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狩人の生活  作者: 青海苔
第二章 星屑の反逆者達
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羽休め

 分析官が朝のコーヒーを味わっていると、人の気配が近づいて来た。背の低いソファーにそれに合わせたテーブルには優しくも快活な日差しが射し込み、反射した日光が気配の主を照らした。


 「よぉ。 腕はもう良いのか?」


 地下水路の討伐。あれから3日が経った。安いTシャツの左裾から伸びる腕は少し色素が薄く、若干ふやけたかのような形をしている。


 「まぁ。 問題なく動きますから、問題は無いですね」


 そんな左手には同じカップが握られており、そんなに重たくは無いだろうに、カタカタと揺れ動いているのだ。


 概ねの機能は元通りだが、細部は未だに未完成。1週間もすれば完治するだろうが、常人では()ず有り得ない治癒速度だ。


 「しっかし、治癒を施したと言えど、2日で元通りに生え揃うその体は……どうなってるんだ?」


 側のゴミ箱には付呪の施された包帯と血の滲んだガーゼが放り込まれている。既に魔力の気は全て抜けており、今はただの一般ゴミだ。


 「……生まれつき体が頑丈なんです。 解りますよ。 気味が悪いって顔をしてる」


 「いいや、そんな事は」


 「……ははは。 良いんですよ。 皆さんは大体そういう顔になりますからね……。 中には、直球で化け物呼ばわりしてくる方だって居ますから。 まぁ、慣れたものですよ。 人が親しみやすい形をした、化け物なんじゃないかと時折思いますし」


 先日持って帰ってきた使徒を口実に狩人協会が派遣する人員を増やしたと言う。この国のお偉方が知ってか知らないかは不明だが、地下水路の使徒についての調査の全面協力を約束すると発表があった事は記憶に新しい。


 「……ま、それで今回の功労者に是非とも会いたいと言ってる奴が出てきてね」


 「それは?」


 分析官が腕を組んで、脚を組み替える。


 「ここアッシュランドの七曜協会の偉い人」


 穏やかな表情であったモーガンの眉間にシワが寄り、あからさまに嫌そうな顔をしている。


 「……あまり、徳の高い坊主とお近づきにはなりたくないな……」


 「なぁにさ、宗教は嫌いか?」


 「ん。 美人なケツデカ姉ちゃんに道を聞かれてですね。 案内したら喫茶店でゴツいおっさん交えて勧誘された事があったんで……まぁ、苦手っすわ。 それに」


 「それに?」


 「信仰心で金儲けしてる連中はどうも苦手でね。 前のなんて凄かった。 免罪符を売ってたんだ。 あの世の沙汰も金次第ってやつ」


 生産性の無い愚痴話が始まりそうな雰囲気を察した彼女は、明日の予定について話し始める。


 「はいはい。 愚痴っぽい話はこのくらいにしましょう。 兎にも角にも、上流階級様とお近づきになれるんだし、狩人協会のお偉方も上手くやって欲しいってね」


 「わざわざ現場職の私を出す必要が?」


 「いいや。 我々と言った方が良いかな。 狩人協会全員が招かれる。 あくまでも、あの使徒を殺したのは、チームでの功績。 それとも、モーガンがやったと馬鹿正直に言ったほうが良いかな? ……どした?」


 モーガンが少しだけ肩を震わせ、頭を抱えている。社会的地位が高い相手との祝賀会には一切の良い思い出が無い。死にかけるのも勘弁だと目が訴えている。


 「……お偉方……宴会……い、嫌な予感がする……」


 「……なんで?」


 「だぁって! 知ってます? 前の飲み会でカッピカピの干物肉にされた身にしては、かるぅいトラウマなんですってば!」


 モーガンの経歴については彼女も知っている。華々しいと言うか、泊がついた経歴を持つ割に、正面のソファーで座る男がなんとも頼りなく見えるのだ。


 「……ほぉ。 なんと情けない……ズズズ。 ふぅ〜。 良いじゃん。 君強いし」


 「……絶対今回も碌でもない事が起こる。 ……絶対だ。 こういうことに関しては脅威のエンカウント率を誇る我が人生の直感が言ってる……!」


 「大丈夫。 死にかけても、今回は周りに狩人が大勢いるし。 腕が吹き飛んでも、治療費はタダだし」


 「……えぇ? 前回も大勢居たし……生えるからと言って痛くない訳じゃ無いんですケド……まぁ、良いか。 今日は休みだ! 今日は一歩も動かないぞ!」


 「……駄目男。 聴いてた話と実物は違うなぁ、なんか残念だよ」


 ソファーの腕置きに頭を預けたまま、分析官の方へと顔を向ける。


 「………………どんな話を?」


 「……そうですね。 手に負えない化け物を単独で倒し、美人なエルフと交際。 獣人と孤児を引き取っているロリコン」


 そう言うと、この男は納得したかのようで、あぁ、確かに。と呟く。


 薄々、周りからはそう見えているのでは? といった疑念が形ある確信へと変わったかのような表情だ。


 「しかも女ばっかりなんだよな…………やっぱり、ロリコン呼ばわりされてるのかなぁ……。 エルフの皆は未だに冷たい感じの応対を……子供引き取るのマジで大変なのに……福祉課に詰められ、女には嫌な目で見られるし…………ぬ〜ん」


 背もたれの方へと顔を向けたモーガンへと冷ややかな視線を送る。


 「……あ。 すねた。 じゃあ、福祉課に渡して里親にでも出せばいいじゃん」


 「普通の子供ならそれで良いですが……まぁ、訳ありなんですよ。 常人じゃ見えないモノまで見えるタイプなんで……同じ景色を見れる里親を探すのも難易度高いですし。 フェレスドレアの王室に打診がありましたが、子供のうちから労働は可愛そうだし」


 「情が湧いて引くに引けないか。 まぁ、親父(オヤジ)として頑張りな」


 「あいあい。 ……待てよ。 明日着ていく服が無い。 まさか……」


 「いんや、昨日正装が届いたから、それ着て出席な」


 「……あの服嫌いなんだけどなぁ。 肩が凝るし、通気性悪いし。 動きにくい」


 「長い事やってるなら慣れろよ。 それに、今回はお互いの腹の探り合いだ。 呑気に祝賀会をしてるときとは違って結構雰囲気悪くてタノシイよぉ〜?」


 「それもそうっすね。 美味い飯食えるなら文句は無いや。 実際に目にするのも悪くないか。 薬物を流通させてる連中をボコボコにしたとして得られる情報は知れてるでしょうし。 それに……」


 「?」


 「自前で用意してた使徒をぶっ潰した本人が目の前に来りゃ、尻尾を出すかも知れません。 楽しくなってきた……ふふふ。 枕を高くして眠れる」


 「人と話すならコッチを見なよ」


 「今日は完全に無気力モードなんです」


 「ふうん。 そう」


 分析官が席を立って別の部屋へと立ち去る。それに気が付かないモーガンは続けて昼飯をどうするかを質問し続ける。


 「……あれ? 無視してます? お〜い。 ……居ないじゃん。 ……………寝よ」


 つづく

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