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狩人の生活  作者: 青海苔
第二章 星屑の反逆者達
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虻と虫ピン

 「はて、これじゃなかったか……」


 崩れる複製体が空気に乗って掻き消える。世界中が暗闇に落ちてしまったかの様に、完全な暗黒が広がっている。


 「光の操作は照射させるだけじゃない。 遮断だって可能さ。 さぁ紫電の狩人、終わりにしよう。 瞬間移動なら、こっちも得意だ。 〈第四フィーア〉」


 光が何体にも分裂し、分身が次々と切り裂かれていく。


 (光の遮断だと……って事は、さっきの術式は飛んでこないって事で良いよな……だから近接戦か……良いぞ近づいて来い)


 分身が消えるたびに雲で分身体を周囲へと散らす。次から次へと生み出している次第だが、形成が終わると共に潰される。それでも生産速度は十分だ。余剰分は着実に増えている。


 色々と考えを巡らせていると視界が真っ白に潰れた。異様に大きい太陽の中、厚く塗られた影がランディへと落ちる。


 石膏の彫像の様に飛び込んできたカサンドラの姿、異形の瞳でランディを見下ろし、煌々と光る剣をかざしている。剣の表面にはベナール対流が生じ、それを視界の縁に捉えると網膜が焼け、白飛びした世界が欠けた。


 「〈手中の太陽〉。 どれ、水蒸気になっても死なないか、試してみよう」


 ランディの複製体全てが蒸発し、ランディの皮膚からひび割れる。


 「……やべぇ。 こりゃあ死んだな……はは」


 擬似太陽の剣が振り下ろされると共に妙な音が鳴った。肉体が焼き切れる音では無く、もっと湿った音だ。残った視力で再び前を見ると穏やかな空が広がっている。地面は青みがかって草原がどこまでも続く様な光景。


 そして、黒い槍で脇腹と肘を貫かれたカサンドラの姿がそこにはあった。


 「当たった! 無事かランディ?」


 無線から聞こえて来る声には馴染みがあった。モーガンの声だ。


 「おま、生きてたのか?!」


 カサンドラの握っていた擬似太陽は消え去り、冷たい風が辺りを包む。心底苦しそうに(はりつけ)にされた人間モドキが苦悶の喘ぎを吐いている。


 「幸いな。 〈人差し指〉をぶち込んだ。 直接触れてるわけじゃないから神秘性の削りは弱い。 長い事足止めは出来ないだろうが、避雷針代わりにはなる。 思う存分に撃ち込んでやれ」


 「恩に着るぜモーガン!」


 1秒間に何回も落雷が槍を目掛けて吸い込まれカサンドラの体躯から炭化した肉片がこぼれ落ちる。


 地面にいるグール達に手を伸ばす挙動。それを無線でモーガンに伝えると軽い返事が返って来る。


 「あ〜。 わかった。 そっちは続けといてもらえれば。 対処しとく」


 地面から夕焼けの様な光が放出されたと共にオレンジ色の火柱がグールの大軍を焼き尽くし、衝撃波が地面を伝って広がっていく様が見える。


 「いつ見てもエグいなぁ……愚者の太陽」


 魂の供給源を絶たれたカサンドラの姿がみるみる内に崩れ始める。肉体が崩れて槍が地面へと落ちて行く。


 「ふ〜。 終わった」


 「おつかれ〜。 結構やばかったんじゃない?」


 「マジで助かった。 後で奢らせてくれ。 海鮮(シーフード)旨い店知ってるんだ」


 雨雲が消え去り太陽が槍の表面を照らす。明滅する反射光が地面へと落ちると、黒い油の雨が降り始める。


 地面の草がチリチリと揚げ上がる音が周囲から鳴り響き、所々火の手が上がった。


 地面に突き刺さった槍の元へと近づくモーガン。炭状になったグールの残骸を踏み進めるたび、脆くなった残骸に穴が空いて内臓溜まりに足が沈む。


 「すまんな……遺体を辱める気は無いんだ」


 地面を穿った槍は赤熱した筋を浮かべており、降り落ちる油が触れるたびに油滴が音を立てて蒸発していく。


 槍を引き抜き強く握ると、魂が流れ込んで来る。心地の良いものじゃない。彼らの声を聴いていると正気を保てなくなりそうになる。


 「もう、行きなさい」


 モーガンがそう呟くと彼の背後から丸みを帯びた白い影が次々と抜けていく。黒い油が降る中それが妙に色濃く見える。


 モーガンが暫く瞼を下ろし、白い影が抜け終わると、赤熱した筋が浮かんでいた槍が真っ黒で光沢のある無機質な姿となり、彼の内側へと還っていく。


 背中の方から何かが潰れる音が響いた。その方へと顔を向けると、息も絶え絶えなカサンドラが荒い息を上げている。


 「……お前、額の目はどうした?」


 「……」


 何かを口にしようとした気はするが、少し動いた後彼女は全く動かなくなった。


 モーガンが無線を開き、レオへと繋ぐ。


 「レオさん。 対象沈黙しました。 遺骸の回収ですが、汚染範囲外まで運搬したほうが良いですか?」


 作戦室のスタッフから安堵の声があがる。バードアイの映像だけでは確証がなかったのだ、現地員の供述が取れて確証に変わったのだ


 「あぁ、頼む」


 「了解。 あとバードアイは早く離脱したほうが良い。 呼吸無しで数分は飛べるグリフィンとは言え、ガス吸入で昏睡しない確証は無いので」


 空を飛んでいるグリフィンの影が遠ざかっていく。


 随分と小さくなった遺体を、防水布に包むと遺骸を担ぎ上げる。


 「よっこいしょ。 あぁ、風呂入りてぇ」


 つづく

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