責任を持てる。 部下の失敗で謝らされるのにネチネチいう無能を挟む必要もない。 まぁ、傍若無人同士で仕事は上手く行かないだろうしな」


 「俺は……その日世界を救うのに忙しくてな。 頼まれてくれるか?」


 「絵本の魔王を倒すだとか?」


 「瘴気溜まりの底の底。 そっから世界を滅ぼしかねない瘴気の放出株を身体中に生やした未確認生命体が出てくるんだ。 放っておけば、世界中がパンデミックさ。 世界中が世界的感染流行って頭痛が痛いみたいだな」


 「まぁともかく、頼む。 ……もしかして、相当嫌な相手なのか?」


 「いいえ。 まぁ……ついていけるか不安で。 あんな化け物を討伐した相手に」


 「大丈夫だろう。 君が思っている以上に、君の術式は殺しに向いてる。 相手が合わせてくれるさ。 本当に強い奴は他人を庇いながら戦える奴さ。 心配ない」


 (思ってたのと違うなぁ……脚で稼ぐタイプかと思ったんだけど。 この男見たか〜? 的な)


 「……ここ3週間で起こった殺人傷害事件、窃盗、変死が起こった位置だ。 全部で438件 ベッドタウンでの事件は除外すると337件。 ここらへんはケチな物取りで住民を殺害、刃物だとかによる殺害。 吸血痕を偽装したものが多い。 検死内容を確認したが、全て吸血痕の径がまばらだったし、死後につけられた傷だ」


 「それでも300近くですよ?」


 「こっから更に、絞り込んで行くと……物取りは除外……270件。 吸血鬼への転化が始まったばかりの固体だと仮定すればここまで絞れる」


 「……なんで転化が始まったばかりだと?」


 「口蓋の変型が見られないからです。 幸い、確実に吸血鬼が殺したであろう現場、歯型と目撃証言があるので、幅から見て感染後2周間から3周間。 目撃証言も人間の顔つきに近い。 そんでもって、この頃合いは血の渇望が強く出る。 金だとか気にする余裕もないでしょう」


 「さっき言った事を総合して、絞り込むと47件まで絞れる。 ざっくり繁華街回りで起こってるから、そこを探しましょう」


 馬車から降りたモーガンがナタリアが降りている間に支払いを済ませる。


 「そのアテが外れたら?」


 「虱潰しに現場付近で聞き込みですかね。 夜に調査して、ダメそうならそのまま朝から昼過ぎまで聞き込み。 4時間寝て、現場を回ってダメならもう一回」


 「……」


 「残念ながら、狩人で階級が上がったところで、結局現場に出るのは変わりないですし。 期待せず張り切って行きましょう」


 「……はぁ……了解」


 「それか、夜勤は私がやって、朝から昼過ぎまでの聞き込みをお願いするでも良いですか?」


 「ん〜まぁ」


 「じゃ! そういう事で! あぁ、無線は寝る時にも持っておいて下さいね。 なんかヤバかったら応援要請しますんで〜!」


 「あ〜……行ってしまった。 まぁ、応援要請あればすぐに出られるし……相手方の団長の意思を尊重……したって事で……上手く撒かれたな。 はぁ〜」


 眠らぬ街。大体の繁華街はこう形容される。例にもれずこの風俗街も活気づいている。支払いトラブルによる喧嘩、酒飲み同士の乱闘。ヤクザキックを繰り出すチンピラに道端に落ちた吐瀉物。


 「……さて、何処にいるかなぁ〜吸血鬼」


 モーガンの目には大小様々な魔力の残渣が至る所にへばりついている。魔術師同士で軽い殺し合いでもあったのか所々残渣が濃い場所がある。


 いくつかの建物を通り過ぎるように通りの真ん中からチラチラと左右を確認し裏路地へと通じる場所の魔力残渣を確認する。


 「何睨んでんだお前」


 当然喧嘩を売っていると勘違いされることも珍しく無い。


 「……狩人協会の者です。 内密に」


 近寄ってきた相手に手短に身分を証明する。上着を少し捲るとホルスターに収まった拳銃が顔を覗かせ、相手も納得してくれた。近頃この周辺で変死事件が多く起きている事を知っているからだろう。


 「……すぅ〜。 すんません」


 「いいえ。 お気になさらず。 何か情報あれば狩人協会に」


 男性の側を抜け、めぼしい裏路地へと進み異質な魔力痕跡を追う。人間が生み出す魔力にしては高い位置の壁面に付着している。何かが四つん這いで壁を這い上ったかのようだ。


 「……」


 数人の浮浪者の寝床前を静かに通り抜けると月の光も入らない程に細った道へとたどり着く。酷く古びた立ち入り禁止のフェンスを超えてさらに進むと、むせかえる程の悪臭と腐敗が始まった惨殺死体が地面に張り付いていた。


 (……死因は不明。 ズボンの切れ込みから見て脚をやられてから……歯が折れてる。相当な力で口を押さえられた。 喉の奥に犬歯が落ちてる。 頭蓋骨の幅から女性か声変わりくらいの男性。 ……肌着を見るに女だな。 衣服の乱れは無い、レイプ目的ではない。 財布も残っている。 衣服は防寒性重視で靴は運動向き。 左右でメーカーが違うのを見るに、ホームレスか?)


 (後頭部の骨が砕けてる。 高い位置から投げ棄てられた? 致命傷?)


 頭を上げ窓の空いている3階の部屋を見つけると拳銃を構え、上に続く階段を音を殺しながら登っていく。


 3階の吹き抜けから下を見る。死体の位置からしてこの場所から2つ向こうの部屋だ。 随分と前に捨てられたアパートの1室、何が理由かは知らないが不動産業者も競売で買いたがらなかった建物の様で、不法投棄のゴミがあらゆる場所に転がっている。野良猫の小便臭さも混じっている。


 (……)


 取り付けの悪い扉をゆっくり開く。静かに開くようにしたが、取り付けの悪いせいか不愉快な音が鳴って来客が来た事を知らせている。


 扉を開いた瞬間、モーガンの表情が酷く歪んだ。悪臭の中でも特に酷い部類だ。おそらく毒性のある物質が空気中に飛散しているのが判る。マスク無しでの長居で意識を失う可能性があるが、魔力の残渣も特段濃くなっている場所だ。 引き返すには惜しい。 


 「……すぅ……フーッ! ンゔ! ん゛ん゛!」


 モーガンが拳銃を向けたまま進むと1人の男が質素なスツールへと腰を下ろしてうめき声をあげている。


 「……おい、大丈夫か」


 コツンとつま先に衝撃が走る。人間の下半身、膝辺りの残骸を蹴飛ばした様で、酷く傷んだ死体が転がっているのが判る。


 1人2人の数じゃない。狭い1ルームに完全な遺体が7人分。 何処から拾ってきたか、腕の骨がちらほら。壁紙にはイチゴジャムを分厚く塗りたくったかのような黒っぽい赤茶色のゼリー状の何かが貼り付いている。


 「ちがう……やりたくて殺ったんじゃない……! おざえらで無かっただけなん……! んうぅ! フーッ!」


 「大丈夫。 落ち着いて話をしよう。 いいか、コレを飲め」


 モーガンが水筒を開き、男の前に差し出す。中にはとっぷりたっぷりと血液で満たされている。


 「……!」


 日中3時間ものあいだ砂漠の中で歩き回った後かのように差し出された水筒の液面へと口をつけて勢い良く飲み干す。


 虚ろだった目に生気が戻ったと共に涙が頬を濡らす。


 「ちがう……ちがうんだ……」


 「わかってる。 治療出来る。 落ち着いて。 ……誰から血を貰ったんだ?」


 「……それは。 あぁ、あああ! 違うんです! 決して貴方の事を……違うんで……ずぅう! お許しを! ……お許しを! 嫌だあぁ! 死にたくない」


 「大丈夫だ。 落ち着いて」


 「あああ!」


 モーガンの胸を突き飛ばすとクローゼットへと背中を打ち付けた。反動で開いたクローゼットからは腐った上腕が垂れ、モーガンの頬を撫でた。


 「あああ……! 逃げろ! もぉ、おざえでだでない!」


 男の体内からベキベキと骨を鳴らす音が鳴ったと共に大きく背中が裂けた。 触手と鋭く研がれた骨の切っ先を持った捕食器官を有する何かが飛び出て部屋の中を掻き回す。嵐でも起こったかのように部屋中の家具や壁紙が切り裂かれると共に窓を突き破ってモーガンが飛び降りた。


 下の遺体を緩衝材として押しつぶして姿勢を戻す。


 追って降り落ちて来た異形がモーガンへと正対すると、男の体の中から湧き出た触手を背負っているように見える。ただ、背負っている男は白目を向き、触手の命令に従うかのように超人的な跳躍でモーガンへと飛び掛かるのだ。


 「下級吸血鬼では無い。 これはッ!」


 モーガンが咄嗟に避けると石造りの外壁に触手と旧い肉体がめり込んでいた。背中側の中身に幾つもの複眼がびっしりと生成され、人間で言う背中を向けたままモーガンへと近寄ってくる。


 「〈タール・ボウイ〉! 手加減抜きに行くぞ!」


 つづく

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