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狩人の生活  作者: 青海苔
第二章 星屑の反逆者達
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余暇

 額に2つの傷を持った少女が幼い少年を連れて走っている。まったく光のない森の中をやせ細った体躯で駆けて行く。


 もう何時間も走り続けた。クタクタだ。もう走れ無い筈なのに、幼い二人はやせ細った脚を止めることはなかった。いいや、止められなかったのだ。


 「ふ〜……! ふ〜……!」


 全身の毛穴から汗が吹き出しては、夜風が冷やして行く。されど、内から発せられる熱と興奮からすれば、こんな寒さなど涼風に過ぎない。


 行く道すら見えない原生林を進み、ひと齧りで命を奪う事のできる怪物の心配すらせずに、ひたすら、ひたすらに走る。


 ふと目を引いた木の洞へと駆け込む。じわりと伝う汗が蒸発し、洞の中へと滞留する。


 2時間、4時間。目の前の光景に一切の変化は無い。子供達が日が昇る頃に瞼を下ろすと再び薄暗い世界の中で目が覚める。


 「……あいつらもう来ない?」


 「わかんない」


 「……どうする?」


 「簡単さ。 どれだけ時間がかかろうとも、必ず復讐する……その為に皆死んだ。 さて、腹が減ったろう、食事にしよう」


 少女と言うには落ち着き払った目をしている。背負っていた粗末なリュックに手を突っ込みながら、少年へと視線を向けた。


 「……大丈夫。 どうやら、倒されたみたいだし」


 あどけない少女の表情ではなく、遊び慣れた余裕のある女の表情だった。


 「……倒された……? 一体誰が?」


 「……誰かな? 誰の事だろ……? あれ……?」


 少女の両目には無限大の形をした重なった瞳が宿り、涙がこぼれると共に1つに収束する。


 その少年が見た光景。それがどうも美しく、脳にこびりついて焦げるを感じた。


 「……とにかく、食べようか」


 「……あ。 うん。 ……でもすぐに無くなるよ。 どうするの?」


 「……親切な人も居るだろうから、助けてもらおう……ふふふ……助けてもらうか……」


 少女が取り出した保存食を弟へと分ける前に口へと運ぶ。干し肉にしてはえらく茶色っぽく、土気色。馴染みのある五指のついた、簡素な干し肉を噛み切りながら不敵な笑みを浮かべた。


 赤く腫れた目元にしてはえらく楽しそうだ。その涙が少女のものなのか、はたまた別の誰かか。


 目を覚ましたデクスターが毛布を退けて上半身裸の姿で椅子に座る。空かした窓から入ってくる風を浴びながら年季の入った写本を開く。


 「やっぱし、この時代の魔道書が一番唆るなぁ……ふふ、バ狩人(カりゅうど)の方には撒き餌に食いつくだろうし……こっちはじっくり用意しますかねぇ……とはいえ、モーガンだな……つくづく、赤目の術者とは縁があるね……」


 「カスみたいな腐れ縁だがね……。 まったく、純粋な単一なら詰ませるのは楽だが、こいつは難しい。 捻れた術式か。 時代による応用の多様化か、はたまた、進化の産物か……使徒の素体にしてみても面白そうだ……男に興味が湧くだなんてな」


 大きな地鳴りのような音が響く。真っ青な晴れた空模様の中に赤い光が焼け付いている。


 目にも止まらぬ速さで、血飛沫の中を飛び跳ねている。術式、拒絶する中指。相手の術式を打ち消す特性を有した樹脂製のデッケぇ解体包丁だ。


 「……んぅぅゔ!」


 唸り声を上げたモーガンの側に飛ぶ生首。おおよそ、人間の頭部の5倍はある、単眼の生首だ。


 「……ったく。 サイクロプスってのは、本当に吐息が臭いな。 掃除を怠って虫の湧いた夏場の排水口みたいな臭い……んでもって」


 「……バケモンの血液シャワーか。 小汚ねぇな……マジで。 ま、山奥の生存競争に敗れた個体が、勝てると見込んで降りてきたんだろうが」


 アッシュランドの衛兵がモーガンを怯えた目で見つめる。人間に似た化け物を見つめる様な顔だ。


 転がってきた生首を見下ろして嫌そうに睨む姿。強者故の余裕か、虚無感に苛まれた男の表情か。


 「負け犬はどこ行っても負けるモンさ。 デケェ図体あるクセにお前ら化け物は技巧を捨ててる。 だから死ぬんだ。 こんな感じでな」


 地面に拳をつくかの様な体制。地面に食い込んだ拳はモーガンを叩き潰す物の筈だった。それがこのザマだ。


 地鳴りのような倒壊音に背中を向けながら、自警団の方へと歩いて行く。頭からかぶった血がシャツを肌へと密着させ、バキバキに割れた腹筋の筋を浮かび上がらせている。


 逞しい手に握られた術式が液化して地面を汚す。数秒後には可燃性の強い透明な気体へと変わり、景色を歪ませている。


 「……お疲れさまでした。 いやぁ……これ程の」


 「……あぁ。 自分はこれで。 報酬は口座に……お疲れさまでした」


 そうやって暴れるだけ暴れたまま、後処理は彼らに投げたモーガンの前に見覚えのある女が現れた。


 「……不機嫌だなぁ、モーガン」


 「……そりゃ、こんな格好になって生臭ければ、こんな表情にもなるでしょ」


 「……恋人に会えず、メランコリックか?」


 「愛想つかされてないか心配だな。 ……せっかく、忘れてたのに思い出させるなよ」


 「じゃあ、一旦帰れば?」


 「なんそれ。 やる気ねぇなら帰れ的な? いつの時代の体育会系の寒い奴だっての。 中身おっさんなの?」


 「うっせぇなァ……ここのところ使徒の騒動も落ち着いてるから、帰っても良いってお上の判断だってよ。 プライベートの時間が持てなくて有能が抜ける事を懸念してんのさ」


 「……実際、自分は暴れるお仕事だし。 ……かと言ってもねぇ……」


 「ん〜? なんだ、早くも倦怠期か?」


 「自分が抜けても大丈夫かねぇ……有事の際に駆けつけられない場合は……」


 「家に転移門あるんだろ? すぐに来れるだろ。 休んでこいよ、ここ数日連続で狩猟だろ。 息抜きして来いよ」


 「カフカ……なんか企んでる?」


 「うっせ、消えろ」


 しばらく後。


 「ってなわけで、相方から煙たがられたので、帰宅で〜す」


 「おっ。 お帰り大将。 なんか窶れた?」


 「仕事は精神をすり減らすからな。 苦手な相手だと尚のこと……」


 「で、今回はどんな厄介事に首を突っ込んでるんだ?」


 「それは言えねぇな。 さて、ささやかな休暇を楽しもう」


 「お。 なにするよ」


 「アリスさんが帰ってくるまで寝る」


 「あっそ」


つづく

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