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狩人の生活  作者: 青海苔
第二章 星屑の反逆者達
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屑鉄の英傑

 涙で腫れたというには酷すぎる右目。痛々しい化膿した目を庇いながら体を起こした女が夜風が入り込む窓へと視線を移す。そこからは閑静な森の風景が窓から見え、月明かりが降り注いでいる。


 降り注ぐ光の中に青白い粒子が混ざっている。水溶性の顆粒が透き通る水に散り溶けるかのように拡散しては消えを繰り返す光景は幻想的以外の言葉が出てこない程だ。


 「……綺麗なものだな、この世界というのは」


 そんな光景の中に鈍く輝く赤色が蠢いている。武装を施した旧いオートマタ達だ。 どこから手に入れたか、旧式の銃で武装している。


 「姉上。 お目覚めですか。」


 ノックをした後にデクスターが部屋へと姿を見せた。


 「あぁ。 どうやら処置は上手く行った様だな……」


 「えぇ。 上位者の眼球、変異によって生じた第3の目。 直に眠っている左眼も引っ張られて目覚める筈です。 そうすれば、移植した目も姉上の肉体で上書きされるでしょう」


 「……執政の方はどうなった? 影武者は上手くやってるか」


 「えぇ。 問題無く。 一匹狼と生臭坊主のガキにも勘付かれてすら居ません。 あっちは魅力的な国造りを任せています。 大丈夫でしょう。 それに鎧の適合者も大勢確保できました。 兵力の増強は着々と進んでいます」


 「それに加え、使徒化した人間の対処に狩人達も手を焼いている様です。 遺物も手に入れた。 次は……」


 得意気に喋り続けるデクスターが口を閉じて麗しい顔を覗き込む。姉上は何かを考え込むように顎を引き話半分でしか聞いていない様子だった。


 「姉上?」


 「いいや。 思う所があってな。 いざ目標達成が目の前に迫ってくると、なんだか哀しくなってだな」


 「……お変わりになりましたね。 まさか、人間に情が湧いただなんて言いませんよね?」


 「ふふふ。 まさか。 継承の器たるこの私が? 我らが種族の悲願を達するまでいかなる犠牲をも厭わないさ。 それにしても、ただ喋る為だけに来た訳では無いだろう」


 「申し訳ございません。 姉上。 良い食材が手に入ったので、お召し上がりになるかと」


 「……何歳の肉だ?」


 「6歳の肉です。 先日の屑肉とは比べ物にならない良品ですよ?」


 それからしばらく時間が経ち、一体のオートマタが血塗られた麻袋を担ぎ出てきた。緑色の発光を目に宿したオートマタ。 朝の心地よい空気を吸うかの様に背筋を伸ばし、出てきた建屋を眺める。


 「…………」


 ロクにメンテナンスをされていないオートマタの駆動部品が鈍い音を立てながら煤と油まみれの焼却炉へと歩いて行く。


 銃を持った赤色目をした警備オートマタが声を掛ける。


 「この時間にしては珍しい」


 「溜め込んでいた分があった。 他の肉にニオイ移るト問題になる。 だから処分する。 J55の片付けミスだ。 あの個体のサーキットを交換した方がイイ」


 「そうか」


 赤目のオートマタが壊れかけたオートマタから離れ、焼却炉へとたどり着く。


 汚らしく、色々な物が転がっている。きっと人間なら近づくだけで嘔吐してしまうだろう。そんな考えと共に、麻袋を開く。


 「これは賭けだ」


 開いた麻袋のベールを解くと怪我を処置された子供が出てきた。久々の太陽で目が眩むと、酷い悪臭で噎せ返る。


 「……良いかい? この赤い針が指し示す方向へと向いなさい。 荷物の中には防寒具と数日分の食料………ちゃんと食べられる食材で作ってる。 後は岩塩、時折舐めながら移動しなさい」


 「……逃がしてくれるの?」


 「外に捨てるだけだ。 そして、コレを親切な人間に

渡して」


 頭部パーツのメンテナンス用ハッチが開き、錆びついた指先で何かを抜き取った。


 無数の窪みがある板ガラス。窪みのせいで白く濁っているソレを子供の手に渡すとともに妙な音を立てる。


 「行きなさい。 振り返らず、真っ直ぐに」


 「……うん。 ありがとう。 助けを呼んでくるから……待っててね……絶対だよ!」


 「……」


 子供が茂みの中へと消えるのをずっと眺めていると緑色のランプが点滅しだす。


 「警告。 一時データが消去……ストレージを接続してください。 接続されない場合、本オートマタはスタンバイモードに移行します。 警告……警告……ケイ……ドウカゴブジで……コレが死か……マァ、イイか」


 麻袋に火をつけ、燃焼促進剤と他の死体を焼却炉へと放り込む。


 別の個体から抜き取られた故障ストレージを頭に差し込むとハッチが閉じる。


 「データを初期化中。 初期化完了。 読み込み開始……少々お待ち下さい。 エラー、ストレージが破損しています。 ストレージが破損しています。 ストレージが破損……」


 エラーを示す橙色の明滅が立ち昇る太陽の中に消える。


 その頃、モーガンは検死台の上に乗せられたカサンドラの残骸を眺めていた。横にはレオが腕を組み残骸を睨んでいる。


 「ひでぇもんだ。 除染したとして、魔力がここまで残るとは……腕の毛が逆立つ」


 レオが鳥肌を擦るのを見たモーガンはそのうち慣れますと呟くのだ。


 「防護反応の1つでしょう。 死因は、胸の貫通による失血及び臓器の破損。 全身の電気火傷。 まぁそんなところ、後は落下の衝撃でぐちゃぐちゃ。 第3の目を取り出してどっかに持って行った」


 「その目玉欲しさにあんなことを。 専門家としてどう思う?」


 「さぁ、さっぱり。 額の目玉ね。 わざわざ取って行くってことは価値があるって話ですよね。 どういう効能があるかまでは知りません」


 「……専門家にしては、ふわっとしてるな」


 期待されているのは嬉しいが、若干的外れな期待だと頭を掻く。


 「駆除専門ですよ? 解剖は専門外。 ただ、3つ目を開眼した奴が言うには、文字通り世界が変わるだの言ってましたが」


 「まぁ、それよりもモーガンの脳味噌から抜き出した映像で、デクスターのご尊顔を拝めた。 んで付着していた魔力残渣も確認出来た。 足跡を追える」


 「で、なんで会議室だとかキャバクラで話さないんです? 楽園島の地下にある解剖室で……防腐剤だとかに囲まれながら」


 「……まぁ、電波遮断がされてるからな。 盗聴のリスク管理だよ。 この件に関しては知ってる奴の方が少ないし」


 「だからって解剖室とは……。 狩人協会の情報網に何か情報は?」


 「さてな……さっぱりだ。 精々、君の近況を把握する程度さ。 魚人を素手でぶち殺し、放骨獣を殺したくらいさ」


 「狩猟と言ってほしいですね」


 「狩猟したくらいさ。 しかもカサンドラの事後復興に人員が割かれ、こっちからも人を出してるんだ。 クラス8だと言っても、現場を踏ませないとな。 それに使徒の討伐依頼も増えてる」


 「……へ……コッチには連絡来てないですけど?」


 「全部モーガンに頼まずとも、ここにいるのは粒揃いさ。 決して君をけなしたわけじゃない」


 「ん〜ん。 了解。 ……まぁ、情報が無い限り動けないですし。 なんで目玉を盗んだか、盗んだところで。移植が出来るわけでも……出来るとしたら?」


 「……術式を移植する連中だ。 あるかもな。 で、デクスターは何処にいるかの見当はつくか?」


 「それはなんとも。 私は現場の人員で情報がなければどうとも」


 「縛りで追跡が可能にカスタム出来ると聴いたが」


 「その分、戦力としては頭数に数えられない一般人になりますけどね。 広範囲かつ膨大な魔力出力で行使した場合に座標が判る。 見たところ、デクスターは技巧派ですよ。 魔力出力に物を言わせて相手を潰すタイプじゃない。 最小魔力で効率的に殺しに来る。 逆探知は使えません」


 「使う可能性は無きにしもあらずでは?」


 「慎重な男です。 使う時は準備を整え済ましている段階でしょう。 その時は場所が割れたところで、国が2つ滅んでいてもおかしくない。 誇張抜きに」


 「何故デクスターは君を生かしておいた?」


 「……奴の仲間だと疑われるのは心外ですな。 どうぞ手錠でも掛けて、自白剤でも記憶映像の抽出でもお好きに。 それであのテロリストを殺せるのなら本望です。 何なら、受けた仕事をのリストを全て出しましょうか?」


 「……その必要はない。 人間を素体に怪物を生み出す奴だ。 君もその素材として見られている可能性があるんだと思うが、とっ捕まって化け物にならないでくれよ? 流石に君由来の怪物など、相手にするのが厄介だろうしな」


 「ご謙遜を。 10分ももたずに肉塊に加工されるがオチですよ。 それじゃ、情報が入り次第連絡お願いしますね。 ……今日は家の庭に土を入れる予定なので」


 「なんだ、運動場でも作る気か?」


 「術式練習する区画を作るんです」


 「おぉ? なんだ、新人でも入れるのか?」


 「いいえ、私はリーダーっていう性分ではありませんし、趣味ですよ」


 しばらく後、出来上がったばかりの区画の上でモーガンとセシリーの傀儡術式が近接格闘をこなしている。


 簡単には壊されなくなった傀儡ではあるが、モーガンの繰り出す掌底をガードするたびにヒビが入り魔力の屑が溢れ落ちる。


 「良いね。 目は追いついて来てる」


 反撃のジャブを受け流し、傀儡の顎に肘鉄を叩き込む。以前であれば捩じ切れる力加減だが今回は持ち堪えて、モーガンの肋を蹴飛ばすのだ。


 「うおっと?!」


 「あっ! ごめん!」


 目隠しをして座ったセシリーが庭にいるモーガンに声を掛けた。横ではヘルメースが茶菓子と紅茶を嗜んでおり、意地悪そうに声を出す。


 「一矢報いたね〜。 大将〜! 教え子に一発入れられるってどんな気持ち〜?」


 「成長を間近で見られて嬉しいって感じかな。 大丈夫だよセシリー。 初めて出現させた時よりも手加減出来てて偉い!」


 傀儡の頭がかち割られようが、胸をぶち抜かれようが。セシリーへのダメージはない。それと比べれば、モーガンの術式は難儀な戦い方を強いられるものだ。


 「おっけ。 じゃあそろそろ第2フェーズに進むとしよう。 長物の扱い方だ。 〈タール・ボウイ〉」


 石油の巨腕から2振りの槍が滴り落ちる。地面へと刺さった片割れをセシリーの傀儡術式へと渡して再び距離を取る。


 「槍の使い方なんて知らないんだけど……」


 「大丈夫大丈夫。 セシリーさんは目が良いから、防御してるだけで感覚掴めると思う。 槍は良いぞ〜、剣よりもリーチがあって、ぶん殴るも、ぶっ刺すにも便利。 投げ飛ばすにも使い易い。 てなわけで槍のレクチャーです。 張り切って行きましょう!」


 「……お、お手柔らかに」


 「じゃあ、さっきの2割り増しの速度で潰しに行くから、防ぎ切ってね〜」


 数歩の跳躍で近づいてくる。そう身構えた瞬間、傀儡の眼前に槍の先端が迫っていた。モーガンの手からは既に槍が無くなり、投げ飛ばされた槍が輪郭の尾を引いている。


 身を捩ると共に槍を避けるとモーガンが足下に潜り込み、残像を纏わせた足払いを繰り出している。大きく視界が揺れたとともに青空が視界に飛び込んでくる。


 「こんの!」


 傀儡が槍を地面へと突き刺し、槍を支柱に遠心力を加えた蹴りを入れる。


 堪らず防御したモーガンの身体が押し出される程の威力。深い轍が足下に伸び、蹴られた右腕には真っ黒い六角形の板がへばりついている。


 「おっほほ〜↑ すんげぇ反応速度……たのし……!」


 「なんで蹴飛ばされて喜んでんだよ。 キモいぞ大将〜」


 「なんだと〜。 今の見ただろ! 咄嗟にあれ出来るって相当だぞ! それよりもセシリーさん。 私が投げ飛ばした槍は術式由来のものなので」


 投げ飛ばされ、地面に突き刺さった槍が自ら浮かび上がり切っ先をモーガンへと向けて帰ってくる。それもはじめに投げ飛ばした速度に近い勢いでだ。


 「もちろん」


 セシリーの傀儡術式が握った槍を回すと、引き返してくる槍を空高く弾き飛ばした。背を向けたまま弾いた槍がモーガンの足下へと突き刺さるとモーガンは満足そうに微笑んだ。


 「ん〜。 センスの塊」


 「えへへ……」


 楽しそうに訓練する二人を眺めているヘルメースが一区切りついたのを見計らって声を掛ける。


 「んなことよりさ〜、もうすぐ3時だぜ〜? 休憩しない?」


 「そうするか〜。 ん、踏み固めた地面は最高だな〜。 朝から頑張った甲斐があるってもんだ」


 「タールの腕でンギュって押さえるだけでここまでカチカチにできる事に驚いたわ。 大将、土木工事やれよ。 儲かるぞ」


 「やだ。 私有地で好き勝手するのはいいけど、責任負ってまでやりたくない」


 「セシリー。 どう思う、こういう事平気で言う男」


 「……え、えっと。 神経質な人よりかは良いかな……あはは」


 「だとさ。 楽しまないとねぇ。 いつ死体で戻って来るか分かんないしさ〜」


 暗い話になるのを察したセシリーが話題を逸らす。


 「……兄貴とヘルメース姉ちゃんは訓練しないの?」


 「はは、大将とは呼んでいるが手の内を明かすほど信頼してる訳じゃないし〜。 まぁ、どうしてもって言うんなら練習相手になってやってもいいけど?」


 「あら〜。 そうなの。 ヘルメースと訓練したら冷静じゃなくなるからねぇ。 強い術師だから熱くなってくると思うんだよね〜。 それで怪我させましたってのは問題だと思うので……はい」


 「バトルジャンキーがよ」


 「自制してるから。 同列に扱わないで」


 どのくらい時間が経っただろうか。 オートマタの意識が戻るとデクスターが目の前に座っていた。


 上物の酒と人肉のステーキを食いながら、穏やかな笑みを浮かべている。


 「お目覚めかい? 僕はね、きっちりした性格なんだ。 バックアップを必ず取っておく。 リカバリーデータもね。 特に、君のような変わり種はね……やはり、7歳児は良い。 ほんの少し甘みがあって、それでいて、歯ごたえがある」


 「……デクスター。 驚きましたよ。 貴方も人を食うとは」


 「昔、赤目の男に身体をイジられてね。 普通の食事も出来るんだが……こっちのほうがしっくりくる。 ん〜……素晴らしい。 やはり、魔族たるもの、人肉が一番覿面に肉体を漲らせてくれる」


 「その肉……」


 「あぁ、安心したまえ。 お前が逃がした子供ではない。 ……見逃した訳じゃない、見送っただけさ。 きっと君は親切心だとかで恩義を掛けたつもりだろうけど、とんだ間違いだよ」


 「どういう事だ?」


 「アレは僕の眷属。 君は図らずとも僕の仕事を手助けしてくれた。 感謝するよ。 直に元の姿に戻るだろうさ。 ものは試しだ、別プランが上手くいくか試してみよう」


 つづく

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