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狩人の生活  作者: 青海苔
第二章 星屑の反逆者達
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日陰の虫

 整然と並んだ付呪具の通路にカイルとデクスターが並んで歩いている。


 「……はは。 良いコレクションだねぇ。 見知った顔もちらほらと。 これ、全部君が?」


 「代々買い増して来て、この光景に。 そういう言いつけですので。 貴方の持ち込んだ遺物の特性上、保管に関しては餌が要りますし」


 「長年世話してれば、性質も割れるか……。 遺物というのは、半分生き物みたいな物だ。 微細な魔力を濾し取って機能を保持する。 多分、この時代の専門家にも知られた事だろうけどね」


 カイルが用具室の小部屋を開き、足元のバケツを動かす。


 「……隠し扉でもあるのかい?」


 「いいえ」


 カイルが床板に手を置いて魔力を流す。放射状に魔力が広がると共に刻印された魔力回路サーキットが浮かび上がる。


 重々しい駆動音と共に掃除用具が昇っていく。


 「へぇ。 昇降機か。 今だと結構安く作れるのかな?」


 「業者によりますよ。 さ、お先にどうぞ」


 地下へのボタンを押して、筐体の扉を閉じる。


 床板が視界から消え、黒い荒壁の光景が暫く続く。床板がスプリングに支えられる柔らかな軋みを感じるとともに、格子状の扉の隙間から涼しい風が入り込んでくる。


 カイルがエレベーターを降りてスイッチを押すと手前の電灯から明転し奥へと連鎖して行った。


 「……コレクションにしては、危ないの集めてるんだねぇ……」


 「どれも、使い方が失われた旧い遺物達です。 中には原始の遺物、つまり文明の始まりに作られた遺物も保管しています」


 「それって個人で保有して良いのかい? 狩人協会による中央集権化が進む昨今、見つかっては不味いだろうけど」


 「貴方が話さなければ良いんですよ。 荷物はこの先です。 どうぞこちらへ」


 デクスターがマナ結晶張りのケースを覗き込み、感嘆の息を漏らす。その視線の先に鎮座するは、あの杯だった。


 (……随分と酷使されたもんだ。 あの男、爽やかな顔に反して強欲な奴だったか)


 「……どうされました?」


 「いいや。 過去の情景に見入っていただけさ。 気にせず」


 かつての王が持ったとされる杯。それを懐かしむこの男はいったい、何時から生きているのか。そんな事に興味が湧き、青年は声を出すのだ。


 「……今はどういう名前を? それに、何年生きてるんです?」


 「ん〜、デクスターって今は名乗っているよ。 ほら、結構ヲタク気質だしさ。 何年か……何年。 数えるのも億劫な程としかね。 君の子孫たちよりも長生き出来るのは確かだよ」


 「……不老の術式。 そういう類いの人が極めて稀に居ると耳にしますが」


 「いんや。 そーいうのじゃないよ。 ただ単に体質さ。 腹八分は長生きに効果的だよ? 君もやったら?」


 「長生きする気はありませんので」


 そう言って立ち止まった先。そこは、巨大な石棺の前だった。経年劣化で凹凸の酷くなった蓋と表面には、古代象形文字が刻印されており、傍には粗末な絵が刻まれている。


 デクスターが重たい蓋に手を掛けると、思い入れのある家具を撫で付けるように手指を動かす。


 「……どういう考えなのかな。 カイル君」


 違和感を感じたデクスターが振り向くとカイルの傍には武装したオートマタが銃口を向けてデクスターを睨んでいた。


 「……どういうも何も。 貴方は生きていてはいけない人物で、そもそも人間であるかも怪しい。 先代から聴いていた様な人物じゃないと思っただけですよ」


 「……ふぅん。 なるほどね。 魔術の効果が薄まっているのか。 これは誤算だったよ。 君の先祖の命を救ってやった時に仕込んだ制約も風化するか。 服従の制約を掛けたんだがね……時間と共に綻びが生じたか、君の性格ゆえのことなのか……ま、どっちでも良いか……遺物に囲まれていると、少しずつ制約が剥がれるのかねぇ。 して、早く撃てばいいだろう。 チャンスだぞ?」


 カイルが手を上げたとともに夥しい数の銃声が響き渡った。彼の側のオートマタだけではなく、背後に控えた多くのオートマタが硝煙立ち昇る銃を構えていた。


 「……実際に見るまでは確証無かったですけど。 貴方は善人じゃない。 結局、他人を利用するが為だけに動いてる奴だと直感で判ったよ。 こういう立場に居ると良く遭遇する詐欺師と同じニオイがするんだ」


 石棺の前で穴だらけにされたデクスター。白いスーツがみるみるうちに紅く染まっていくのを見下ろし側のオートマタと一緒に死体を覗き込む。


 「協力するか、そうでないかはお前の目に任せる。 父はそう言っていました。 祖先を救ってくれた恩はありますが、下心ありきの手助けほど寒いものは無いでしょう」


 もう一度手を上げた瞬間、側のオートマタが銃口を向けた。その時だった、左側からの硝煙の香りが近くなった様な気がしたのだ。


 カイルが左を向くと、ライフルの銃口を顔面に向けたオートマタが引き金を絞っていたのだ。


 「……!」


 咄嗟に身を屈めると、発射された弾丸が右手側のオートマタの膝を打ち抜いた。咄嗟に応戦するオートマタの頭部をストックで殴り飛ばすとそのまま首根っこを掴んで配線を引き千切るのだ。


 「……撃て!」


 コッキング音と銃声が交互に鳴った。デクスターの前に立ちはだかったオートマタは素早く動き、カイルを救いに近寄ってきたオートマタを次々となぎ倒しては、胴体の動力源バイタルをぶち抜いて行く。まるであの個体だけは頭2つ抜き出た精鋭かの様な動きを見せる。


 同じ型番のオートマタを転がし、壊れた機体を遮蔽にして動き回る。見とれちまう程に鮮やかな動きって奴だ。


 「……覚悟の決まった坊っちゃんだ。 良いねぇ、躊躇いが無かった。 10代ゆえの全能感というか、まぁ大人顔負けの資産を持てば誰でも、調子こいちゃうだろうねぇ」


 デクスターが立ち上がり、体を捻ると食い込んだ弾丸が血飛沫とともに排出され、地面を転がる。 弾頭の先端が潰れており、そこには魔力がこびりついていた。


 「……親父から教わってなかったのかな? 命は大事にしろと、たかだかオートマタくらいで殺せると思うだなんて、カワイイとこあんじゃん。 まぁ、流石に数世代? そんなに続く魔術ってのは中々出来るもんじゃないな〜。 さて」


 細いデクスターの手がカイルの首を掴んで壁に押し付ける。


 「……ここで強く服従させておこうか。 ど〜しよっかな〜。 まぁ……自我の強い奴だ。 どんな事でフックが外れるか……リスクがあるな」


 力強く食い込んだ指が華奢な首を締め付けていく。


 「悪いねぇ。 君とはこれからもいい関係を持ちたいとは思ってたんだけどねぇ……こうも、穴だらけにされちゃ、ねぇ?」


 意識が遠のく中、一体のオートマタが他を鉄塊へと変貌させる金属音が鳴り響く。


 「だが、何故術式が綻んだ? 遺物の魔力で術式が歪みだなんて、励起状態でもあるまいし」


 「答え合わせはあの世でやってろ」


 カイルの声ではない。声の方へと目をむけると傀儡化させたオートマタの頭がすっ飛んで来た。魔力を纏わせた左腕で受け止めると細かく破砕されて飛び散り消えた。


 破片の間隙から覗くは、紅い2つの球体。割れた照明から産み落とされた暗闇の中をゆらゆらと漂い、近づいてくる。


 「……まさか」


 「んだよ。 俺ら顔馴染だっけか? ……あの夢以来だな。 天パ野郎」


 明るみに出た男は紅い上着を羽織り、見える肌には黒い刻印が浮かび上がっている。肉体強化。それもかなりの練度だ。文字を刻印しており、術式効果の底上げを狙っている術者の強かさが見て取れる。


 「まぁ、取り敢えずその子を離しな」


 「君なんて知らないな」


 そう言って瞬いた瞬間にはその男が1メートル弱の黒刀を構えて、懐へと潜り込んでいた。握り手を左脇下へと既に押し込んでおり、あとは右手側へと振り払うだけで体躯を切り離せる。殺す準備は整え済ました。迷いの無い純粋無垢な殺意を宿した瞳がデクスターを睨む。


 (これは避けた方が良いね)


 微かな血煙が白い照明に照らされる。不気味な虹が浮かんでは消え、デクスターは皮一枚で繋がった左腕を垂らし、モーガンに正対した。


 「おいおい、子供ごと殺す――」


 そう口を開いたと共に、視界が紅く染まった。何が起こったのか、理解にそう時間はかからない。圧縮魔力の一極集中放射。誰もが思い浮かぶ基礎的な技。 飛ぶ斬撃である。 名前は無い。


 隠し包丁、飾り包丁の如き斜め十字の傷が胸に刻まれている。


 「……それもやむ無し。 しかし、お前は子供と心中出来るほどに、おのが命を冷遇出来んと見える。 実際に防御に回ったろう? 似合ってるぜ、その風体。 発展途上国の露店に置いてそうで趣がある」


 「……モーガンさん。 どうしてここに?」


 「いんや、電話代払いに来たのと。 入口を飛び越えて侵入してる、浮かれた新郎みてぇな格好の不審者を見かけてね。 とにかく、早く避難しな。 非常口使って」


 「……非常口は無いです」


 「んぅぅ?! うそぉ?! 袋小路になってんの?! え〜? 地震来たらどうすんの〜?」


 「い、いや。 そもそも。 保管室なので普段は入らないんです」


 「……それ非常口作ってない理由になってなくない? 死人出たら責任取れるの?」


 「……あ、えっと。 次から作っておきます」


 「じゃあ、エレベーター? はよう行け!」


 デクスターが腕の断面を近づけて何かボソッと呟くと腕が修繕された。銃創も胸の切り傷ですら元通りだ。


 「あぁ……痛いなぁ……狩人ってのは、人の家に入って暴力振るっても良いってか?」


 「良いわけねぇだろカス。 ちゃんと正門の人に許可取ったもん。 ……もんって。 んん゛……! てか、狩人とか名乗ってないけどお前、俺の事やっぱり知ってんだろ? 猿芝居はやめろよ。 笑えてくる」


 「……は。 そうだねぇ。 久しいな。 とでも言っておけば良いかな? さて……取り引きしないか? 僕はそこの遺物を持ち帰りたいだけだ。 退いてくれるなら、そこの砂利ガキとモーガン。 命は取らない」


 「う〜。 キザなイキリゴミ野郎だこと。 やなこった。 退かして通れや、天パ野郎」


 「……はは。 イキリ若造が……」


 「老害のクセして沸点低いなぁ……隠居しろやクソジジイ」


 つづく



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