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狩人の生活  作者: 青海苔
第二章 星屑の反逆者達
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寝覚めの悪い朝

 木々の葉掠れ音と鳥の囀りで目を覚ました。体温の移った濡れタオルを取って体を引き起こし、窓の景色へと目を落とした。


 日差しが燦々(さんさん)と降り注ぐ中庭。砂利を敷き詰め、庭師によって計画的に整えられた柴垣に光を反射する水しぶき。


 「……これは中々、良いものだな……そのうち飽きるモンか」


 寝床も直さずに部屋を出る。宿泊施設ではないため案内表示があるわけではないが適当に歩き回る。広い屋敷だろうし、誰か居るだろうとほっつき歩くが中々に、その誰かと遭遇しないのだ。


 階段を下ると見覚えのある通路へと出た。呪具だとかを並べているあの通路だ。記憶と違いがあるのであれば、壮観とも言えたあの光景と比べて貧相であることだろうか。展示品のいくつかに抜けがあるのだ。それも1つや2つではない。


 「誰かいませんか?」


 妙に響く自分の声に些末な不安感を抱いたが構わず進む。


 心地良い風が肌を撫でる中、応接室から声が聞こえて来る。少し開いた扉の側へと近づくとその声がより一層大きくなった。


 「……」


 そう悲観した声を漏らす40代の男。その前に座っている男には見覚えがあった。あの夢で見た男だ。それに随分と昔の衣服を身に付けている事に気がついた。 生きている内に流行った服の流行とは違い、美術館の絵画等で目にしたような服装だ。


 (……いったい、これは? それにあの男、フェイスレスを殺した夢で見た男にそっくりだ……)


 見覚えのある男が憔悴しきった男に声を掛ける。


 「……なるほど。 それで私を頼ったと」


 「あぁ。 そうだ。 貴方なら妻を治せると耳にしたのでな……カネなら幾らでも、言い値でも良い。 とにかく治して欲しいんだ」


 デクスターに似た男が脚を組み直し、脇へと視線を向ける。何か気がついた素振りを見せると柔らかな声でこう呟いた。


 「お腹の子供もかい?」


 「……何故それを」


 「理由は知らなくとも良いですよ。 なんせ僕には"判っちゃう"んでね。 良いでしょう、貴方の奥さんにお腹の中にいる娘さん。 両方とも救って差し上げますよ」


 「……本当か?! い、幾ら欲しい?」


 モーガンが居ても立ってもいられずに声を出した。 こんな心が弱りきった相手から金を巻き上げる新興宗教の教祖ごっこを見せられては、止めない理由は無い。


 「おい、アンタ。 そいつに頼るのは止めといた方が良い」


 デクスターに似た男がモーガンの方を凝視している。 騙されそうになっている男は固まって動かなくなった自称治療師顔を覗き込んだ。


 「……どうしたんだ?」


 「……いいえ。 ……誰か居たように思えましてね。 他に人はいない筈ですよね?」


 「えぇ。 そのはずですが……」


 「まぁ、良いでしょう。 妻の病気を取り除く。 それをやれば、お腹の子供も問題無く産まれてくるでしょう。 報酬の話なんですが、頼みを聞いてもらうことってできますかね?」


 「えぇ、勿論」


 「呪具収集家の貴方にしか頼めない事です。 お金が欲しいわけじゃない。 この家の地下保管庫に私の所蔵する遺物を保管してほしいのです。 この家に飾られた呪具の数々、強大な魔力を放つ遺物を隠すに理想的な場所だ。 お願いできますか?」


 「それは構いませんが、どの期間保管すれば?」


 「貴方は気にする必要はありません。 取りに来るのは、貴方が死んだ後、貴方の子孫たちの時代ですからね。 さて、奥様の病気を治しましょうか。 案内してください」


 窓から落ちる日光が伸びると共に、壁の模様が変化する。デクスターに似た人物が病床に伏した女性の側へと立つ。


 男の手からは黄金の鎖が垂れている。祈りを捧げるロザリオと言うのは間違いだろう。 シンボルを上下逆さにした異端のロザリオと称した方が正確だ。


 「……それは?」


 「私の創った呪具。 無欲の秤と呼んでいますがね。 効果は今からご覧入れましょう」


 無欲の秤に赤黒い魔力がまとわりつき、病床の女へとかざした。 するとどうしたことか、肌に色艶が戻り、浅く短い呼吸から長く深い呼吸へと変わった。


 「……ま、こんなもんか」


 「……呪具と言ったか。 代償は何を」


 「人間の魂。 ……ふふ、冗談ですよ。 それよりも、約束。 忘れないでくださいね」


 再び時間が進み、デクスターに似た男が無欲な秤を手に巻き付けていた。そんな彼の立つ場所の景色はどこか朧げで消えかかっている。石造りの建物の壁が透けていて建物越しに空模様を確認できてしまう程だ。


 彼の動きに合わせてモーガンの見る景色も動いて行く。足を進めていないのに関わらず、コイツからは離れられない様だ。


 そんな薄い景色の中、奥から子供が現れる。もうその子の風体を見た瞬間、モーガンは何が起こるかを察したかの様に下ろす。


 「ねぇ、僕と握手してくれたら、このお金をあげるよ」


 「……ヤダ」


 「あれ……残念。 じゃあ、このお金全部あげるよ。 これだけあれば、家族を暫く養えるだろうけど。 どうかな」


 「……まぁ、握手だけなら。 約束だよ。 ちゃんと払うって」


 「……ふふふ。 あぁ〈約束〉だ」


 呪具を巻いた手で少年の手を握った途端、その子は地面へと倒れた。熱っぽい息が地面を湿らせ、背中を刺されているかのような痛みで動けなくなった。


 「約束は守るよ。 ほら、受け取れ」


 重たい銭袋を顔の前へと雑に捨てる。跳ねた泥が顔にかかったが、痛みのせいで報酬どころの話ではない。


 「早く仕舞わないと盗まれるぞ。 ははっ。それじゃ、お元気で。 ん〜……! 労働終わりぃ〜。 さぁて今日はなに食おうかなぁ♪」


 そう言うと、その男の姿が消えて行った。残ったのは倒れた少年。そして無力なモーガンだけだった。


 「……良いやつほど早く死ぬ」


 銭袋が消えて近くに荷車が現れた。少年の遺体に布がかけられ、死体回収人が荷物・・を積み込み、後には何も残らなかった。


 「妙な夢だ」


 モーガンがそう呟くと次に飛び込んできたのは、夢の中で見た天井そのものだった。


 「……酷い夢を見た」


 窓を見ると、先程と同じ光景が広がっている。違う点で言えば、警備員が数名うろついているくらいだろう。


 「おはようございます。モーガン様」


 「おはようございます。 モーガンで良いですよ。 年上の方から、様 なんてつけられるほど出来た人間じゃありませんから」


 「左様で。 では、そうしましょう。 さて、この後医者が検査に来ますので、ここでお待ちを」


 「そうしたいのは山々ですが。 少し通信回線を使わせて欲しいのですが、よろしいですか?」


 「えぇ、構いませんよ」


 「用途は聞かないんですか?」


 「えぇ。 主より貴方の詮索はしない事、要望は可能な限り叶えるようにと。 それと、午後ですが」


 「食事会ですか?」


 「えぇ。 話が早くて助かります。 どうぞこちらへ、電話は下の階です」


 モーガンが受話器を取り、電話先に取り次ぐ様に言うと馴染の声が聞こえて来る。


 「よぉ。 また声が聞けるとは嬉しいね」


 「はは。 ご無沙汰してます。 そっちは? 例の件は?」


 「あぁ、品行方正。 悪い事は一切しませんって感じだ。 あれ以来、学んだんだろうが近場で使徒事件は起きていない。 そっちの用件は? まさか、幽霊の次は、予知夢でも見たってか? 声がガサついてるぞ」


 「予知夢。 まぁ、そんなとこです。 もしかしたら近々、厄介なことが起こるかもしれません」


 「バックアップチームを向かわせるか?」


 「いいえ。 ウザがられるかもですが。 予告の予告みたいな話ですよ。 例の男が近い内に現れるかもって話です。 それだけ。 把握だけはしといてください」


 「なるほど。 わかった」


 つづく

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