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狩人の生活  作者: 青海苔
第二章 星屑の反逆者達
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定常業務

 重々しい鎖の音と共に昇降機が上がってくる。鉄製の板と鋲で補強された搬入用エレベーターには動脈を切られた四足獣が数体転がっており、死んでから少し時間が経っている様だ。


 エルフ狩人が搬入されたエレベーターの床を固定して獣の側へと近寄る。全長4メートルはある放骨獣が1頭。 どこにでも生息するメジャーな怪物で7本の射出尾を有している。特段体長が大きいこれが集団のボスだろう。取り巻きのオスは精々2メートル程度であるから遠目でも判る事だ。


 「……これを1人でねぇ。 死骸の状態は良し。 尾てい骨付近に損傷無し。 起爆腺は問題無く取れそうだな……」


 尻尾を触った感触は肉を巻いた鋼鉄という感じだ。生きている内はこの捕食器官を自在にしならせ、ライフル弾をも超える貫通力と強度を誇る射出骨を打ち出してくる化け物だ。


 射出骨は特注の弾丸の材料に使われたり、御守りの下地に使われたり。加工品の材料として売れる。多産の御守りだとか、厄除けだとか。毛が少なく頑丈な革製品として家具に使われるのが主だとは聞く。


 「おーし。 始めるぞー」


 鋼鉄製の防護服を装備した集団が息を上げながら獣の解体へと(あた)る。防弾脂質を持った腰回りの皮膚を剥がし、慎重に解体を始める様子を高い位置から傍観するモーガンが鼻を鳴らす。


 「あんな装備して山の中は走り回れないよな……」


 重労働の横で良いご身分なこった。 コーヒー片手に風に吹かれている。


 「なぁに? 自分の手柄がどう解体されるか眺めに来たの?」


 アリスが姿を現してモーガンの横へと並んだと共に、現場作業員の雰囲気が強ばるのを感じた。トップが現場作業を眺めるという、はた迷惑この上ない状況を作った事に少し罪悪感を感じながらも声を出す。


 「……いえ、今日が回収日だと聴いて。 状態を見に来ただけです。 ちゃんと装備もしっかりして解体してますから、無用な心配だったかなと」


 「手順逸脱で死にたくないだろうし、しっかりやってるよ。 教育の段階で不安定作業での死亡事例と実際の画像を使って説明してるんだ。 あれを見たら、ああはなりたくないと思うだろうさ」


 「……エルフ人って結構冷酷だったりします?」


 「……冷酷。 まぁまぁ、土地によってやり方は違うからね。 心配で見に来たって、そっちじゃ多いの? 解体作業での死亡事故」


 「えぇ。 起爆分泌液の薬傷だとか、暴発して頭を撃ち抜かれただとか。手足を撃ち抜かれるはしょっちゅうですよ。 そういう業者が多くて後を絶たないんです。 民間委託だと従業員が死んでもどうでも良いとか抜かす連中が多くて……取り越し苦労で良かったですよ」


 「……そ、そうなんだ。 グルド系の労働環境ってヤバいね」


 「……というよりも、利益至上主義が多いんですよ。 民間の悪い所は違法行為コンプリートしてる法人とかザラで。 子供に煙突掃除させたり、煙突の中で死なせたりね。 怖くなって動けなくなったら暖炉に火をつけたり」


 「……えぇ?」


 「……ケツに火がつくって慣用句はそれが元だったり。 ほんと、あそこでは命が軽い」


 「……実体験じゃないよね?」


 「人をみる目には多少自信がありますから、ヤバそうなのとは絡まない様にしてます。 絡むと死に直結する場合が多いですから。 流石に世間から非難されまくって法整備が進んだんですけどね。 しかし頑なに奴隷制はやめないという、アタオカ国家ですよ」


 「……それで儲ける人間が居るって事かな」


 「そのうち終焉しますよ。 実際に奴隷身分の人々が武装蜂起してますし。 それに関しては狩人協会の総本山はシカトこいてますし……奴隷制は廃止しろって20年前から言ってたのに頑なに続けた国家が荒廃しようがどうでも良いって感じで」


 「国と狩人協会が仲悪いと」


 「というよりか、狩人協会が国家に依存しなくても良いほどに力を持つに至りましたからね〜。 王政から共和制からにでもなるんじゃ無いですかね。 20年もすれば結局腐敗するのはどうせ同じでしょう。 権力は死なず、持ち主が変わるだけ。 腐敗したまま生き長らえるのが権力の特徴ですし」


 「……モーガンさん、母国には帰りたくないの?」


 「帰る理由が無いですね……あっちじゃ、私も一般的な魔術師の内の1人ってだけで競合が多くて」


 「ふふ。 ご謙遜を」


 「……上には上が居ますから。 自分が必死こいて出した成果を片手間ついでにポンと出す術者なんてザラですよ。 術式もさることながら、術者も頭が切れる」


 「はえ〜。 例えば?」


 「例えば、例えば……仕事で知り得た同業者の術式はあんまし言うのはアレですが……まぁ、羨ましい術式ですかね。 ふんわりとした話になりますが」


 「強い術式を持ってるのに羨むってなんか意外かも」


 「……除染費が高いのなんの。 気にせずに使えるのは肉体強化系か5指の拡張術式くらいですし。 鉈を使ってるのも請求される額面がデカイからって理由で……平たく言えばコスパが悪いんです。 他の術者は生活費だとかを考慮しない仮定ですが、儲けが丸々入って来る。 ……後の請求額で報酬が消し飛ぶ怖さったら……」


 「難儀な術式だこと。 今回は鉈と肉体強化で?」


 「えぇ。 手っ取り早く。 新調した狩猟鉈が良い使い勝手で。 鍛冶たんやの人が言う話ですが、少量のエルヴニウム鋼材を混ぜて仕上げてるんだそうです。 良い切れ味してる」


 「時速60キロで走る怪物に刃物一本で?」


 「……えぇ。 まぁ。 トップスピードに乗る前に仕留めれば。 しかも人間の味を覚えてしまったようで、向こうから突っ込んで来ました。 報告書に書いていたと思いますが……」


 「そこまで手が回ってない。 それに、貴方の案件に関しては、いつでも直接聴けるから」


 「それは確かに」


 「……ごめん、電話……。 はい、アリスです。 えぇ。 ……それなら、対応可能な狩人が丁度目の前に。 発注書出しておいて」


 「……次は何を? 支部長殿」


 重々しい水気の音とともにモーガンが青黒い死骸を引きずってる。


 「魚人の狩猟……あぁ生臭い」


 一際大きな個体をその他死骸の山の中に捨てる。そんなモーガンの皮膚や衣服には幾つもくり抜き傷が刻まれている。


 「大将、そっちは終わった〜?」


 水の滴る無線機からヘルメースの声が鳴ると、手頃な草地に腰を下ろす。


 「あぁ。なんとかな。 水中で8匹に集られたが、どうにかね。 魚人のせいで手がズタズタだよ。 あと全身咬み傷だらけだ……」 


 「……エラに手を突っ込んで引き千切っただなんて言わないよね」


 「内臓に直通する弱点持ってるのが悪い」


 「うげぇ……今晩の料理当番は自分がやるよ。 寄生虫いっぱいだから家に上る前に、ちゃんと洗ってくれな」


 「……仕事終わりに汚い言われる親父の気分だ。 悲し。 そっちは?」


 「圧縮空気をエラに流し込んで発散させたよ。 大将のアイデア良いね。 クソ生臭いケド」


 「寄生虫塗れの血飛沫が飛散するんだ。 家に虫下しあるから一応飲んでおいたほうがいい」


 「そ〜ね〜。 しっかし、こんな場所に巣を構えるなんてもっと流れの遅い場所に作るとは聴くんだけどね」


 「商船を襲って味を占めたんだろう。 業者も死にたくないから、手頃な食料クレートを捨ててるんだと。 栄養豊富で増えるに増えて今に至るんだと。 まぁ、仕方無い……女王個体も討伐完了。 回収班に連絡を。 さて、燃やして終わり……〈タール・ボウイ〉」


 モーガンの右手に黒い液溜まりが浮かび上がると包み込むように鮮やかな炎が立ち上る。


 積み上がった死骸に火を放ち、魔力を込めるとたちまち小火が大きな火の柱へと変わった。


 「……ふ〜。 魚はしばらく食べられないな……」


 しばらく後。アリスが家の鍵を回すとモーガンとヘルメースがソファーで寛いでいる場面に鉢合わせた。


 「おかえり〜」


 「ただいま。 銭湯行ってたの?」


 「流石に汚いからねぇ〜。 魚人処理はキツいし汚い、本体も売れないで。 儲からないから皆忌避するよね〜。 まぁその為にも狩猟税が徴収されてるんだろうけど」


 「巣を構えて結構時間が経ってたから、腕の良い魔術師にお願いしたのさ。 わたしの分のアイスクリームある?」


 「冷蔵庫に入ってますよ〜」


 「……あれ、なんか静かだなと思ったらモーガンさん寝てるじゃん」


 ソファーに腰掛けながら腕を組んで寝息を立てている。


 「大将の術式が燃費悪いのは知ってるでしょ? しかも、女王個体が川に逃げ込んだから深追いしたらしいんです。 そしたら8匹に囲まれ齧られ。 無茶苦茶なやり方してれば尚の事疲れるでしょう?」


 「……そこまで殺意高く無くても良いのに。 伝え方悪かったかなぁ……巣の破壊だけでも良かったんだけど……」


 「女王個体を確実に潰さないと焼け石に水らしいですよ? 大将曰く。 だからといって水に入るのは自殺行為だと思いますけどね〜。 しかもエラに手を突っ込んで動脈ごと引き千切るっていう……無茶するねぇ」


 「ヘルメースならどうする?」


 「……2時間ぐらい空から追跡して、陸地に上がったら結界で水辺と寸断。 後は酸素爆弾を体内に侵入させてドカン。 もしくは斬りつけて血管から大量の空気を送り込むとか?」


 「モーガンさんが一目置く理由がわかった気がする……こわい」


 「……えぇ?! ヤダな〜。 術式のアイデアは大将由来ですよ〜? 故に大将が悪い。 いやぁ、そのアイデアを1時間でモノにした己の才能が恐ろしい……!」


 横の話し声につられてモーガンが目を覚ます。あくびをしながら目を擦り、視線をアリスへと向けた。


 「……んあ。 おぉ、アリスさん。 おかえりなさい」


 「は〜い。 ただいま。 お疲れみたいだね」


 「あの案件、ヘルメースだけでも良かったかもしれませんね」


 面倒な案件を次から任せられると面倒だと言わんばかりにヘルメースが言葉を差し込む。こんなにも真剣な表情なのは食事の時くらいだろうが、やっぱり魚人関連の仕事は誰でもやりたくないが本音なのだろう。


 「んな事言うな大将。 巣を壊すのは大将いなけりゃ手間かかるんだ、術式の腕で数十トンの土砂と枝木を10分で撤去して燃やせる術者はそう居ないぜ? 人間重機みたいなもんだよ」


 「……そういうものなのか。 土術系の人らからすれば子供だましみたいな感じなんだけどね。 まぁ、しばらくは出てこないでしょう。 数匹のオスの個体を逃がしておいたからその他の個体群に伝わるだろうし……魚人関連はしばらく無いでしょう」


 自分に厄介事が飛んでこないと確信したヘルメースの表情が露骨に和らぐ。


 「濡れた土砂塗れの枝を短時間で灰燼に帰せる土術師が居るかよ。 それにぃ〜、この風術師様もいるのさ。 向かうとこ敵なしさ、この狩猟団は」


 「おっかねぇ……。 豪語した狩猟団が潰れるのを何度も見てきた。 謙虚。 慎重。 計画的に」


 「無鉄砲。 大胆。 無計画。 魚人がうようよいる川に突っ込む奴のセリフか?」


 「あれは……ちゃんとした計画さ。 正々堂々ブチのめすっていう……」


 「そりゃあ、計画とは言わねぇって。 姉御もなんか言ってください」


 「モーガンさん、無茶だけはしないで下さいね」


 「えぇもちろん。 最近は家で居るのが楽しいのでね。 ははは、容易くは死ねませんよ。 あ、そうだ。 食事はトランクとセシリーさんが作ってますから、お風呂でも先に入ってくれば時間的に丁度いいかと」


 「お。 じゃあそうする〜♪ あ〜、アイス後で食べれば良かった〜」


 「まだいっぱいあるから、気にせず食べれば良いんじゃない?」


 「ヤダ。 太る」


 「……そうか。 まぁ良いか」


 ヘルメースが思い出したかのように話題を変える。


 「てか大将。 見知らぬ食器が部屋に飾られてるけど、あれセシリーの?」


 「母方の嫁入り道具らしいよ。 有事の際に換金するための高級品だと思うけど、運良く綺麗な状態で残ってたらしい」


 「……家を継がない相手に対しての手切れ金ってやつか?」


 「そう言う事はセシリーさんの前で絶対言うなよ? 自分の娘が生活に困窮して欲しい親は居ないだろう」


 「……そっか。 良い親に恵まれたんだな、セシリーは」


 「そうねぇ」


 慌ただしくも穏やかな時間が過ぎ去ると、すっかり月が昇った。腹も膨らみ、眠くなった子供達は自室へと戻って行く。


 「じゃ、おやすみ」


 「おやすみ〜」


 セシリーとヘルメースが2階へと上がっていくと、トランクとモーガンが洗い物を済ませている。


 「トランク。 今日はやっておくよ」


 「お、良いんですか? じゃ、お先です」


 酒の入ったグラス片手にアリスが洗い物の作業風景を眺めている。


 「……オートマタに気を使うなんてね」


 「お、変人扱いか? アイツには世話になってるからな……気を使って当然」


 「んーん」


 「そうだ。 聴きたい事があったんだった。 後悔してないか……その、自分と」


 「恋人になった事? 仕事で死にかけて留守にしがち。 数ヶ月行方がわからず、死んだかもっていう噂まで。 えぇ、普通なら。 下っ端で狩人協会に入り、受け付けから働き、長を任せられる程になった女よ? タフさが違う」


 「……でも、結構痩せちゃってたでしょ? 帰って来た時」


 「くっそ。 体重計見られてないのになんでわかんだよ……」


 「抱っこした時に……」


 「…………あぁ。 まぁまぁ、後悔ね。 無いね。 頼んだのはこっちだし。 覚悟の上のこと」


 「……そうか」


 「だから前だけ見てなよ。 余計な事を考えず仕事に集中してさ、んで生きて帰ってこい。 浮気してもいいけど未成年に手出すなよ〜?」


 「浮気する元気無いっす。 まぁまぁ、死なない程度に頑張ってきます」


つづく

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