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狩人の生活  作者: 青海苔
第二章 星屑の反逆者達
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無縁墓地

 初めは悪臭で顔を歪めるほどだったが、随分と慣れたものだ。あいも変わらず真っ暗な排水路を進んでいると、少し広い空間へとたどり着いた。


 「……排水路にしては似合わない場所だな………」


 無線機から分析官の声が響いてくる。何があったのか。その問いには短く答えようとしたが言葉に詰まった。


 それもそのはずだ。 浄化槽でもあるんだろうと踏んでいた地下に、遺跡の様なものが鎮座しているのだから。


 「……数世紀前の建築物。 と言えば良いのか……昔の街をそのまま地下に流用しているっぽいです」


 よく見てみると手元の壁に馬を停める金具までついている。過去の文明が当時のまま保存されている。


 水路を外れて過去の街を歩いて散策する。水音が背中から遠のいて行くにつれて別のものが近づいて来た。


 生臭く、膿のような酸っぱい臭いだ。石畳のクセして妙に湿り気と弾力のある感触。 フラッシュライトのスイッチに親指をのせて一瞬悩んだが、どうせ誰もいないだろうと力を込める。


 (……うえ。 気持ち悪)


 床だけではない。壁に天井、全てに乳白色の粘菌状の何かが覆われている。 


 「これは……変異体か……」


 無線機のトリガーを引き込んで連絡を試みる。


 「変異体を確認した。 サンプルを採取して地上に戻る」 


 「……」


 「……聴こえてるか。 ふ〜」


 解剖用のナイフを取り出し地面へと近づく。肉の管を切り取ろうと切れ目を入れた。瞬間、妙な違和感が目の前に飛び込んで来る。


 「……これは」


 粘液塗れの肉に丸みの帯びた何かが浮かんでくる。誰でも馴染みのある形。目玉の様な何かだ。黄色く発光したその目玉はじっとモーガンを睨みつけている。


 「……よ……せ」


 誰かがそう呟いた。声の方へと目を向けると、壁の肉塊に鼻と口を模した造形物が浮かび上がり腐敗臭混じりの吐息を吐き出している。


 (……幻覚か……? どうも、他人が居ないと判断がつかないな)


 「……やぁ、何故こんなところに?」


 「……つれ……こられた……。 わ……だけじゃない。 みぃんな……そぅ。 だった」


 「みんな? 皆って?」


 下ろしたナイフが深く肉を切ったその時だった。傷口から魔力の光が走り、大樹の根本から枝先へと走り抜けるかのように光が動く。


 「そりゃあ、食われた皆だよ」


 そう言われ、目に入ってきた光景に戦慄した。無数の人面と黄色い目玉が所狭しと密集し、それらすべてがモーガンへと向けられている。


 「…………どうやら。 当たりだったらしいな。 それで? ビビって出て行くとでも? ん? 恐らく今まで、こういった馬鹿を追い出して来たんだろうな……〈嘲笑う人差し指〉」


 槍を構え、体重を預けるようによりかかる。


 「……見た感じ、ざっと600人から800人。 取り込んだ神秘性は、そのくらいかな? んぅ……」


 首筋を伸ばし、股関節を伸ばす。首をゴキゴキと鳴らすと、槍を肉塊に突き立てる。乾いた砂に水を落としたかのように肉塊が干上がっていく。


 その代わりにモーガンの握る槍には人の魂が移り住み、口々に自身の体験をモーガンへと吐き捨てていく。


 「……先手は打った。 お前には私を殺さないぞ? 例えば――」


 汚水を掬い上げるほどの大きな触手がモーガンの上から覆い被さろうと倒れてくる。


 「不意打ちとか使ってもさ」


 槍の先端が形を変え、半分以上が刃物状に変化している。ぶった切られた触手が轟音と共に壁に叩きつけられ、小汚い体液を撒き散らしている。その肉塊が内に心臓を宿しているかの様に。


 「使ったのは他人の命だ。 私の魔力ではない。 もっとも、自分で魔力をロクに精製出来ない使徒風情と同じやり方をするのは……いささか、美しさに欠けるとは思うがね……」


 脈打つ触手へと術式をぶっ刺すと再び魂の捕食を始める。


 「……この魂が矢継ぎ早に言ってる様にだ。 クズ寄りの生活困窮者を釣って連れ込んだんだろう……ったく。 クスリ、セックス。 博打。 酒。 薄っぺらい人生が透けて見える。 そんなものの為に死んでしまうとは情けないが、まぁ生き返らん。 精々上手く活用させてもらうよ」


 触手が干上がり、砂状になって崩れ去る。


 「……普通の人間と思って質量でゴリ押しすんなよ。 つまらんぞ。 レーザー光線だの何だの飛ばして来い。 そっちの方が面白い」


 広がる肉壁が一点を基準にして集まり圧縮されていく。一点に集まった魂が不完全で蛇足ありきの肉体を生み出して顕現する。


 六本指の手足。上半身は女で下半身は中性。尻の穴から飛び出る部位は卵でパンパンに腫れ上がった女王蟻の腹の様である。


 「使徒(ムシケラ)が……それ程に人の姿が羨ましいか?」


 「〈タール・ボウイ〉。 さっさと首を引き千切って終いにしよう。 首から下は要らん。 全部燃やしちまえ! 行くぞ!」


 モーガンの目尻から順に黒色の刻印が首から下。鎖骨から下腹部へと太い部位から細い指先へ。巡らせ終わったと同時に目の前に使徒が迫っている。


 「……!」


 振り下ろされた拳を左腕で受ける。 左腕の内側に激痛が走ると粘性のある液体のように肉が沸騰して地面へと流れ落ちていく。


 「……振動による加熱……いいや。 沸騰の状態を強制させる術式か……良いね。 誰から与えられた術式なんだろうな」


 肉の無くなった左手首から上の骨がボロボロと地面へと落ちる。腰下、そして膝上にまで落下しようとしている。


 「……私の術式はこの腕がメインでな……本当に、殺しにだけは長所を持つ厄介な術式だよ……〈タール・ボウイ・レッドラム〉! その首焼き切ってくれる!!」


 人差し指の抜け落ちた〈タール・ボウイ〉の右手が首根っこを掴み、中指と親指で首を締め付けていく。


 甘えてもう一撃食らわせようと振りかざした使徒の左掌と左肩を槍でぶち抜いて切っ先に釣り針に似たカエシを作って拘束すると、モーガンは引火した使徒の首根っこを見つめていた。


 「……その首置いて行け」


 落ちた首を拾って背中の鞄へと詰めるとモーガンが眉間にシワを寄せた。左腕の肘から上が無くなって痛むのと同時に、使徒の死骸をどうするかを考えていなかったのだ。


 「あぁ……もしもし。 使徒の死体が出たんですが」


 「……そっか。 おっけ〜。 匿名で通報しとくよ。 狩人協会の息がかかった奴にね。 首だけ持って帰れば良いさ。 怪我は?」


 「左腕が無くなっちまった」


 「じゃあ、治癒術式が要るね。 取り敢えず、自分の腕を持って帰って来てよ」


 「了解、では後で。 …………とはいえ、骨しか残ってないんですがね……」


 つづく

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