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狩人の生活  作者: 青海苔
第二章 星屑の反逆者達
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虱潰し

 軽装鎧の兵士が路地裏へと集まり、うめき声を上げる男を取り囲む。


 「最近、多いですよね。 売人狩り。今月だけで13人。 相手は杖で武装した魔術師ばかり。 この間は単位……の魔術師でしたか。 あれがボコボコにされて留置所前に放られていたとか」


 「今回は律儀に何処に縛って置いて来たのかも連絡があった。 受付けた奴によれば、音声が加工されてたらしい。 まぁ、魔術師相手に素手で喧嘩して勝つんだ。 しかも大体の奴が……」


 うめき声を上げた男が衛兵を睨みつけ、早くこの縄を解くようにわめき散らしている。衛兵が何があったかと問うと、この男の様に何も覚えていないとの一点張りだ。


 「世直し系犯罪者が湧いて出てきたってか。 これ程、腕っぷしの強い奴は珍しい」


 「実際に英雄視する人間も出て来てますよ」


 「過激な事は極端な思考をするバカが同調するからな。 やってる事はただの犯罪だろ? それか、いい歳こいて考えが稚拙なんだろうさ。 まぁ。こうやって売人を潰せるのは、こっちとしても助かるが」


 「じゃ、とっとと檻に入れましょうかね。 おぉ……? お前は手配書で見たことがある顔だな……商売目的の薬物所持は腕と脚の1本ずつ切断だからな。 ……はは。 ご愁傷さま」


 「しっかし、酷いやられ方だ。 魔術師のクセにここまでボコボコにやられるとは。 相手も魔術師だろうが一切の痕跡を残さずにこんな芸当が出来るとは思えんがね」


 「どんな奴なんでしょう」


 「さぁ、全身黒タイツ姿かもな」


 「それだと笑えますね」


 紙袋に食料を詰めた白髪の男が衛兵の後ろを通っていく。サングラスを掛けた白髪の男。


 檻を引く馬の横を通って大通りへと出ると、サングラスを掛けたモーガンが青空を見上げた。


 (今日もそれなりに平和だな……)


 新女王のプロパガンダに染まる街。随分と美しく、幸が薄そうな女だと頭で念じながら、彼女の映し出された看板の下を通り抜ける。


 活気に溢れ、新女王を歓迎する人が多いように思える。 批判しようものなら取っ捕まり、何処か人気のない場所へと連れて行かれるとなれば当然とも言える。


 (今日は人が来るんだったか……)


 滞在用の賃貸へと足を踏み入れ、鍵を脇の(かな)トレーへと投げ入れる。入口の梁には油で造形された蝿型の術式が入口を見張っている。


 「……」


 電気の通ったラジオからは音声が流れ、今日もどうでもいい平和なニュースが流れる。


 「空き巣には入られていないか」


 紙袋をソファーテーブルへと広げ軽い食料をぶちまける。ひっくり返して医薬品を拾って包装を開く。


 「術式使えなきゃ、タダの人間……あぁ……ひでぇ……まえの単一の術者は随分と厄介な奴だった……10秒以内に反撃してくるとは……油断した」


 腹のガーゼを取ると赤く腫れた縫合傷。ただ単にナイフで抉られただとかの傷なら、すぐに塞がるが、術式の傷である。


 皮膚が足りておらず、残った皮膚を無理やり引っ張って繋げているのが判る。身体の再生力とは驚くもので、こんな雑な処置でも塞ごうとしている。


 「腐敗の魔術師。 奴を再起不能にできたのは幸いだ」


 テーブルの紙皿には干からびた蛆虫が乗っている。身体の組織が壊死した部分を除去するには、こいつ等を傷口に住まわせ包帯で包むのが手っ取り早い。


 傷口に抗生物質を注射器から垂らし浴びせると、ナイフを手にとって切っ先を下に向ける。


 「皮膚を伸ばすか……ちょっと痛いが……まぁ、何度もやってる…………んぅ……!」


 傷口に垂直になるように胸の下付近と腰の上側の皮膚に切れ込みを何本か入れると、縫合した辺の皮膚に余裕が出てきた。


 「おっけ……ふ〜……」


 垂れて来た血を布で拭き取ると、抗生物質を塗り、保護を終えると、今朝の飲み残したコーヒーを口に含む。


 「これで多少は動きやすくなった……イテテ。 あぁ……少し眠るか……」


 腕と脚を組みながら眠りにつくと、入口のドアから音が鳴っている事に気がついた。視界に入って来る時計の短針が数目盛り分動いたのを確認すると、腹の傷を庇いながら入口へと向かう。


 「……どちらさんで?」


 「荷物を届けに来ました〜」


 荷物なんて頼んではいないが、モーガンは扉を開いて招き入れた。女が大きな荷物を搬入すると扉を閉めて内鍵を回す。


 「……貴方が……分析官?」


 「そうです。 あぁ、はじめまして。 ええっと……貴方が例の……モーガンさんですか?」


 「えぇ。 はじめまして」


 天使事件。フェイスレスの一件はそう呼称されるようになったが、まさか討ち取った魔術師がこうも若いとは。


 「……お若いですね〜」


 「ありがとうございます。 タダの若造なだけですので。 ……では早速、仕事に取り掛かりましょうか。 お上から賜ってた薬物の流れについてですけど……」


 「とりあえず、晩御飯にしましょ? 長旅だったものでね……」


 「あぁ……そういえば、もうそんな時間でしたか。 かと言っても、チーズにハム、食パンくらいしか無いですが」


 「じゃ、それで」


 食事を取りながらモーガンがコーヒーを啜る。


 「それじゃ、既に麻薬販売ルートを調べたっての? どうやって?」


 「一筆書いて貰っただけですよ。 殺さない代わりに洗いざらい吐いてもらう。 そんでもって、全て忘れる。 命を取られるよりもマシな契約です……。 私の〈小指〉はもとはこういう使い方をするんですよ」


 「……へぇ。 契約を飲ませる。 王室襲撃事件の件を確認したけど、傀儡に特化した術だと思っていたが……特務クラスを与えられた理由が判った気がするよ」


 「……どうも。 貴方の術式は? 魔術師なんでしょう?」


 「隠してもお見通しですか。 探知犬にもバレないのに……そうですね……。 まぁ、戦闘に特化したものではないとだけ」


 「ふふ。 用心深いチームメイトは歓迎です……さてと、そちらも手ぶらで来たわけでは無いでしょう?」


 「まぁ。 良い知らせは無いけどね……相変わらず新しい王室は狩人協会の調査を渋ってる」


 「だが、ここに来られたということは?」


 「部分的に狩人協会の介入を認めたってこと。 変異体使徒の目撃多数。 狩人資本の情報通信設備の支援打ち切り、設備撤収をチラつかせると……手のひら返して来たのさ」


 「じゃあ、治安維持部隊と協力して調べ物をすると?」


 「いいや、そっちは別の連中が動いてる。 あくまでも、コッチは日陰者のやり方を任されたんだ。 どうもアッチは現場の連中と上手く行ってないらしくて。 現状で言えば、モーガンの活動は非公認。 とっ捕まるとコッチも支援出来ないのさ」


 「……なるほど。 政治の中に関係者が食い込んでいると仮定してるんですね。 他に疑っている事は?」


 「変異体の譲渡を渋る。 回収した使徒を自国で研究しているらしい。 魔術師協会に高値で売りつけようと営業を掛けてきただとか」


 「……う〜ん。 芳しい。 魔術師協会の証言ですか? 営業を云々は」


 「そうなるね」


 「嘘か本当かは怪しいですが、連中の欲しがりそうな物があるのか……いちいち口を挟んできたってのは、愉快な兆候ですね……コッチも調べて気を引くものを見つけたんですが、見ますか?」


 モーガンが地図を持って来ると複数箇所に印が記されていた。


 「これは?」


 「変異体が確認されたと推察される位置ですよ。 貸倉庫、廃業した病院。 留置所。 はたまた、民家の庭」


 「……何の関連性もない様に見えるけど」


 「どれもマンホールのある場所と重なるんです。 流石に地下施設の設計図は手に入らないので邪推するしか無いのですが……恐らく地下の何処かで使徒が発生してる可能性が……国に対して設計図を求めるのはやめときましょう……今日はココに……潜る予定です」


 「……何故、マンホールの中に執着してるんで? それなりに理由があっての事だとは思うけど」


 「一度潜った時なんですが、壁に跡が残ってまして。 こう……削り取った様な跡が。 幾つもね。 液状化した使徒が発見されたと思われる……ここ、特にその痕跡が多かった。 地下(ちか)下水道(げすいどう)へと続く水の通り道。 それの本流らしい場所に目星がついたので今晩にでも潜る予定です」


 「……そ。 じゃあ、私はどうすれば」


 「……それは」


 新月で真っ暗な夜道を進み、時折見える街灯の照らす領域を避けながら重々しい蓋を工具でこじ開ける。


 (……ビンゴ)


 重々しい擦過音がなり終わると上からモーガンが飛び降りて来た。全身黒い服に黒い靴。誰がどう言おうと怪しい格好をした奴である。


 「……で、お留守番をしてるけど、そっちはどんな感じ?」


 「(まだなんとも。 入ったばかりで……なんとも言えないね。 ただ、水路の幅が広い。 おそらく本流だと思う)」


 「気分は?」


 「(テーマパークに来た気分だよ。 なんせ、変異した使徒と曲がり角で遭遇するかもだし)」


 「まぁ、銃火器を持たずに入るのは心細いだろうけど、肉体強化でどうにか出来るっしょ?」


 「(言ってくれるね……山刀と……バールのようなものしか装備が無いんだ。 愚痴りたくもなる)」


 「ん~ん。 ヤバくなったら言ってね。 あぁ、多分クサくなってると思うから、風呂沸かしとくね〜」


 「……了解。 ……ふ〜。 まぁ、緊張は取れたかな……」


 モーガンが地上の地図を記憶から引っ張り出し、手元にあるコンパスで発生源と考えられる地点と今の場所を照合する。


 怪しい場所に最も近い場所から潜ったわけではない。少し離れた場所からの侵入だ。潜ったすぐ下に怪物が居たり、警備が居た場合はその時点で詰みの状況に近くなってしまう。


 「……なぁに、ただの仕事だ。 緊張しなくてもいい……」


 そう言い聞かせると、暗闇に目を慣らし終えたモーガンが奥へと消えていく。


 つづく

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